精霊術が支配するこの世界で

あかぎ

プロローグ

 精霊術――それは大地を司る精霊たちの力を借りることで無から有を生み出す不思議な技。


 杖から出た炎で魔を焼き払い、水で大地を潤し、風で魔を切り裂く。


 精霊と契約を交わした者たちは命を賭け、魔を打ち払い精霊との契約を守らなければならない。

 

 遙か昔、我らが祖先の作った国は魔法使いによって存亡の危機に瀕していた。魔法によって多くの民が殺され、魔法使いが産んだ魔物たちが大地を跋扈する時代。


 このままでは我らは滅びてしまう。

 そんなとき偉大なる王、後のオルタシア一世は大地を守る精霊たちと契約を交わした。


 精霊術、王は精霊によって与えられた力をそう呼んだ。 精霊は我らに力を与えること、我らは大地から魔を駆逐すること。それが我ら精霊の民と精霊が交わした契約だった。


 その契約以降我らは精霊の民を名乗ることになった。王は民を苦しめる魔法使いを仲間たちと共に倒し、大地を取り戻していった。


 しかし、そんな王に対抗するかのように魔法使いは恐ろしい魔物を次々と生み出していった。


 灯台よりも大きい巨人や山をも呑み込む大蛇。

 そして――ドラゴン。


 そんな魔物たちによって国は灰燼に帰す寸前となり人々が絶望に包まれる中、世界を光りが覆った。

 王は自分の命を犠牲に禁断の術を発動させたのだ。


 世界が光りに包まれて数刻、ドラゴンや大蛇、その他の魔物は姿を消した。

 そうして民を守るため王は自身の命を燃やして世界の危機を救ったのだった。


「これで話はお終いじゃ」


 部屋の真ん中に置かれた蝋燭の火が消えそうになった所で老人は話をやめた。老人の横には少年がベットに横たわっていた。


「え~これだけ⁉もっと王様の活躍が聞きたいよ!」


「だめじゃ。話し終えるまで眠らないじゃろう?明日は朝から麦の収穫じゃぞ」

「おじいちゃんのケチ~」


 ベットに寝転がる少年は唇をひん曲がらせ抗議した。そんな孫の姿に頬を緩ませながら老人は言った。


「まあまあ、明日の夜は王様とお姫様の出会いのお話をしてあげるから」


「やったー!」


 少年は心底嬉しそうに顔をほころばせた。しかし、ふと表情を戻し、祖父に聞いた。


「あれ?でも、まだ魔物は一杯いるよね。王様が全部倒してくれたんじゃないの?」


「王が倒したのはあくまで魔物じゃからな。魔法使いを倒したわけじゃないから、魔物は消えとらんのじゃよ」


 老人は悔しさを顔ににじませながら、苦々しく言った。


「そうなんだ……」


 その言葉を聞いて少年が落胆したように声を落とした。

 そんな孫を勇気づけるように、老人が明るい声で話す。


「心配せんでも大丈夫じゃよ。オルタシア一世やそのお仲間の子孫の方たちが王や貴族として立派に国を守ってくれておる。精霊術があれば、いずれ世界からは魔は必ず消え去る」


「うん、そうだね!」


「よし、それではもうおやすみ」


「おやすみなさい、おじいちゃん!」


 こうして歴史は代々語り継がれていく――。


 魔法使いは忌むべき存在であり、精霊術師は悪を消し去る偉大な者たち……それは常識であり、疑う者などいない。


 しかし、歴史は本当に事実を伝えているのだろうか。歴史というものは人がつくり、語り、そして記憶していく。


 人の意思が介入していない歴史などは存在しない。常識がひっくり返る時、世界もまた大きく変わる。


 そして、歴史を大きく揺るがす二人の旅が始まろうとしていた――。

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