俺は彼女を諦めない
遠藤良二
俺は彼女を諦めない
(俺は絶対諦めない! あの子は俺のものだ!) 俺の名前は、
俺には好きな子がいる。同じ高校で相手も背が割と高く、バスケ部だった。百七十センチくらいと聞いている。名前は、
雪江が少しだけ好きな男というのは、俺や雪江と同じ高校に通っていた。 名前は
俺が雪江の気持ちをなぜ知っているかというと、雪江本人から聞いたのだ。
俺は雪江のまさかの告白で、悔しかった。でも、彼女は俺の気持ちは知らないから仕方ないのかもしれない。恋愛は言ったもん勝ち、だと俺は思っている。というのは、先に告白した方が有利なんじゃないか、と思う。まあ、フラれる場合があるから、一概には言えないが。
今は昼休み。俺は嫌な光景を見てしまった。雪江と鈴木が一緒に歩いているところを街で見かけたのだ。俺は車を運転していた。あいつら既に付き合っているのかな。雪江に訊いてみよう。
俺は職場に戻り、LINEを雪江に送った。<雪江は今、鈴木さんと付き合っているのか?> でも、お昼休憩時間内ではLINEはこなかった。(楽しく鈴木と一緒にいるのかな)。そう考えただけでムカついてくる。
俺は携帯電話のショップで働いている。勤務時間は十時~十九時まで。休憩は昼休みと、夕方に十五分ある。その十五分休みの時にLINEがきているか確認してみよう。
時刻は十五時二十五分。何と、お客さんとして雪江がショップに来てくれた。LINEがきているか確認は出来ていないけれど。十五分休憩は暇になった時間帯に店長の指示で入る。俺は周りの客と同じように接した。「いらっしゃいませ」 俺は笑顔で(予約もしないできたんだな)と思いながら敬語で、「どういったご用件ですか?」と言った後に、鈴木も来た。苛っとした。(一緒に来やがった)。でも、相手が客である以上、そういう気持ちを顔に出すわけにはいかない。「機種変したいんですけど」そこから接客が始まった。
機種変が終わるまで、約一時間半かかった。鈴木は黙って見ている。俺は雪江にいろいろと説明した。手続きもようやく終わり、彼女は「大城さん、ありがとう」と名指しで言った。鈴木は驚いた様子で、「知り合いか?」と言った。「うん、高校の頃の先輩」俺は名指しでそう言ってくれて嬉しかった。雪江たちが立ち上がったので、俺も立ち上がり、「ありがとうございました」と言って頭を下げた。雪江は、「じゃあ、また」と言うので俺は「またね」と手を振った。
店長に声を掛けられた。「友達か?」と。「はい、高校の頃の後輩です」と言った。「その割にはちゃんとお客様として対応していていい接客だったぞ」「ありがとうございます」 店長に褒められて俺は嬉しかった。(これくらいできるさ)十五分休憩は十六時三十分からになった。俺はポケットに入っているスマホを見てLINEを開いてみると、きていた。<今はまだ、付き合ってないですよ><付き合いたいの?><出来れば> 彼女のLINEを見て、絶望的になった。(付き合いたいのか……)人の気持ちを変えるのは難しいけれど、食い下がった。<俺のことはどう思ってる?> とりあえず、ここで十五分休憩は終わった。売り場に戻り、辺りを窺うとお客が三人来ていた。「いらっしゃいませ」と俺は言った。
十九時までLINEの返事を気にしながら働いた。退勤のタイムカードを押し、「お疲れ様でーす」と言いながら店から出た。外はまだ夏なので、真っ暗ではなかった。自分の青い軽自動車に乗り、LINEを見た。<よき先輩だと思っていますよ>(それだけ? だったら悲しいな)それも訊いてみた。すると、<私から何が訊きたいんです?><俺と付き合いたいと思ったことないの?> 暫くLINEはこなかった。そして、<背も高いしかっこいいな、とは思いますけどモテそうだから私なんかすぐにフラれちゃうだろうなぁとは思ったことはありますよ> そのLINEを見て呆れた。<そんなわけないだろう。俺はこれでも一途なんだぞ><そうなんだ。それは意外。もっとチャラチャラしてるのかと思った> 俺はムッとした。<人を見た目で判断するな!> つい、怒鳴ってしまった。(まずかったかな)と思ったが謝ってきた。<ごめんなさい。気をつけますね> 雪江が急に下手な態度になったので俺は戸惑った。(謝ってはきたけれど本心だろうか)まあ、そこは信じてやらないと可哀想か。<やっぱり鈴木さんのことが好きなのか?> また、LINEが止まった。考えているのだろうか。そして三十分くらい経過してから、<溺愛はしてないけど、少し好きですよ>え! 少しなのか。意外! じゃあ、俺にもチャンスはあるのかな。そう思ったので言ってみた。すると、<まあ、なくはないですね。上から目線で生意気な言い方かもしれませんが、これからの大城さんの態度次第です><そうか、わかった>
