第5話

崎矢さきやとの食事は、崎矢のおすすめのイタリアンに行くことになっている。

そこで崎矢についてリサーチし、そしてどれだけ姉をアピールできるかが勝負だ。

次男つぐおは一張羅に着替えると、待ち合わせ場所に向かった。


「やぁ」


早めについたつもりだったが、すでに崎矢は待っていた。

身長も高く、がたいもいい。

姉にぴったりな気がしてくる。


「すいません、あとから来ちゃって」

「いいや、俺が仕事の都合で早く待ち合わせに来たけだから気にしないで」


爽やかな笑顔に、早めに来つつ、相手が気にしないように話すスマートな物言い。

今のところマイナスなところがない。

次男つぐおは期待しながら、崎矢の案内でイタリアンに向かった。


崎矢のお気に入りの店は、小さなイタリアンだ。

ご夫婦でやっているお店のようで、旦那さんがシェフで奥さんがホールを担当していて、アットホームな雰囲気だ。


崎矢が適当に注文した料理が並べられる。


「お酒はもう大丈夫かな?」

「はい、20は超えているので」


ワインも注文して、和やかに食事は始まった。

だが、次男つぐおにとっては勝負の始まりである。

次男つぐおの心の中で、戦いの始まりを告げるほら貝が鳴った。


「あの、崎矢さんはこういうところをデートで使ったりするんですか?」


「そうだね。彼女と来たこともあるよ」


「そうなんですね。崎矢さんの彼女ってどんな人なんですか?」


「あ~…今はいないんだよね。去年の暮れに別れちゃったから」


崎矢は苦笑いしながら、ワインを飲んだ。

正直彼女がいたらどうしようと思っていたが、半年以上前に彼女と別れたらしい。

そこから仕事も順調で出会いもなく、今に至るそうだ。

最初の難関はクリアしたと次男つぐおは心の中でガッツポーズをした。


「5年も付き合ってたからね、なんだか付き合い始めってどんな感じだったかとか忘れちゃったよ」


「あの、5年も付き合ったのにどうして・・?」


「あぁ、仕事で忙しくなって、あまり相手が出来なかったから、それが我慢ならなかったみたい」


「じゃあ、次に付き合うなら仕事に理解のある女性がいいですよね」


「まぁそうだね。次男つぐおくんは彼女いるの?」


「えっと、僕は」


蛯名えびな美園みそのの顔が浮かぶ。

少しウェーブがかかった茶色のロングヘアに、小さい顔に大きな瞳、かわいくて小さな唇―

にっこり微笑みかける美園は、天使にしか見えない。


次男つぐおくん、顔真っ赤だよ?」

崎矢にからかわれると余計に顔が熱くなる。


「そっか、片思い中なんだね」

次男つぐおが美園のことを話すと、「青春だね」と崎矢は微笑んだ。


「まぁでも色々ハードルが高いので・・・」

「色々?」

「えぇ、まぁ、はい・・・」


次男つぐお!”怒った顔のごりらが浮かんで、次男つぐおはため息をついた。


料理もお酒も進んで崎矢はいい調子になってきている。

次男つぐおはお酒に強いので、全く酔ってはいない。

ここだけは兄弟全員共通の特徴である。


「うちの姉ちゃんも一人なんですよね」


「工藤さんが!?あんなに美人なのにね」


「仕事が好きみたいで、なかなか」


「あぁ、そうだよね。工藤さんは本当に仕事熱心で、尊敬しちゃうよ。妥協は絶対しないし、でもしっかり期限には間に合わせてくれるし」


どうやら姉のことは好印象のようだ。

ここは勝負のかけどころかもしれない。


「うちの姉のことはどう思います?」


(さぁ、どうでる・・・)


ドキドキと返事を次男つぐおが待っていると、崎矢は少し考えて、「素敵な人だと思うよ」とはっきりと言った。


そして、その後は他愛もない話をして解散した。


◇◆◇


「つーちゃん、すごい!そこまで話したんだね」

家に帰って、兄の歩夢あゆむに報告すると、うさぎのように跳ねながら喜んでいる。

今日の歩夢の服は大きくウサギが書かれたトレーナーである。


「それって脈ありっぽいよね!」


「だよね!俺もそう思ったんだよね。なので」

次男つぐおは立ち上がった。


「今週末に家に招待した!」


「おぉ~」と歩夢が拍手する。


「ここが勝負時だと思うんだよね。姉ちゃんも休みだし、兄ちゃんもバイトないって言ってたよね?」


「うん、大丈夫だよ~。でも家に呼んで大丈夫?お姉ちゃんが怒りそうだけど」

「大丈夫!」

「さすが、つーちゃん!作戦があるんだね」

「ううん、もう報告して怒られた」そう言って次男つぐおは殴られた頭を撫でた。


そして約束の週末となった。

姉の結婚のために、次男つぐおは朝から料理を頑張った。

もちろん、姉が作ったことにする予定だ。

料理なんてカップ麺しかできませんよ、なんて口が裂けても言えない。

姉も外面はいいタイプなので、洋服選びに余念がない。


インターホンが鳴って、次男が玄関を開けると、そこには二人いた。

「崎矢さんと・・・神原かんばらさん!?」


「ついて来ちゃった」

崎矢に続いて、神原がペコっと頭を下げて、家に入っていく。


「これは嫌な予感がする・・・」


次男つぐおは嫌な予感さいなまれつつ、家の扉を閉めた。

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姉ちゃん結婚㊙︎大作戦 月丘翠 @mochikawa_22

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