激動!魔法少女レスキュー隊②

「えっと、これ、何かな?」

 来華は愛依奈達に連れられて、稔の家に来ていた。正確には、庭にあるドームに通されていた。

「多目的ドームです。広さは少し物足りませんが、こういう使い方を想定していなかったので仕方ありません。まぁ暴れるには充分でしょう」

「あ、暴れる?」

 稔の口から飛び出した不穏なワードに、来華は意図を訊ねる。それには稔だけでなく、愛依奈も答えた。

「実はあたし達、満織ちゃんの為に強化合宿をしようと思ってたの」

「このままではロストハートとの戦いには勝てません。なので、満織さんにパワーアップをして頂きたいと」

「私もすごく気にしてて……こういう事をしてくれるのありがたいんだ」

 満織は頭を掻きながら、恥ずかしそうにしている。

「それはすごくいい考えだと思うけど、レスキュー隊の活動と関係あるかな?」

「困ってる魔法少女を助けるのが、魔法少女レスキュー隊の活動内容よ。実力不足で困ってるなら、トレーニングに付き合うのもあたし達の仕事!」

 意気込む愛依奈を見て、来華は苦笑する。

「幸野谷もこんな事はしたくないだろうが、強くなってもらわないと俺達が困る。ロストハートを倒せるのは、幸野谷しかいないんだからな」

「恭也君……」

 恭也がシビアな一言を挟む。そう。ロストハートに有効打を与えられるのは、満織の魔力のみ。恭也の超能力すら、ロストハートを撃破するには至らないのだ。最後を決めるのは魔法少女であり、魔法少女レスキュー隊が出来るのは、サポートだけなのである。

(昔の恭也君なら、こんな言い方しなかった。やっぱり私のせいで……)

 昨日の戦いを見た時、恭也の超能力の精度が三年前とは比較にならないほど上がっている事を知った。三年前は、上手く制御出来なくて困っているといつも言っていたのだ。あの事件からずっと、力を鍛え続けていた。その過程で、他人との繋がりを断つ態度を取るようになっていった。その結果が、今の彼の人格なのだ。直接聞いてはいないが、恭也がどういう人間なのかを知っている来華には、容易に想像出来た。

「それで、今回の合宿は何をするんだ?」

 恭也は来華の自責の念を感じ取り、空気を変える為、早々に合宿内容について訊ねる。この事については全面的に愛依奈と稔に任せているので、何をするかは恭也も来華も知らないのだ。

「ロストハートに通用するのは魔法少女の魔力のみ。だから、魔力を高めるトレーニングをひたすら続けようと思ってるわ。でもどうすれば魔力を高められるかわからないから、ミューシャに聞きたいんだけど……」

 愛依奈はミューシャに意見を求める。

「筋肉と同じだよ。とにかく魔力を使うんだ」

「となると、当初の予定通りにやった方が良さそうですね」

「ええ」

 稔と愛依奈は、あらかじめどんなトレーニングをするか考えていた。そしてミューシャの意見を聞き、自分達の考えが間違っていなかった事を確信する。

「あたし達四人を相手に実践形式の組み手をするの」

「もちろん変身して下さい。ご遠慮はいりません。ズルドさんやブラックモンスターを相手にするおつもりで戦って下さい」

「お、おい! 俺もか⁉」

「わ、私も⁉」

 恭也と来華は、当然驚く。同時に、愛依奈と稔が既にストロングブースターとパワードスーツを装着していた理由にも気付く。

「私は全然いいよ。本気を出した江戸川君と戦ってみたかったし、来華ちゃんが使う古流武術っていうのも気になるしね」

 満織はやる気だ。ロストハート相手に矢面に立って戦う人間だけあって、魔法少女としての意識も、戦闘への意気込みも高い。

「ちょっと待て! 一条! お前幸野谷を傷付けたくないって言ってただろ!」

「もちろんそうよ。でもこれは、他ならない満織ちゃんからのお願いなの」



 実は一昨日の夜、満織と愛依奈はこんなやり取りをしていた。

「愛依奈ちゃん。合宿についてだけど、私に遠慮しないで。傷付いたって構わない。ビシバシ私を鍛えて」

「そ、そんな事あたしには出来ないわ!」

 満織は愛依奈にとって、何よりも愛する煌めきそのもの。それを自分の手で汚し、傷付ける事など、愛依奈には耐えられなかった。

「やるの。やってくれなきゃ、私一生愛依奈ちゃんの事恨むから!」

 しかし、満織は聞かなかった。愛依奈は満織の瞳に、揺るぎない光が宿っている事に気付く。満織は本気だ。本気で強くならなければ、この世界を、大切な人を、守れない。だから、強くなる為ならどんな苦行でも受けるという覚悟が出来ている。

「わかったわ」

 愛依奈は了承した。自分も本気でやらなければ、それこそ満織の煌めきを穢す事になる。満織の為に、彼女の願いに応える。その想いを込めて、この合宿を計画したのだ。



「そういうわけだから、二人とも戦って。あたしだってこんな事本当はしたくないけど、ここは心を鬼にするわ」

 愛依奈は恭也と来華に、満織と戦うよう頼む。

「……仕方ない。ならやってやる。その前に、村松」

「はい?」

「来華に一条と同じパワードスーツを着せてやれ」

 愛依奈が常識外れの身体能力を発揮しているのは、彼女自身の身体能力の高さもあるが、制服型のパワードスーツを併用しているからである。

「それなら、もうやってますよ。ただあれ、一条さんに差し上げた一着しかないので、今新しいのを作っているところなんです」

 スーツの基礎設計は出来ており、今は機械に製造を任せている状態である。来華と愛依奈は身長が違う(来華の方が高い)為、微調整やスーツそのもののアップデートを行った結果、ここまで遅くなってしまったとの事だ。