俺は思った。(好かれているからって何様のつもりだ)と。俺は不愉快になった。そして、こうも思った。(調子に乗るなよ)俺にもプライドがある。いくら俺が雪江のことが好きで、立場が弱いとしても限度ってものがある。そう考えていくとこちらにも考えがある。だんだん腹がたってきたし。これは彼女の失言だ。でも、もう少し様子をみるか。惚れた弱みだ。
翌日。俺はあることに気が付いた。今日は八月七日、柏雪江の誕生日だ。何をプレゼントしよう。今、思ったのは、ピアスとネックレス。 すぐに電話をかけた。数回、呼び出し音がなり繋がった。「もしもし雪江。誕生日おめでとう! 雪江にとっていい一年になるといいな」 あえて電話にしたのはチャットより電話の方が気持ちが伝わると思ったから。『ありがとうございます! 覚えていてくれたんですね! 嬉しい』「忘れるわけないだろう」『さすがですね!』 俺は思いたったことを言った。「今日、俺と飯食いにいかないか? 渡したいものもあるし。祝いだ!」『え! 本当ですか? ありがとうございます! あ、でも……』「でも、何だ?」 少し間が空き、彼女は喋り出した。『もしかしたら、鈴木さんにも誘われるかも……』(鈴木の存在か……)「でも、俺の方が先に誘っているんだろ? 俺が優先じゃないか?」『……』「何で黙るんだよ?」『正直にいいますね。嘘ついても大城さんに悪いので』「ああ、正直に言ってくれ」『大城さんと会う約束をしても、鈴木さんからお誘いされたら鈴木さんと会いたいと思って』「なんだそりゃ! それじゃあ、俺があまりにも可哀想じゃないか? もし、そういうことになったら嫌だから、今年の誕生日の祝いはなしだ!」『ごめんなさい』「でも、俺は諦めたわけじゃないからな。来年、再来年も誕生日はあるわけだから」 彼女はまた黙っていた。
『まあ、どうなるか、先のことはわかりませんからね』 俺は、「うん」とぶっきら棒に頷いた。もしかしたら、意地になっているのかもしれない。雪江のことを好きなのは確かだが。
俺の近所に住んでいる幼馴染の女子、
雪江のことを筒美は、「相当、好きなのね」と言った。俺は、「ああ、めっちゃ好き」「そんなに好きなら諦める必要もないと思うけど、あんまりしつこくしたら嫌われちゃうよ」 とも言っていた。確かにそうかもしれない。 俺は押し続ければ、いずれは俺の女になるだろう、と思っていたが筒美の話しを聞いていると、一概には言えなさそうだ。難しい。
「押してだめなら、引いてみろ」 ということわざがある。今は押しているから、引いてみるか。「引いてみるってどういうことだ?」 と訊いてみると、「わざと気のない素振りをすることかな」 筒美はそう言っていた。さすがは筒美。
とりあえず一ヶ月くらい雪江の連絡を音沙汰なしにした。すると、雪江の方からLINEがきた。内容は、<こんにちは。連絡くれなくなりましたね。嫌われたかな?> というもの。既読になっても、一時間くらい放置しておいた。それから、LINEを送った。<こんちは。いや、そんなことはないよ。でも、連絡くれてありがとう! 嬉しいよ>
正直、俺の方も一ヶ月も連絡を取らないのはきつかった。寂しかったし。それは言わないけれど。俺は気になっていることを訊いた。<鈴木さんとはどうなった?> LINEはすぐにきた。珍しい。いつもなら暫くはこないのに。<変わりはないですよ。でも、彼がどう思っているのかわからなくなっちゃった> 俺は、(お!?)と思った。<何かあったのか?>(これはもしかしたら……)<LINEしても既読にならないんですよ。電話しても出ないし>(雪江は鈴木に嫌われたか? それとも他に好きな女ができたか)そう思いここで俺が押せばものになるかもと思った。<鈴木さん、忙しいのかな。それとも、他に好きな女が出来たか> そこでLINEはストップした。
暫く経過して、<今から会えませんか? 誰かの傍にいたい> これはチャンスかも。<ああ、いいよ。今から行くわ><わかりました。気を付けて来て下さいね> こんな状況でも相手への気遣いは忘れないんだな、さすが雪江。<用意してから行くから><すぐに来れませんか?><行けるけど、シャワーぐらい浴びたいよ> 沈黙が訪れ、<シャワーなんか浴びなくてもいいです。話すだけだから> 雪江は、相当気持ちが切羽詰まってるな。<そうか、わかった。じゃあ、すぐ行く>
