9.休日のお誘い
チャイムの音が聞こえると、放送委員の声がして下校の時間を告げてきた。
「「「あっ」」」
私たちの声が重なった。
「ど、どうしよう! 今日も普通に話しただけで終わっちゃったよ!」
「勉強をしてないよ。このままだと佐々原さんの追試が!」
「しまったわ……つい我を忘れてしまったわ」
本当にどうしよう! 佐々原さんに勉強を教えるつもりが、普通の会話をするだけで終わっちゃった! もう帰る時間だから、学校に残る事もできないし……。
「あー、終わった。ウチ追試は合格点取れないかも」
ガッカリした佐々原さんは机の上に突っ伏した。その様子を見て、どうやって励まそうか考えていると、泉さんが手を叩く。
「そうだわ。だったら、明日も集まりましょう」
「明日も……集まる?」
「えぇ、勉強するなら図書館がいいわ。明日、三人で図書館に集まって数学の勉強をしない?」
そうか、その手があったか!
「えっ……明日は休みだよ? 二人はそれでいいの?」
「私は構わないわ。宮永先生の前で立候補したし、自分の役割を果たせないのは申し訳ないと思っているからね」
「私も大丈夫! 佐々原さんに勉強を教えるつもりだったから、このまま何も教えない訳にはいかないよ」
「本当ー? 良かったー。一人じゃ数学なんて分からないから助かったよ」
最初は遠慮がちに聞いてきた佐々原さんだったけど、私たちの言葉を受けて心底安心した顔をした。そうやって喜んでくれるだけで嬉しいな。すると、佐々原さんが何かに気づいたように姿勢を正した。
「そうだ! だったら、連絡先交換しよう」
「それもそうね。何かあった時に連絡できないのは大変だもの」
「連絡先?」
まだ友達にもなっていないのに連絡先なんて交換していいの? 私が黙っていると、早速二人は連絡先を交換した。そして、二人のスマホが私の方に向く。
「ホラ、水島さんも交換しよ?」
「繋がっておくのがいいと思うの」
「う、うんっ!」
わっ、凄い。こんな二人と連絡先が交換できるなんて、普通の生活していたらありえないことだ。私はドキドキしながら二人と連絡先を交換する。そして、アプリの画面に追加された二人のアイコンを見て嬉しさがこみ上げてくる。
「三人一緒に連絡取れた方が良いと思うから、グループ作っておくね」
「そうね、その方がやり取りが楽だわ」
さくさくと話は進んでいく。佐々原さんがスマホを操作すると、通知音が鳴った。画面をタップすると、新しいグループへの招待が届いていた。そのグループ名を見ると「ササisミズ」と出てきた。
「どう? パッと思いついたグループ名にしては上出来じゃない?」
「ふふっ、泉さんが動詞になってる。面白いグループ名だね」
「でしょ、でしょ? 泉さんはどう思う?」
佐々原さんと一緒に泉さんを見て見ると、画面を真剣な目で眺めていた。
「この配置だったら、佐々原さんが攻めになる。だけど、状況的には水島さんが一方的に思いを寄せているから、水島さんが先の方がいいのでは? でも、普段の行動から推測すると佐々原さんが攻め気質があるから、あながち間違いではない。でも……」
「まーた、泉さんが意識飛ばしてるよ」
「泉さん、戻ってきてー」
泉さんが言っている事は半分も理解できない。それも百合に関係しているのかな?
「このグループ名でもいいけれど、もっと他の表現方法があると思うの。でも、それが中々思いつかなくて……」
「グループ名をそんなに真剣に考えなくてもいいんだよ」
何故か、泉さんが悔しそうにそんな事を言った。他の表現方法か、それで一体何を表現しようと思っているのか私には分からなかった。
「面白いグループ名が思いついたら変えるって事にして、明日のことはこのグループで話し合おう」
「そうね。もう帰らないといけない時間だから、明日のことは家に帰ってからね」
「だね。じゃあ、帰ろうか」
明日の予定を決める時間がなかったから、私たちは連絡先を交換して教室を出て行った。……ハッ! ということは、家に居ながら佐々原さんと話せるってこと!? うわわっ、どうしよう! 今から緊張してきた!
