馬鹿は転生しても治らない

ぽっぽ屋

転生、そして伝説へ…

女神アステカ「リセマラしたい……」

 魔王軍は急速に勢力を拡大し、ついに女神の妹マヤをも手中に収めた。パンゲア大陸全土を掌握するのも、もはや時間の問題だ。

 女神アステカは、異世界からの勇者の召喚を求められていた。正義の心を持ち、逆境をも跳ね返す、屈強な勇者を。


女神アステカ「——それなのに、つい魔が差してしまったのです。世界の命運を握った勇者を、あろうことか、で選んでしまうとは。女神、一生の不覚」


 大陸中央に位置する王国ドラクマは、人口3000人の中規模都市だ。立地からして交易の要所となっており、市場では様々な品が売り買いされている。また行商人も多いだけに、始まりの街ではまず見掛けないような掘り出し物とも巡り合える。

 女神御一行は冒険の前に、各々、市場でアイテムの調達を行っていた。集合場所はここ中央広場。アステカはかれこれ二時間、待ちぼうけを食っていた。


アステカ「でも、仕方ないじゃないですか。どうせ一緒に旅をするなら、うぶで垢抜けない少年より、女神好みのワイルドなイケオジに囲まれたいじゃないですか。あわよくばロマンチックなアバンチュールを、なんて期待しちゃうじゃないですか。ですが……そのせいで、とんだ馬鹿二人を召喚してしまいました」


 アステカは、げっそりした顔で振り返る。

 異世界からの勇者が一人、帰ってきた。


勇者ケンジ「お、火炎魔法って便利だなおい。ヤニ吸うのに、もうライターいらねぇじゃん」


 ケンジ、魔法使い。

 小柄ながら、異性を虜にする甘い眼差しを持っている。二重で醤油顔のイケオジだ。声がまたいい。

 転生前、女神権限で思い思いのユニークスキルを授けるチャンスを設けたのだが、迷わずマルメン吸い放題を希望した。本日、あれで五箱目である。


アステカ「顔はいいのに。女神好みのイケオジなのに……」


 アステカが後悔しているのは、ケンジだけではない。

 人ごみを縫って、もう一人の勇者が帰ってきた。


勇者ユーサク「この街、どうなってんの?パチンコもソープもねぇよ」

アステカ「世界観的にあるわけないでしょうが!!……って、まさかこの二時間、そんなものを探し歩いていたのですか!?」

ユーサク「薬草なんか買い溜めても、どうせホイミ程度の効果なんだろ?序盤はそう使わねぇって。アイテム欄の枠食って、そのうち捨てるのがオチだって」

アステカ「薬草の他にもあるでしょうが、松明とか銅の剣とか」


 ユーサク、剣士。

 一八〇センチ超えの高身長で、すらっと伸びたシルエット。一重で塩顔のイケオジだ。天然パーマがよく似合う。

 転生前、1円パチンコで聞き齧った生知識で、やれ『ステータスカンスト』だ、やれ『残機数∞』だと、女神のキャパシティーを越えるチートスキルを要求したので、嫌がらせに『放屁でエーデルワイスを奏でる能力』を付与した。今のところ、活躍の機会はない。


アステカ「イケオジ二人に挟まれているのに、絵面はいいのに……これではギャグ漫画じゃないですか」


 イケオジ勇者二人とのイケナイ冒険譚になるはずが、内面をまったく考慮していなかったせいで、とんだ馬鹿どもを掴まされてしまった。いくら顔が好みでも、この二人とロマンスなんて、三角関係なんて、とても期待できそうもない。


ユーサク「ばあちゃん、なにぶつぶつ言ってんだ?」

ケンジ「あの年になると、老い先短ぇから、何かにつけて念仏を唱えたくなるんだよ。俺の死んだばあちゃんもそうだった」

アステカ「女神をおばあちゃん扱いしないでください!!見た目通り、ぴちぴちの100024歳なのですよ!?」

ユーサク「白塗り悪魔並のババアじゃねぇか」


 女神は天地創造から世界を見守っているから、いくら見た目が若くとも、いくら金髪美女でも、実年齢はかなり行っていると相場が決まっているのだ。

 理想と現実とのあまりのギャップに、アステカは、年甲斐もなくお見合い写真感覚で勇者を選定してしまったことをほとほと後悔していた。

 はたして世界の命運は、ヤニカスとパチンカスに託された。


アステカ「リセマラしたい……」

 冒険はまだ始まったばかりだ。


 ここで改めて、パーティーメンバーのステータスを確認してみよう。


 ユーサク 剣士

 レベル:1

 HP:13/13

 MP:0/0

 ちから:25

 すばやさ:17

 たいりょく:32

 かしこさ:0

 うんのよさ:5

 すきる:放屁エーデルワイス


 ケンジ 魔法使い

 レベル:1

 HP:10/10

 MP:0/24

 ちから:5

 すばやさ:7

 たいりょく:12

 かしこさ:0

 うんのよさ:5

 すきる:無限マルボロ


 アステカ 女神

 レベル:99

 HP:9999/9999

 MP:9999/9999

 ちから:999

 すばやさ:999

 たいりょく:999

 かしこさ:999

 うんのよさ:999

 すきる:十万年に一人の美女


ユーサク&ケンジ「「待てやこらぁっ!!」」

アステカ「ひぃん!?」


 ドラクマを西へ出た平原。

 男二人が問い詰める。


ケンジ「なんで自分だけ初期パラメータがカンストしてんだよ?」

ユーサク「やり過ぎだよこれ。運営が飛んできて、即BANするやつだよ。チート使いました〜って首にぶら下げてるようなもんだよ」

アステカ「その運営こそ女神ですから!十万年も女神をやっていれば、経験値も溜まりに溜まって、カンストだってしますよ!」

ユーサク「そんな誕生日ケーキのロウソク感覚でパラメータ盛られると、冷めるんだよね」

ケンジ「お前の誕生日ケーキ、もう原形留めてねぇぞ」


アステカ「リセマラしたい……今度こそ、ちゃんとした勇者を選びたい……」


 ところで、野外では基本、モンスターが出るものだ。

 草むらが揺れる。


アステカ「お出でなさったようですよ」

ユーサク「いよいよ初戦闘か」

ケンジ「腕が鳴るぜ」


 が あらわれた!