筒美のアドバイスは効果てき面。彼女に若干の恋愛感情をもったことはあるけれど、やっぱり交際はやめた。幼馴染だから。家も近いし、付き合っても別れることになったら気まずいから。親同士も未だに付き合いあるし。だから、付き合わなくて正解。
俺は雪江のアパートに行く前に、筒美にLINEをした。<筒美の言う通りにしたら、彼女からLINEが来て、今から彼女のアパートに行くことになった。もしかしたら、もしかするぞ> それから財布とスマホをポケットに入れ、鍵を持ち、外に出てアパートの鍵をかった。俺は車に乗り、少し急ぎめに運転した。何だか心配になってきた。心の病はないが、衝動的に手首を切ったら、と思うと気が気でなくなった。リストカットというやつ。
十分くらいで雪江のアパートに着いた。俺の青い軽自動車から降りて、部屋のチャイムのボタンを二回押した。中からバタバタと足音が聴こえた。そして、「大城さん?」と訊かれたので、「ああ、俺だ」と答えた。彼女はドアの鍵を開けてくれ、ドアが開いた。俺は彼女の全身を見た。どうやら自傷行為はしてないようだ。よかった。「入って下さい」というので「室内に入った」雪江の顔をみたら(顔色が悪いな)と思った。あまり言うと気にするから言わなかった。それでなくても雪江は気にするタイプだから。居間に行き「適当に座って下さい」と言われたので木製のテーブルの前に胡坐をかいた。俺は「鈴木さん、どうしたんだろうな」雪江は首を左右に振りながら、「わかりません」と言った。俺は内心(このまま諦めて、俺の女にならないかな)と思った。
「不安か?」と雪江に訊くと、「というより、心配です」と言った。(心配? 何を心配しているのだろう)俺は黙っていると、雪江は、「他に好きな人が出来たなら、そう言って欲しい。曖昧なのが一番嫌です」「だよな」(鈴木さんは自分のことしか考えてないんじゃないか?) 雪江は何も言わず、涙を流した。「あたし嫌われるようなことしたかな……」「嫌いというか、単に別の理由じゃないのか? わからないけれど」「そうですかね……」「そうだよ~、らしくないなぁ~」「らしくない? そうですよね……。元気出さなきゃ。でも……辛い……」(ふー、仕方のないやつだな)「俺がいるじゃないか!」 と怒鳴るように言った。「大城さんはあたしには存在が大きすぎます」(何を言ってるんだ。同じ人間じゃないか) と思ったことを言うと、「同じじゃありません」「じゃあ、鈴木さんの存在はデカくないのか?」「あの人は庶民的な人だから大きくはないです」(なんか、うまいこと言って俺を避けているように感じる。やっぱり鈴木がいいのか)「俺なら雪江を悲しませたりしない。幸せにする自信はある!」 俺は本心を言った。「そうなんですか? あたし、凄く我儘ですよ。すぐ泣いちゃうから面倒な女だし」(何を今更)「それは知ってる。それでも……それでも俺は雪江のことが……好きなんだ!」 ようやく言えた。言ってしまった。 俺と雪江の間に沈黙が流れた。そして、次に喋り喋り出したのは雪江だった。「こんなあたしでもいいんですか……?」「もちろんだ!」 俺は強い口調で言った。 雪江は涙と鼻水でくしゃくしゃになってしまった顔をティッシュで拭いた。「そんなに泣くなよ! 子どもじゃないんだから」「そうですよね。こんなあたしでよければ……」「うん、付き合おう!」 筒美のアドバイスが役に立った。ありがたい。「鈴木さんのことは忘れろよ」 雪江は無言で頷いた。 彼女は本当に鈴木のことを忘れられるだろうか。信じたいが疑う部分もある。人の気持ちはそんなにコロッと変わらない。でも、信じてやらないと、せっかく付き合ってくれると言ってるんだから。八十パーセント信じる、二十パーセント疑う、こんな感じだろうか。百パーセント相手を信じるという人はいないだろうし、危険だ。雪江には悪いが。彼女だって、俺のことをどれくらい信じているかわからない。でも、交際する以上、他の奴らよりは信じている。今、雪江は精神的に弱っている。だから俺がサポートしてやらないといけない。大切な彼女だから。そして、これからも雪江を守っていく。
了
俺は彼女を諦めない 遠藤良二 @endoryoji
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