第20話 こっち側の人間

 正門を後にし、それぞれ前後でカップルのペアになった俺たちは、予定通りにファミレスに向かっている。


 ひとつアクシデントがあるとすれば、未だに頬を緩ませている美結が腕にしがみついていることなのだが、それはいつものこと。


「お前らそんなにイチャついて飽きないのか……?」

「え?うん」

「即答かよ……。瑞月はともかく、祐希もそっち側だったとはな……」

「意外か?」

「意外すぎるぐらいに意外だよ」

「じゃあギャップ萌えだな」

「……ギャップ萌えか……?」


 後ろで首を傾げる匠海に淡々と言葉を返す俺。


 そんな俺たちに苦笑を浮かべる美結は匠海の袖を握り、


「私たちも手とか繋いじゃう?」

「…………美結もそっち側か?」

「ん〜それはご想像にお任せするよ?」

「だったらこっち側だと思うんだがな……」

「じゃあそっち側だね」


 パッと袖を離した。

 まるで『求めていた答えと違う』と言いたげに。


 今朝からわかっているが、美結は結構積極的で、結構イチャ付きたい側の人間だ。


 そのことを分かってあげられないのが『匠海の悪いところ』だな。

 まぁ日頃から美結がそういうのに興味がないという風に振る舞っているのも関係してるんだろうけど。


「匠海くんは乙女心というものが分かってないねぇ〜」


 不意に紡がれたのは俺の腕を掴んだまま、首を後ろに回した瑞月の口。


「……どういうことだ……?」


 そんな瑞月に睨みを向ける匠海は一歩歩み寄る。


「女の子っていうのはね?いつどこでも、なときでも好きな人とイチャつきたい生き物なの!」

「……そうなのか?」

「え?私に聞くの?」

「だって美結以外に女子いないし……」


 美結に顔を向ける匠海の目にはまだ睨みが宿っている。

 が、そんな睨みに気圧されない美結は「んー」と顎に指を当て、コクっと小さく頭を縦に振った。


「まぁそうかもね?好きな人とはずっとイチャイチャしていたいかも」

「……ほーん」


『好きな人』という言葉がやけに強調された気もしたが、気のせいだろうか。


 俺の思案を阻止するように鼻を鳴らした匠海はそっぽを向き、右手の手のひらを空に向けた。


「…………どうぞ」


 ぎこちないその言葉が紡がれる中、まさか手を出されるとは思っていなかったらしく、美結は大きく目を開く。


 そして、その大きな手に指を絡めた。


「あ、ありがとう……」

「……どういたしまして」

「で、でもなんでいきなり……?」

「そりゃー……好きな人がイチャつきたいって言った……から?」

「ふふっ、匠海ってたまに可愛い所あるよね」

「……知らねーよ」


 含み笑いを開いた右手で隠す美結に、ぶっきらぼうに言葉を返す匠海。


 そんな姿たちは流石に俺の嫉妬心を抉り――


「こーら祐希くん。あんまり2人の幸せな空間を見過ぎないの」

「あ、す、すまん……」

「私は全然いいよ?私たちもこうしてイチャつけてるわけだしね〜」

「だな」


 短く言葉を返す俺は後ろの人たちから視線を逸らし、数百メートル先にあるファミレスに目を向けながら、右手を大きく開く。


 そして瑞月の左手を捕まえ、指を絡ませた。


「ゆ、祐希くん!?」

「ん?」

「今日は随分と大胆だね!?」

「かもな」

「かもなじゃないよ!?確実に大胆!!」

「そういう気分だからな」

「そ、そういう気分!?!?」


 目をかっぴらく瑞月はいったい何を勘違いしているのだろうか。


「……前のお2人さん。公共の前であんまりそういう話はしないでもらっても?」


 ……後ろの美結もいったいなにを勘違いしているのやら。


 ズキズキと背中に突き刺さる睨みに思わず苦笑を浮かべてしまう俺は隣と背後に目を向け、


「ただ手を繋ぎたくなったって意味だ。変なこと考えてんのは2人だぞ?」

「――っ!?祐希くん!私たちが変態さんって言いたいの!?」

「いやそこまでは言ってねーけど……」

「ふーん!言い訳しちゃうんだ!この期に及んで!!」

「……匠海。どうにかしてくれ」

「ごめん。今、手汗を制御するのに全神経割いてるから無理」

「…………そっすか」


 そっぽを向いて本当に手汗を制御してるのだろう。

 眉間にシワを寄せる匠海に小さく息を吐いた俺は瑞月に視線を戻し、横目に美結を見やる。


「とりあえず俺に変な気はない。いいな?」

「信用できませんー」

「…………美結もか?」

「ふんっ」

「……おまえらなぁ……」


 瑞月はまだしも、なんで美結が顔を逸らすんだ。


(……もしかして妬いてんのか?)


 なんていう疑問とともにファミレスに入った俺たちの中に漂うのは、これまた謎の修羅場的空気だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る