24.入浴
「そろそろ時間ね」
部屋でゴロゴロしていると、泉さんがそう言った。
「あれ、もうそんな時間?」
「あ、本当だ。入浴の時間じゃん」
「じゃあ、準備して行こうか」
「入浴時間十五分しかないの、まじウケるー」
泉さんの声にみんなが動き出した。バッグから必要なものを取り出して準備をすると、ベッドから出てくる。
宿泊研修中の入浴は班ごとに別れて入浴することになっている。一度に沢山の人が入れる入浴施設じゃないから仕方がないけれど、入浴時間が十五分しかないのは本当に笑える。もう少しゆっくりできないものかな?
「みんな、準備はできた?」
「うん、できたよ」
「じゃあ、行こうか」
泉さんが確認すると、私と佐々原さんが答える。他の四人も準備は完了しているみたいだ。それを確認し終えると、私たちは部屋を出て浴場に向かっていく。
「それにしても、一緒に入るのって恥ずかしいね」
「水島はそういうの気にするタイプ? 私は気にしないかなー」
「気にするほど立派な体じゃないしー」
「えー、そうなの? 背が小さいから余計に気になっちゃう」
みんなは私より背が高いし、体も私なんかより大人っぽい。みんなとの差を思うと、恥ずかしく思ってしまう。みんなは気にしていないようだけど、やっぱり気になっちゃう。
こんな体を佐々原さんに見られたら……そう思うと逃げ出してしまいそうになる。うぅ、こんな子供体型を見られるなんて拷問だよ。
はっ、待てよ。私の裸が見られちゃうってことは佐々原さんの裸も見られちゃうってこと!? 自分のことで精一杯だったから忘れてたー! そうだ、佐々原さんも裸になるんだった!
す、好きな人の裸を見るなんて……なんだか申し訳ない気持ちになっちゃう。こういう時ってどうすればいいんだろう。見ない方がいいんだろうけど……こんな機会は滅多にない事だし。
うぅ、目の前に裸の佐々原さんが現れたら、私はどうなっちゃうんだろう。正気を保っていられるのか、凄く不安だ。鼻血なんて出した日には、もう学校になんか来られないよー!
「水島さん、大丈夫? なんか、色々考えているみたいだけど」
「へっ!? う、うん……大丈夫」
「やっぱり、好きな人と一緒にお風呂に入ることに意識がいっているみたいね」
「ど、どうしてそのことをっ」
「そりゃあ、分かるわよ。こんなドキドキなイベントを見逃すわけがない!」
なんで泉さんが気合入っているのー!? そ、そんな……お風呂で百合展開なんて恥ずかしすぎて無理だよ! 交流らしい交流だってできないだろうし、そんな事したらなんかエッチだ!
「言っとくけど、泉さんが思っているような事はないからね! 何事もなく体を洗って、お風呂に入って、終わりだからね!」
「そんな……こんなドキドキのイベントを何もしないで過ごすというの!? あ、ありえない!」
泉さんは絶望した顔になった。一体、何を考えていたんだろう……。百合ってエッチな事も含まれるのかな? だったら、私は健全にいこう。佐々原さんには迷惑はかけられないし、嫌な思いもさせたくないから!
◇
「さー、まずは体を洗おう」
「十五分しかないから、早くやっちゃうよ」
脱衣所で服を脱いだ私たちは浴場にやってきた。中は結構広くて、すでに十数人の女子が楽しそうにお風呂を満喫していた。
でも、お風呂に入る前にまずは体を洗わなきゃ。適当な場所に座ると、私の隣に誰かが座ってきた。ふと、顔を上げて見て見ると、隣に座ったのは佐々原さんだった。
「さ、佐々原さんっ」
「隣、失礼しちゃうね」
「う、うんっ」
隣に佐々原さんが座ってきたー! こんなんじゃ、意識しない方がおかしいよ!
