乙女ゲームの悪役貴族に転生したので、金の力でメインヒロインを買ってみた。
イコ
第一章
第1話 悪役貴族に転生してみた
目を覚ました瞬間、肌を撫でる絹の感触と、窓から差し込む柔らかな陽光が視界に入った。
「……え?」
目の前に広がるのは見慣れない天蓋付きのベッド。その豪華さに思わず息を呑む。次いで耳に入ってきたのは、規則正しい時計の音と、窓の外から聞こえる鳥のさえずり。
夢を見ているのだろうか? それとも、どこかの高級ホテルで間違って目覚めたのか? 状況がつかめず混乱する頭を抱えつつ、ベッドから体を起こす。
目に飛び込んできたのは、鏡に映る見知らぬ顔だった。
「誰だ……これ……」
目が大きく、鼻筋が通り、整った顔立ちの美青年。
髪は銀髪に近いプラチナブロンドで、肌は陶器のように白い。だが、それが自分だと気づくまでには数秒かかった。
「まさか……これって……」
視線を彷徨わせる中、ふと記憶の片隅に引っかかったのは、前世のことだ。
確かに、俺は……夜遅くまで残業して、クタクタの状態で家に帰っていた。その途中で……そうだ、あのトラックだ。
運転手が居眠りをしていたのか、急に横道から飛び出してきて。
「死んだ……のか?」
口に出した瞬間、全身に寒気が走る。死んだはずの自分が、なぜここに? そして、この状況は? 混乱する中、ドアがノックされ、控えめな声が響く。
「セリオス様、お目覚めでしょうか?」
セリオス? 誰だそれは。思わず答えを返せずにいると、扉が開き、メイド服に身を包んだ少女が一礼して部屋に入ってきた。
彼女の端正な顔立ちと優雅な仕草は、まるで映画の中から抜け出してきたかのようだ。
「……お体の調子はいかがでしょうか? 昨日は遅くまでお酒を召し上がられていたとか……」
「え、あ、いや……その……大丈夫だ」
何か言おうとしたが、言葉が出ない。だが、同時に湧き上がる違和感。この状況、どこかで見覚えがある。
ここはゲームの世界だ。
妹が何度も遊んでいた乙女ゲーム『ローズオブグランティア』の世界。俺も何度か攻略の手伝いをさせられた。そして、目の前にいるメイドの顔にも見覚えがある。
そして、鏡に映るこの顔、この名前……俺が転生したのは、このゲームの悪役貴族、セリオス・フォン・エーグリッドに他ならない。
「マジかよ……」
自分の呟きに、メイドが不思議そうな顔をする。
「何かお困りですか、セリオス様?」
「いや、なんでもない」
もう一度自分の姿を確認するために、部屋の隅に置かれた大きな姿見に向かう。
そこには、どう見ても女性が好きそうな美貌と威圧感を持つ少年が映っていた。
記憶を必死に掘り起こし、このキャラクターの設定を思い出す。
セリオス・フォン・エーグリッド。
乙女ゲームの世界では、メインヒロインであるリーゼ(ゲームの主人公)と確執があり、ゲーム内攻略対象(男性キャラ)たちに敵対して、最終的に邪魔をする役どころだ。
プレイヤーの中では「典型的な悪役キャラ」として知られており、その行動はほぼすべてが自滅を呼び込むものだった。
つまり、乙女ゲームでありながら、攻略されないかませ犬悪役貴族であり、ヒロインから最も嫌われるキャラである。
「いやいや、なんでよりによってコイツなんだよ……」
だが、ここで嘆いても仕方がない。
冷静に考えろ。ゲームの知識を持っているということは、これから起こる未来も知っているということだ。このまま何もせずに破滅を迎えるなんて、冗談じゃない。
「いいか……まずは状況を整理だ」
深呼吸をし、頭の中で情報をまとめる。
ここはゲームの世界で、俺は悪役貴族セリオスとして転生した。
原作の展開を知っている以上、このまま破滅の道を歩むのではなく、ゲームのストーリーをねじ曲げる必要がある。
だが、その方法はどうすればいい? ゲームのストーリーが開始される前に自分を強くする? それとも攻略対象たちと仲良くなって自滅しないように地盤を固める?
どれも未来に起きることなので不確定すぎる。
「……そうだ、金だ」
セリオスの設定上、彼らの家に比べて、莫大な財力を誇る名門貴族なのだ。
そのため他の攻略対象者(男性)たちからは嫌われている傍若無人な悪役貴族だとすでに思われている。
ならば、金の力で領地や商業を牛耳り、経済的に絶大な影響力を利用すればいい。
何かを解決するなら金で全てを解決するのがセリオスらしいやり方だ。
「俺は……金で未来を変える。破滅エンドなんか絶対に避けてやる」
自分に言い聞かせるように呟く。メイドは怪訝そうな顔をしていたが、俺は気にしない。これからやるべきことは一つだ。
まずは、ゲームのメインヒロインであるリーゼを救うことから始める。
彼女を救えば、主人公や攻略対象との対立を避けられる可能性が高まる。しかも、彼女の家が困窮しているという設定を知っている今、金の力を使えばスムーズに動けるはずだ。
「メイドよ……名前は?」
「はっ?」
「君の名前を教えてくれ」
多分、知っていて当たり前だが、俺は悪役貴族セリオスだ。メイドの名前を忘れていてもおかしくはない。
「ファイナにございます」
「そうか、ファイナ! 準備をしろ。今日は街へ出かけるぞ」
「街、でございますか? セリオス様が直々に?」
「そうだ。たまには外の空気を吸いたい」
これが、破滅の運命に抗う第一歩になるかもしれない。そして何より、この世界での新しい人生が始まるのだ。
「見ていろよ……金の力で全てをねじ伏せてやる!」
俺は静かに拳を握りしめた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
あとがき
どうも作者のイコです。
思いつき投稿が成功したので、今回もプロットなし。
思いつきでどこまでいけるのか投稿です。
そこそこに読まれる人が増えれば、やる気になってどんどん書くと思いますので、応援いただければ幸いです(๑>◡<๑)
まぁ、年末の忙しい時期なので、気楽に読んでやってください。
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