第12話 爆炎が轟く (X-tra)
人間の最大の弱点は孤独だ。
孤独よりも辛い氷宮など存在しない。
家族の絆は時に最大の呪縛となりうる。
地獄の業火は燃え盛る。
喜びと絶望の差し引きはゼロだ。
子供は無知だ、だから怖いんだ。
甘い誘惑に惑わされてはいけない。全てを焼き尽くす事になるから…
20XX年 X月 X日
私はとある裕福な家庭に生まれた女の子だ。特別な才能と姉妹はいないけれど…私は満足だ。お母さんがいるだけで私は嬉しいからね。
お父さんが死んじゃって、お母さんが働いてるんだ。だから私はお母さんと二人暮らしなんだけど…最近は仕事が忙しいみたいで、昔はよく遊んでくれていたのに最近は学校の話さえも聞いてくれやしない。泊まり込みで働いているから、お母さんが帰ってきたとしてもすぐに寝ちゃうんだ。
最近のご飯は冷えたコンビニ弁当ばっかり…いい加減、私はお惣菜みたいな味をした唐揚げを食べるのはごめんだよ!
暖かいシチューが食べたいな…お母さんの手作りシチュー。3人揃って食べるのが私の一番の幸せだったな…
そういえば、塾の用意しないと…
外に出た私は思わず、歯をガタガタ震わせてしまう。この前もお母さんに『うるさい!不快なんだよ』って言われちゃったな。
私は頬を抑える。この前叩かれた部分がまだ痛む。近所のおじさんが血相を変えて心配してくれたけど…私はきっとお母さんはストレスが溜まってるんだよ仕事が減ればお母さんは元に戻ってくれるって知ってるもんねって言ったら。おじさんが号泣しちゃって、大変だったな。
そういえば最後に私の冗談で笑ってくれたのはいつだろうか?最後に私の頭を撫でてくれたのはいつだろうか?
最後に家族みんなでシチューを食べたのは…何年前だろう…お父さんの顔すらハッキリ思い出せない。
ふと、ゴミ捨て場に目がいった。いつもなら素通りして行くのに今日は違った。何か違う事をすればお母さんも変わってくれるかもしれないって思ったんだ。
私は綺麗な人形を見付けた。フランス人形の様な、不思議な人形だった。藍色の目はまるでプリズムの様で、私は見とれてしまった。
「よぉ…お前さん。俺を拾ってくれるのかよ?」
驚いた…!今の技術を駆使すれば喋る人形を作る事が可能なのか!?しかも自我があるようだった。取り敢えず私は返事をする事にした。
「喋れるの!?凄い…貴方の名前は?」
その人形は表情を変えずに淡々と話した。それが逆に怖かったが…もう独りぼっちはいやだから…
「俺はプロメテだ。弟にエピメテが居るが…今は関係無いか。生き別れの兄弟って訳さ。俺は独りぼっちだ」
プロメテも独りぼっちなんだ…私と同じだね。
私にももしかしたら生き別れの姉妹がいたりしてね…
「プロメテも独りぼっちだったんだね…私もねずっと独りぼっちなんだ…私の家くる?」
プロメテに表情は無いが、まるでニヤリと言わんばかりの雰囲気だった。
私は此処で気付くべきだったんだ…過ちはもう修繕出来ないから…呪われっぱなしだ。呪縛から解放されない。
「お前、なんて名前なんだ?」
「へぇ、桜野日和って言うのか…ザ・日本だな」
久しぶりに私は塾をサボった。たまには休憩も大事さね。じゃないと持たないよ。ずっと独りぼっちなんだからさ
不満を話せる相手が居ないんだ。誰にも思いを打ち明けることさえ出来ない。
早速私はプロメテに話し掛けてみた。さっきの偶然かもしれないしね…
「ねぇ、プロメテ。貴方の両親ってどんな人?いい人?それとも悪い人?」
「じゃあさ…逆に聞くぜ?お前の母親はいい人か?それとも悪い人か?」
私は言葉に詰まってしまった。お母さんはきっと悪い人間じゃない。きっと仕事のストレスで… あれ?お母さんはいつから私に対して酷くなったんだろう?分からない…子供に暴力を振るう人間が本当にいい人なのか…私には分からない。だってお母さんはお母さんだもん。世界でたった一人のお母さんだもん。きっといい人だよ!
