修道女エルフは語る。(後編)

では、始めましょうか…

リーベルタールの中心都市から少し離れた森林地帯との国境の草原にて、馬鹿でかい陣地を築いているエルフェリア国軍の姿が見えてました。


通常のエルフ兵が7万、エルフ騎士が5万、エルフ弓兵が4万と言った所ですね。

その上で、首輪を付けた身形の良い人間が40人ほど見えてますね。

恐らくは…


「どうやら、アレがこの前のクラリスさんが捕獲されたダンジョンマスターの子の復讐対象者みたいですね」

「やれやれ。結局は女神クズギフトチートで傲慢に成ったと思いきや、エルフェリアの隷属兵士に成り下がっていたとは…」


私と牧師様は互いに言い合いながら、草原の方へと歩いていきました。

念のため、リーベルタールの兵達には街から出ない様にと忠告をしておきましたし、私達のやり方で好き勝手に出来ますからね。


それじゃあ、何時もの勇者(笑)のチートを調べてみましょう。どれどれ…



強奪5名、転移8名、肉体強化22名、聖女5名…



全然駄目ですね。

これでは、神格に匹敵するものなど、ほぼ居ないでしょう。


「全く持っての凡庸。ただの気まぐれギフトの連中ですわ」

「私達の既知を満たせる者は居ないということか…では、何時もの様に始めようか?ディー」

「ええ、始めましょう…牧師様。いえ、”サンジェルマン”」


そう言って、私は静かに指揮棒を揮うかの様に両腕を上げ、そして一言呟いた…


「では…”Disce Libens.(喜んで、学びなさい)”」


私がその”言葉”を放った瞬間、天地が揺れ動いた…



―――――――――――――――――――――――――-



「エミーさん。なんであたしら待機なんですか?」

「そうですよ!折角のあいつ等ですのに!!あっ、申し訳ありませんお嬢様…」

「良いっすよ。それよりも、何故?」

「ソーですヨー。折角私達が全員揃ってマースのにー」

「んーとねぇ…」

「ディーラちゃんと牧師様を動かした。以上…だわ」


『…マスター!エミーさん!!何やっているんですか(デースか)!!?』

「一体何が起こるわけ…?」


――――――――――――――――――――――――――




エルフェリア軍は混乱していた。

それもそうでしょう、いきなり”昼”だった空が、星空が見える”夜”になっていたのですから。


「”Qui parcit malis, nocet bonis.(悪人を許す人は、善人に害を与える)Qui multum habet, plus cupit.(多くを持つものはさらに多くを望む)”」



一つ目の詠唱が終えた時、天から降り注ぐ劫火の灯した星々が降り注ぎ、地面に落ちて爆発を起して灰燼と化した。



「”Quam bene vivas refert, non quam diu.(重要なことは、どれ程長く生きるかではなく、どれくらいよく生きるかである)Timendi causa est nescire.(無知は恐れの原因である)”」



二つ目の詠唱が終えた時、夜から昼に逆転して月と太陽が重なり合い、皆既日食を起して全ての魔力が途絶えた。



「”In spiritu et veritate.(魂と真実において)Intellectum valde amat.(知性を強く愛せよ)Interfice errorem, diligere errantem.(罪を打ちのめし、その罪人を愛せよ)”」



三つ目の詠唱が終えた時、遥か上空に暗黒天体が浮かび上がり、大型の無機物兵器が飲み込まれていった。



「”Aut disce aut discede.(学べ、さもなくば、去れ)Ab ovo usque ad mala.(最初から最後まで)Ab uno disce omnes.(一つから全てを学べ)”」



最後の詠唱が終えた時、天空にある二つの月がぶつかり合い、衝撃波を起して降り注いで全てを飲み込んだ…










但し、これら全ての現象は、私が作りだした”偽りの世界”での出来事ですがね…







―――――――――――――――――――――――――――


「…っぁ!?…っぁ!?」

「あちゃー…サクラちゃんの口パクが止まらなくなってるっす」

「モゥ…だから刺激が強いとあれほど言っていたのデース…」

「あはははっ、ごめんごめん」

「”天文密葬”なんて擬似宇宙における森羅万象の星々を動かすチートなんて、普通の勇者どころか、あたしら魔王組合ですら考えられないわねぇ…本当、これで水銀系統の劣化版なんて言われるわねぇ。ディーラちゃん」