◇
家に帰ってきた私はリビングのソファーに座りながらスマホを握っていた。これから佐々原さんと初めての連絡をするんだ。そう思うと、嬉しくなって鼓動が高鳴る。
私から送ったほうがいいかな? それとも連絡を待った方がいいかな? どっちにしようか悩んでいると、突然スマホから通知音が鳴った。
「わっ! れ、連絡来た?」
ドキドキしながら画面をタップすると「ササisミズ」のグループに通知が来ていた。ドキドキしながらタップして画面を開くと、メッセージが表示される。
『今週は付き合ってくれてありがとう! 明日は図書館で数学を教えてくれると嬉しいぞ!』
佐々原さんからのメッセージだ! その文字を見るだけで嬉しくて、頬がにやけてくる。このメッセージにはどんな言葉を返そうか悩んでいると、また通知音が鳴った。
『明日行く図書館はここにしましょう』
今度は泉さんだ。URLが貼られたメッセージで、そのリンクを見て見る。画面に表示された商業施設が隣接した図書館で色々と便利な部分があって有名なところだった。ここなら色々と困らなさそうだ。
『一日いても大丈夫だと思うの』
その言葉に私はテンションが上がった。もしかして、一日中佐々原さんと一緒にいられる? 今までは放課後の数時間だったけど、いきなり一日中いるのは私的にハードルが高いのでは!?
一日中一緒に居られることの嬉しさと緊張で感情の起伏が激しくて辛い。もうちょっと落ち着いてお話したいけれど、まだ今の状況に慣れていないから無理だ。
『土曜日に図書館で勉強して、日曜日は自宅学習すればいいわ』
『えーっ、日曜日にも勉強するの!? 赤点を回避すればいいんだから、そこそこできればいいよ!』
『追試でいい点取れれば、評価も上がると思うのよね。一度目の失敗をチャラにできるんじゃないかしら?』
『確かに赤点を取った汚点は残ったら大変だ。進級できない状況にはしたくない』
『だったら、この二日間は頑張る事ね』
ふふっ、泉さんって意外と厳しいんだ。そりゃあ、学年一の成績だし、厳しくもなるか。そんな泉さんに勉強を教えてもらえると、佐々原さんの勉強も捗るよね。
も、もちろん私も勉強を教えるつもり。でも、泉さんの方が教えるの上手だったらどうしよう。それだと私は余計な訳で、佐々原さんの邪魔になるんじゃない? うぅ、邪魔にされたくないけれど、力にもなりたいよぉ。
『明日は九時に図書館前で集合でいい?』
『もちろんよ。勉強のやる気があって結構』
『勉強をするには休憩も必要だからね。休憩時間の事を考えると、早く入った方が良いと思って』
『休憩時間の事を考えているの? 呆れた、勉強をするんじゃなかったのかしら?』
『勉強大事! だけど、その勉強をするための休憩も大事!』
勉強をするために休憩も大事か。それはそうだけど、今までの二の舞にならないかな? ハッ、私全然メッセージ送ってない! 折角、佐々原さんとやり取りするチャンスが!
えーっと、えーっと……。
『放課後みたいな事にならないように、しっかりと見張らないとね!』
うぅ、あんまり考える時間がなかったからこんなメッセージしか考えられなかった。大丈夫かな? ……通知が来た!
『じゃあ、私は佐々原さんを見張る水島さんを見張るわ』
『見張るんじゃなくて勉強を教えろー! 二人いる意味ないじゃーん!』
あっ、良かった、あのメッセージで大丈夫だったみたいだ。でも、あんまりメッセージ交換できなかったな。今度はちゃんと交換できるように、心臓を鍛えないと!
そして、一日中佐々原さんといても大丈夫な強心臓を作るために、全力ランニングをした。
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