「うん…いい人。だと思うよ…」
プロメテは表情を変えないがケタケタ笑い出した。まるで私が間違っている事を馬鹿にする様に。だけど…お母さんの罵倒よりも安心出来るな…もし私が本気で考えた返答を冗談だと思ったいるなら、久しぶりに冗談で笑ってくれたんだ…
「そうかいそうかい。子供に暴力する人間がいい人間か…俺の知ってる価値観とは随分違うようだな!日和。俺は冗談が大好きなのさ…今のはなかなかグッドテイストだったぜ」
プロメテはまたケタケタ笑う。私の冗談が面白い?面白いなんて言ってくれたのは随分久しぶりだ。お母さんだったらきっと『下らない』って言われるだけだから。
プロメテは藍色のプリズム状の目玉と綺麗な紫色の髪を靡かせる…つもりだったが、どうやら身動き出来ないらしい。
「なぁ、お前は友達居るのか?俺には出来た事が無くてな…」
「あはは。私も出来た事が無いんだ」
プロメテは友達が居ないんだ。私と同じだ…両親からも相手にされず、友達も満足に居ない。私と全く同じだ。
気付けば私はプロメテの味方になりたいと思っていた。私と同じで可哀想だから…
あれ?私って可哀想なの…?確かにお母さんは相手してくれないけれど…私を育ててくれてるんだ確かにアザは沢山見えない所にあるけれど…育ててくれた御返しだと思えば妥当だよ。だって私は価値が無いから…お母さんがずっと言うんだ。『お前はゴミだ。ゴミはゴミ捨て場に捨てたいんだけどね…生憎。世界の法律がそれを許さないんだ…命拾いしたな、このゴミがっ!!』
私はずっと蹴られても、殴られても「ごめんなさい」って謝る事しか出来ない。だって私はゴミだもん…何も出来やしないよ…
私が蹴られたり、殴られるだけでお母さんのストレスが少なくなるのなら本望だよ…
お母さん。私で良かったらどんどん頼ってよね…
学校でも私の扱いは変わらない。クラスのやんちゃな男の子が私を幽霊だって…幽霊の"霊子"さんだっていじめるんだ。先生に言っても知らんぷり私は友達一人も出来ず、ただいじめられるだけの生活。私は本当は休みたい、呪縛から解放されたいんだ。だけど…お母さんがそれを許さないんだ
お母さんは私の心より、世間体を気にするんだ。
だからお弁当の日は豪華な中身だけど…愛情が全く入って居ないんだ。憎しみや憎悪を込めたような味がするんだ。私は必死に涙を堪えるしかできなかった。だってゴミは泣かないもんね…
「そうか。なら俺がお前の初めての友達だな!」
友達…なんて初めて出来た。私はずっと独りぼっちで生きてきたから、人形と言っても自我があるんだ。
もう、私は独りぼっちじゃない。
それから私達は楽しい時間を過ごした。夜中にお菓子パーティーをしたり、お小遣いを使って私達でシチューを作ってみたり、特撮番組で変身ごっこしたり。プロメテに魔法の使い方を教えてもらった。
クリームシチューが美味しくなる魔法や、虫歯にならない魔法、寝癖が直りやすくなる魔法。
まるで魔法使いになった気分だ。
1ヶ月ぶりにお母さんが帰って来てくれた。プロメテの事や、一緒にゲームをしたかった私はお母さんに話し掛けた。
「ねぇお母さん。見てよこの人形。プロメテって言うんだ~」
お母さんは腹の底から大きなため息を出した。興味無い。と言っても過言では無いくらいだった。
「…何?お母さん疲れてるんだけど…?」
お母さんのポケットからなんだか高級そうなホテルの領収書ってやつかな?ゼロが…
私がゼロの数を数えているとお母さんが取り上げた。まるで汚い手で触れるな。と言わんばかりに
お母さんは私を睨み付けた、怖いよ…そんな顔しないで…ごめんなさい…
そうだ!こんな時はゲームをしよう。私は赤いおじさんが車で爆走するゲームソフトを見せて言った
「ねぇお母さん…10分…いや、5分でもいいからレースゲームしない?楽し…」
「黙れ!!人間にとって!5分がどれだけ大事か分からないのか!?私は疲れているんだ」
怒られてしまった…そうか、人間はたった5分も待ってくれないのか…プロメテは相変わらず長い紫色の髪が輝く。そういえばプロメテは男の子なのにどうして髪の毛が長いんだろう。まさか、髪の毛が成長する。なんてあり得ないよね?