「あっ、言い忘れていたけど…あの子、現実世界でも万象の星々を動かす事出来るよ」

『…はい?』


―――――――――――――――――――――――――――







”偽りの世界”から解放されて投げ出されたエルフェリア軍と例の勇者一行は、廃人になったかの様に沈黙し、正気を失った目をして地面に倒れていました。


「ふむ。相変わらずの”精神破壊”っぷりですわね」

「そうだな…さて、始めようか?”友よディー”」


牧師様…いえ、”サンジェルマン”の”悪い遊び”が出ましたね。

ああ、こうなった…私も”悪い遊び”がしたくなりましたわぁ…♪



俯瞰ふかんをし続ける姿勢はいい加減終わりにして始めたかったのだよ」

「ええ…では、始めましょうか…我が友よ」

「さぁ、始めよう…我等のヴァルハラは目前であるからな。既に既知感は枯渇しつつあり、故に飽いている。明白なのだ…今こそ幕を開こう」

「面白いですわ…ならばこそ、全てを破壊あいしましょう。私は…私は全てを愛しています」

「くくっ…ふふふっ…ははははっ…!!血も戦争も好かないと申したのだが…」



そう言って、”サンジェルマン”は両手を胸元まで上げ、”言葉”を発した。



「”怒りの日。終末の時。この世の全てを灰燼と化して、ダビデとシビラの予言が証したように砕け散るであろう。どれほどの恐怖と戦慄が起ころうと共、裁き手が舞い降り、全てを厳しく打ち砕き、一つも余さずに劫火に消え去ろう。我等の民に福音が響き渡れ、審判の鐘よ。全ての者を王座の前に集え。彼の日に、主を裁いた涙と罪の裁きを、汝ら全て、灰より蘇れ。どうか主よ、その時の彼らを許したまえ。慈悲深い我が主よ、今終焉たる安息を与えたまえ…Amenエィメン…”」



”サンジェルマン”が詠唱を終えた時、空が金色に輝き、かつて彼の”部下”だった英雄達が人の形を形成し、具現化された…


それが数十万、数百万、いえ…数千万の戦乙女ヴァルキュリアが認めた死者英雄エインフェリア呼び起こし…


「”Libera eis.(彼らを解き放て)Dies ire!!(怒りの日よ!!)”」


そして、怨霊の大群が解き放たれた。


しかし、私も負けじと言葉を発した…


「”Libertas inaestimabilis res est.(自由は全ての価値を超越したものである)Memento mori.(自分が死ぬ事を覚えよ)”」


数千万の英雄達は未知の爆発を前に、全て吹き飛んで灰燼と化した。


「くくっ…ふはははっ…ははははははっ…!!」

「ふふっ…うふふふっ…ははははははっ…!!」

『はーはっはっはっはっはっはっはっはっ!!』


私と”サンジェルマン”は共に狂喜と呼べる歓喜の祝福に酔いしれて大声で笑い、更なる高みを求めて殺気立たせた。


「許せよ、墜とし子。私は今、生きている!!故に滅びよ!勝つのは私だ!!」

「抜かせよ、散るのはどちらか知るが良いですわ!私は今、生きている!!故に滅びよ!勝つのは私だ!!」


そして、互いの均衡をぶつけ合うかのように、歪んだ渇望チートを叩き合いながら…

私は楽しんだ…


『いくぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!』



お互いの力をぶつけ、辺りを混沌へと包み込んだ…














この数十分後、私達夫婦は異世界神霊連合協会から派遣された神様達から大変お叱りを受けました。










――――――――――――――――――――――――――――




「誰なんすか…」

「あんな化け物牧師と化け物元令嬢エルフを作り上げたのは…」

「正直、斜め45度を飛びすぎるチートは考えられないデース…」

「んー…あの女神クズを磨り潰した神様曰く、砂粒程度の残滓が飛びすぎて他の魂と混ざってる可能性があるとかなんとか言っていたかな…」

「それよりも、元魔王から言わせて貰うけど…”貴方達、余所べつせかいで遊びなさい”と言いたいわぁ…」





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