「あっ、水島さんは道具とか持ってきたんだ」
「う、うんっ。備え付けがあるって言われていたけど、いつも使ってるヤツを使いたくて」
「そうなんだ、私も持ってきたんだよ。ほら、入れ物とか可愛いでしょ?」
防水のポシェットの中に入っていた可愛らしい容器を取り出して、私に見せてきた。あれがいつも佐々原さんが使っているもの……中身が気になる。
「そうだ。水島さんがどんなの使っているか教えて」
「わ、私は……これを」
少し慌ててポシェットの中から容器を取り出して、蓋を取って差し出す。それを受け取った佐々原さんは、その匂いを嗅いだ。
「わぁ、爽やかなシャンプーだね。トリートメントも似たような匂い。これ、すっごくいいよ」
「う、うん。私のお気に入りなの。この匂いを嗅ぐとリラックスできるんだよ」
「そうなんだ。私のも嗅いでみる?」
「う、うん!」
佐々原さんが使っているシャンプーやトリートメントを嗅げるの!? も、もちろん嗅ぎたい!
そっと差し出された容器を手にして、中身の匂いを嗅ぐ。こ、これはっ!
「フルーティーなアロマの匂いだね、これ好き!」
「これがウチのお気に入りなんだ。気に入ってくれたみたいで嬉しい」
「うん。この匂い、ずっと嗅いでいたくなるね」
これが佐々原さんが使っているものの匂い……なんて幸せな匂いなんだろう。佐々原さんの髪の匂いを嗅げば、これと同じ匂いなんだよね。ということは、髪に匂いを嗅いでいるのと同義……興奮しちゃう!
「そうだ! お互いのシャンプーとトリートメントを交換して使わない?」
「交換?」
「水島さんが使っているものもいい匂いだから、試したくなっちゃった。ダメ?」
「う、ううん! 全然! 私も佐々原さんの試したいと思ってた」
「そう? 嬉しい! じゃあ、これを使って髪の毛を洗おう」
佐々原さんのと私のを交換だって!? そんなの受けるしかないよ! 佐々原さんがいつも使っている物を私が使えるなんて……私が佐々原さんを纏うようなもの!
ドキドキしながら髪の毛を濡らし、自分の髪に佐々原さんのシャンプーを付ける。それだけなのに、体がゾクゾクとして謎の快感が体を走った。
そして、丁寧に泡立て自分の髪を洗っていく。今、佐々原さんのシャンプーで髪の毛を洗ってる。なんか、いつもより気持ちよく感じちゃう。これ……癖になりそう。
汚れ一つ見逃さないように自分の髪を綺麗に洗い上げると、シャワーで泡を洗い落とす。そうすると、次はトリートメントだ。トリートメントを手に流すと、それを丁寧に自分の髪に塗っていく。
すると、強く匂いを感じて高揚してしまう。今、佐々原さんが使っているトリートメントを塗ってる。それを考えると、やっぱり高揚して体がぞわぞわとした感覚に襲われる。
丁寧にトリートメントを馴染ませると、シャワーでそれを洗い落とす。ちょっと、残念な気もするけれど、これは必要な事だ。ちゃんとトリートメントを洗い落とした。
そしたら、自分の髪から佐々原さんの匂いが漂ってきた。今、私……佐々原さんと同じ匂いになってる。それに気づくと言葉に言い表せないくらいの高揚感が高まった。
ちらっと佐々原さんを見ると、佐々原さんは自分の髪の毛の匂いを嗅いでいた。
「これが水島さんの匂い……いい匂いだね」
「佐々原さんの匂いもいい匂いだよ!」
「そう? ありがとう。なんか、仲良しの証みたいだよね」
「そ、そうだね!」
まだまだ普通の友達だけど、お互いの匂いを纏うってなんだか特別な事みたいに思っちゃう。この匂いに包まれて過ごす一日は特別な日になりそうだ。
「お互いのシャンプーとトリートメントを交換、ですって! そんな特別な事をしているなんて、なんて百合なの!? いい、いいわ! グッジョブよ!」
すると、泉さんが間に入ってきた。これって百合なんだ、だから泉さんがこんなにも興奮しているんだね。じゃあ、私と佐々原さんは順調に交流を深めていることになる。
「二人ともどんな気持ちが教えて! ねぇ、今どんな気持ち! お互いの匂いを纏うなんて、そんな……そんなことを!」
……泉さんの圧が強くて、いい気分に浸れない。こういう時は自重してー!
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