「日和。そういう時もあるさ…今回はたまたまお母さんの機嫌が悪かっただけだよ。」
私には分からなかった。今日の国語の授業で読んだ話では、お母さんの宝物は子供で、お母さんは子供に優しく微笑むのが普通だって…
普通って何?お母さんに罵倒されたり殴られたりするのが私にとっての普通。でも教科書の子供は暴力なんて無かった。普通って何だろうね…
私が寝ていると、毎回毎回プロメテが囁くんだ。呪いを込めたような、呪縛の魔法の様な。不気味な声で囁くんだ。紫の炎に全てを捧げろって全ての思いを燃やして解消しろって…何が何だか分からないよ。
今夜は違った。テレビを消すのを忘れていた。でも、動くのがめんどくさいし、付いてても寝られる…
静寂の部屋にテレビが喋り出す。日和の耳には聞こえないがこの俺、プロメテには聞こえる。何やらこんな深夜にニュースなんてな。相当な事件なのか?どうやらプロメテウス人形。つまり俺の事を言っているようだな。
「緊急速報です!どうやら施設に保管していた呪いの人形。プロメテウス人形とエピメテウス人形が消息不明になりました!人形だからといって絶対に拾わないで下さい!プロメテ人形を家に迎え入れた家庭は必ず破滅しています。単なる偶然ではありま…」
不快だ。俺はテレビのリモコンを操作した。動けるのかって?動けるさ、じゃないと逃げ出せないだろう?日和の前ではただの人形を演じているが…いずれ俺は日和にキバをたてる予定さ。こう、二の腕をガブリとな…
運命のチェスはチェックメイト寸前だぜ?
日和の母さんよ…
今日は日曜日だ!お母さんの仕事は無いらしいから、この前は怒られたけれど…今日もお気に入りのレースゲームに誘うんだ~
朝ごはんは相変わらず美味しくも無い菓子パンだけど…今日は遊べる。そう思えば妥当だよね。
「ねぇ、プロメテ。今日は大丈夫かな?怒られないかな?」
私は隣にちょこんと座る人形。プロメテに話し掛けた。私はあの日を境に何かがあるとプロメテに相談する事にした。
「さぁ、誰もアイツの心の中を覗けないからな。自分の気持ちが分かるのは自分自身だけだ」
やっぱりちょっと不安になってきたけれど…私にはプロメテが付いているんだ。何も怖くない。
「ねぇ、お母さん…今日だったら。このゲーム一緒にしてくれるかな?いや、嫌ならいいんだよ?別に強制してる訳じゃ無いよ…でも、たまにはお母さんと遊びたいんだ。だって私はお母さんの事大好きだもん」
お母さんが机を叩く。どうやら相当怒っているようだ。私を威嚇する様に…私を睨み付けた。私は怖かった。どうして親が子供を睨み付けるんだろう?これが普通なのかな?
「大好き…ねぇ。私はあんたを愛した事なんて無いよ。どうやら子持ちの女は誰からも必要とされないんだ。あんたがいなければ私は幸せになれたのかもしれなかったのに!あんたという欠陥品を押し付けられて私は…独り身を強制されるなんて絶対に嫌だ。あんたなんて大嫌いだ!死んでしまえっ!!」
そんな…私を愛してくれた事なんて無かったんだ。あの時私を大好きって言ってくれたのは嘘だったんだ。ずっと私を憎みながら育てていたんだ…愛情なんて最初から無かったんだ。
私でも分かるよ…これは普通の家族が言われるはず無いよ…
プロメテが私の頭にテレパシーの様な信号をだす。この家を燃やしてしまえ…そうすれば必ずあの女は死ぬ。迷う事は無いぞ。あの女はお前を殺したくて仕方ないんだ。いずれ殺されるのなら先に殺してしまえばいいだろう?俺がついてるからな…お前は独りぼっちじゃない
私はテレパシーの声に逆らえなかった。私の家は紫色の炎に飲み込まれた。プロメテは何処かに行ってしまった。あくまで私は被害者として、放火した犯罪者を探すふりをして生きていく事にした。皮肉な事に私が探している放火犯は自分自身なんてね。
今日も誰かの家を燃やそう。紫色の炎で燃やそう。私はあの日を境に紫色の炎で誰かの家を燃やす事に夢中になった。まさに五里霧中なのかもしれない。
俺はまた施設に閉じ込められた。そんなに危険に思うのならさっさと処分すればいいのに、人間のエゴによって俺は生き長らえている。観光のために俺はダシにされる。日和は無事だろうか…俺は呪いの人形。プロメテだからな。守りたい相手も守れない。必ず呪いを押し付けてしまう。
人形に死なんて概念は無い。俺は誰からも必要とされず生きていくのか…だったらいっそのこと死んでやりたいぜ…
「だったら私が願いを叶えてやるよ人形さん。幸福屋としてね…」
俺の前には一言で言うとそれは超が付く程美人さんだった。黒いショートヘアに日本人とは思えない位キレイな紅の色をした瞳。
「お前、俺の願いを叶えてくれるのか?」
女はにぱーと言わんばかりの飛びっきりの笑顔を見せた。初めて俺は女に惚れたかもしれない。
「あんたの命運。私に捧げる気は無いかい?」
俺が言った事は覚えていないが、それは女にとっていい事だったに違いない。じゃないとこんな美しい満面の笑みを見せる訳無い。
「契約成立だね…」
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