日常
── 桜 視点 ──
「いやー、昨日は大変だったなぁ……。」
学校に向かう電車の中、僕は小さく呟く。結局あの後も、
……そういえば、結局あの子は脱出できたんだろうか?
ふと昨日のあの子がどうなったのか気になった僕は、スマホで検索をかけてみた。すると
“『桜ダンジョンの精霊』とは何者なのか?”
“あの少年の正体とは?”
“あの動画は合成なのか?専門家が徹底考察”
だの、いろんな動画が出てきて、僕はそっとブラウザを閉じた。どうやら被害は出ていなさそうで一安心だけど、目立っちゃったのはいただけないなぁ……。どうやらあれ、配信されてたみたいだったし。僕はただ、自分の家を守ってるだけなんだけどなぁ……。それに、あのペンダントも無くしちゃったし、今日も帰りはあそこに行くことになりそうだなぁ……。はぁ……。絶対人増えてるし、行きたくないなぁ……。
僕がそんなことを考えていると、電車が学校の最寄駅に到着する。僕が通っているこの学校は、国立冒険者育成学校高等部。通称「ダンジョン高校」と呼ばれている。
日本にダンジョンが現れてから早25年。世界は大きく変わってしまった。突如世界中に出現したダンジョンと、そこに生息する未知のモンスターたち。従来の兵器はダンジョン内ではなぜか碌に扱うことができず、人類はモンスターに蹂躙されるかに思われた。しかしダンジョンが出現すると同時に科学では説明のつかない能力を持った人々が現れた。彼らはその能力でモンスターを撃破し、ダンジョンを踏破していく。やがて彼らは冒険者と呼ばれるようになっていった。……というのが誰もが習う「ダンジョン黎明期」の歴史だ。
そして今僕が通っているこの学校は、冒険者を育成するために作られた学校だ。ここに通うのは皆冒険者としての才能を持った人たちだけで、卒業後は冒険者として活動する人がほとんどだ。人によっては配信をやる人もいるけど、僕が配信をすることはないだろう。僕はただ、目立たず生きていきたいだけだからね。
教室に入ると、すでに登校していた複数の生徒が話しているのが聞こえる。
「昨日のミアさんの配信見たか?」
「見た見た!結局あの『精霊』って何者だったんだろうね。」
「どうみても僕たちと同じくらいの年齢だったよね?」
「検証してた動画じゃその腕は少なくともAランク以上だって言ってたけど、ほんとなのかなぁ?」
「そんな人いたら絶対話題になってるはずなのにそんな話題がないってことは、やっぱり加工なんじゃない?」
……やっぱり話題になってるなぁ……。あの時は気づかなかったけど、彼女──。
僕がそこまで考えたところで、教室の扉が開き、1人の生徒が教室に入ってくる。背中まで伸びた明るい金髪に、ラピスラズリのように碧い瞳。女性らしいスタイルの中にも芯の通った強さを感じさせるその姿を見た瞬間、教室内にいた生徒たちが一斉に彼女の元へ向かう。
「昨日の配信見たよ!」
「昨日は大丈夫だった!?」
「怪我はない!?」
一斉に向けられた質問に、彼女は
「うん。あの親切な彼のおかげで問題はなかったよ。」
と答える。
そうして一気に賑やかになった彼らを横目に、僕はひっそりとため息をつく。
そう、昨日助けた彼女、なんとクラスメイトだったのだ。界隈では結構有名な配信者で、16歳にしてCランク冒険者となった新人の星と呼ばれている。
「16歳でCランクねぇ……。」
僕はそう呟き、ポケットの中に入っている小さなバッヂを指でなぞる。僕からしてみれば、Cランクの試験なんて欠伸が出るくらい簡単だったんだけどな……。
するとその時、僕のスマホが振動する。見ると、1つのメッセージが届いていた。それをみた僕は、再びため息をつくと、予定の組み直しを始めた。
その日の放課後。学校が終わった僕は、すぐにダンジョンへ向かった。目的はもちろん、あのネックレスを見つけるためだ。しかし……。
「やっぱりこうなるか……。気配遮断を最大にしておかないと……。」
ダンジョンは、いつも以上に人でごった返していた。その大半が近くにドローンを浮かべた配信者であり、正直鬱陶しい。気配遮断をそれなりの強さで発動しつつ彼らの間を通り抜け、僕は昨日
「周りに人の気配はなし。……結界・タイプD発動。」
僕がそう唱えると、ここら一帯に結界が張られる、効果は人避け。これで僕が指定した対象以外はここに来れないはず。そうして僕は、彼女をここで待つことにした。
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