ユーサク&ケンジ「「って、おいいいい!!」」

アステカ「ひぃん!?」


 どうする?


ユーサク「『どうする?』じゃねえよ!普通ここはスライムだよね!?初陣がドラゴンとか、イントロで祟り神を討伐するようなもんだよ!右腕呪われちゃうよ!」

ケンジ「ポケモンだったら、一番道路でレックウザが飛び出してくるようなもんだぞ!ヒトカゲも泡吹くぞ!」


アステカ「ま、魔王軍の手がここまで迫っていたとは……」

ユーサク「なに魔王軍のせいにしてんの?あんたの創った世界だろうが。責任持て」

ケンジ「MOTHERでマップまずっても、こんな化け物出てこねぇよ。ピッピもワンパンで屠られるぞ」

アステカ「とにかく!何かしらのアクションを起こさなくてはなりません……って、二人とも、どうしてこちらを見るのですか?」


 二人がアステカを振り返る。

 アステカはきょとんとする。


ユーサク「よお〜し、こんな時こそカンストババアの出番だ。メガンテくらい撃てるだろ。チャオズみたく、ちょっくら『さよなら天さん』してこい」

アステカ「あの……」

ケンジ「メラゾーマでもベギラゴンでも何でもいいぞ。レベル差あるから、ごり押しでいけるだろ」

アステカ「え〜っと……」


 女神はにこっと小首を傾げる。


アステカ「女神はあくまで世界を見守る存在ですので、なのですが?」


ユーサク&ケンジ「「役に立たねぇな!!」」

アステカ「ひぃん!?」


 女神はあくまで監督者であり、いくらステータスが高くとも、プレーヤーみたく世界に直接干渉することはできないのだ。

 そのために代執行としての勇者がいる。

 ユーサクとケンジは戦いを求められている。相手がドラゴンだろうが、魔王だろうが、一応勇者として選ばれた以上、立ち向かわなくてはならない。


ユーサク「よお〜し、じゃあ魔法使い、なんか魔法撃て。いくら馬鹿でもメラくらい撃てるだろ」

ケンジ「悪い。ヤニ吸うのに使いすぎて、もうMP枯渇してんだわ」

ユーサク「馬鹿なの!?まだ初陣だよ!?」


 煙草一本につきMPを2消費する。

 矛先は一八〇度、反転する。


ケンジ「お前こそ、剣士なんだから、剣で斬り掛かれ。いくら馬鹿でも、1くらいはダメージが入るだろ」

ユーサク「剣?……剣なら質屋に入れたぞ」

ケンジ「馬鹿か!!なに冒険に手ぶらで来てんの!?ピクニック感覚!?」


 剣の売り値はたったの3Gだ。


アステカ「二人とも、馬鹿なのですか?」

 女神は呆れずにはいられない。


 魔法使いはMPゼロ。

 剣士は手ぶら。

 女神は置物。

 どうする?


ユーサク「こうなったら、ババアを囮にして逃げるか」

ケンジ「それっきゃねぇな」

アステカ「なんで!?」


 ユーサクとケンジは一切の情けもなく、アステカの背中をぐいぐいと押し込んだ。ドラゴンの生け贄に差し出して、自分たちだけ助かろうという魂胆である。


ユーサク「だいたい昨日までパチ屋通いしてたおっさんにドラゴン退治をしろったって、無茶な話なんだよ。こちとら尿酸値が危険水域だぞ」

ケンジ「十万年も生きりゃ大往生だろ。ばあちゃんの意志は、若い世代が継いでやんよ。だから安らかに眠れ」

アステカ「なに簡単に切り捨てようとしているんですか!!それでも勇者ですか!?……って、だから押さないでって言って——」


 ドラゴンの目の色が変わった。

 臨戦態勢。

 鼻を膨らませ、火球を吐き出す。


アステカ「きゃっ!?助け——」


 爆煙が巻き上がった。

 土が捲れ、一帯に焦げた臭いが漂う。

 だが……アステカはである。


ユーサク「なるほど。カンストしてるから」

ケンジ「固くてダメージ入んねぇのか」

ユーサク「なんか急にドラゴンがコイキングに見えてきたわ」

ケンジ「顔は赤いギャラドス似なんだがな」

ユーサク「…………」

ケンジ「…………」

ユーサク「……おし」

ケンジ「……逃げるか」


アステカ「え、ちょっ……行っちゃうのですかぁっ!?」


ユーサク「ババア超固ぇじゃん。もう全部あいつ一人でいいんじゃねぇかなってなるじゃん」

ケンジ「主役の座はあんたに譲るよ。この際タイトルも『最強の鉄壁ババア、ガンジー戦法で異世界を救う』辺りに改題すればいい。熟女好きが飛びつく」


アステカ「いやっ、ダメージは入らなくても、熱いものは熱いのですよ!?それに女神は反撃できない……って、行かないでぇっ!!」


 ユーサクは にげだした。

 ケンジは にげだした。


アステカ「この薄情者〜〜〜〜っ!!」


 ドラゴンの攻撃。

 しかし何も起こらない。


アステカ「だから熱いんですって!!」

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