「このトレーニングは勝ち抜き戦です。優木さんには最後に戦って頂きますので、その間に完成するでしょう」

「先方はもちろんあたしよ!」

「オッケー! じゃあ早速始めよう!」

 グローブを装着する愛依奈に対して、満織はスパークルハートを出す。愛依奈は実家が空手をやっており、道場もある。父が五段で、愛依奈自身も二段を取っている。だが愛依奈は戦闘力だけなら、十段と同等かそれ以上であり、それがパワードスーツで強化されているというのだから、満織としては変身でもしなければ戦えない。ちなみにこのパワードスーツによる身体能力の強化倍率は、5倍だ。

「マジカル! スパークル! オンステージ!」

 愛依奈は自分の胸にスパークルハートを叩きつける。

「ハートが弾ける元気の魔法使い! メイチアフル!」

 そして、メイチアフルに変身した。

「みんなストップ!」

 だが戦おうとした時、ミューシャに止められてしまった。

「どうしたの⁉」

「ロストハートだ!」

 ミューシャが、ロストハートの気配を感じ取ったのだ。

「何よ⁉ せっかく気分がノッてきたところだったのに!」

「ほんとほんと! 空気読めないよね!」

 怒る愛依奈とチアフル。

「まぁまぁ。万全な状態で向かえると思えばいいじゃないですか。おっと、万全ではありませんでしたね」

 本来装着していかなければならないパワードスーツを、稔は既に装着している。だが、来華のパワードスーツは、まだ完成していない。

「平気。ロスマンくらいなら何とでも出来るから」

 昨日の戦いで、来華はパワードスーツなしでも、ロスマンに勝てる事がわかっている。ロストハートの戦力を削るという役割を果たすなら、それで充分だ。

「俺がカバーするから大丈夫だ」

「恭也君……」

 すかさず一言入れる恭也。来華は嬉しくなった。

(この気配、変だ。ネガティブフォースの気配が六つしかない)

 一方で、ミューシャは胸騒ぎを覚えていた。ミューシャが感じ取った気配は六つ。普段のロストハートなら、大量のロスマンを連れて現れるはずなのに。しかも、その六つの気配の中に、ズルドの気配がない。しかし、一つだけ強いネガティブフォースを感じる。

「気を付けて! 今回戦う相手は、ズルドじゃない!」

 得体の知れない相手の出現に、ミューシャは警告する。

「ズルドじゃないって事は、別の幹部が来たって事か?」

「あり得ない話ではありません。シャドウズのメンバーはズルドさんだけではないはずですから」

 恭也と稔は話し合う。シャドウズとはロストハートの幹部の総称だ。ズルド以外にもシャドウズのメンバーはいるのである。その誰かが来たのだ。

「相手が誰だろうと、私がやる事は変わらないよ」

 チアフルがやる事は、ロストハートを浄化する事。

「もちろん、あたし達がやる事もね」

 そして愛依奈達がやる事は、魔法少女を守る事だ。

「ミューシャ。ロストハートはどこに出たんだ?」

「あっちだよ!」

「わかった!」

「行くわよ!」

 ミューシャからの指示を受け、魔法少女と魔法少女レスキュー隊はロストハートが出現した地点に、瞬間移動で向かった。



 辿り着いた先には、五体のロスマンと、軽装の騎士を思わせる鎧を身に纏った女がいた。

「遅かったじゃない。魔法少女さん。それに魔法少女レスキュー隊も」

 女、アクーラはニヤニヤ笑いながら言った。

「やっぱりズルドじゃなかった! 別の幹部だ!」

「あなたは誰⁉」

「私はアクーラ。シャドウズの一人」

 訊ねたチアフルに、アクーラは名乗りを上げる。

「……何だあれは? ロスマン……?」

 恭也は、アクーラが連れているロスマンと思しき怪人達の存在に気付く。ロスマンだと断定出来なかった理由は、色のせいだ。色が黒ではないのである。

「いいところに気付いたわね。これが、あなた達を倒す為に私が用意した手段。強化型のロスマンよ」

 どうやらこの怪人達は、ロスマンで合っているらしい。アクーラが片手をかざすと、バラバラだった強化型ロスマン達が一列に並ぶ。

「ロスレッド!」

「ロストー!」

「ロスブルー!」

「ロスト……」

「ロスイエロー!」

「ロストッ!」

「ロスグリーン!」

「ロスト!」

「ロスパープル!」

「ロスッ!」

 ロスマンは喋れないので、代わりにアクーラが名乗る。その度に、ロスマン達がポーズを取る。

「暗黒戦隊、ロスレンジャー!」

「「「「「ロストーーー‼」」」」」

 最後にアクーラがこのロスマンのチームの名を叫び、別のポーズを取るロスマンの集団。その背後で謎の爆発が起こった。

「ふざけているのか?」

「失礼ね! 大真面目よ!」

 あまりにも緊張感が感じられない光景を前にして、思わず訊ねてしまう恭也。当然ながらアクーラは激怒した。



 一方その頃、ゲヘナファクトリーにある、幹部を集めて会議を行う部屋、ブリーフィングルームに、ズルドがいた。部屋には巨大なモニターがあり、それがアクーラと魔法少女達の様子を映している。

「始まったようじゃな」

「……ああ」

 そこにヤシィーも現れ、二人でアクーラの戦いを観戦する事にした。



「ふん! 余裕でいられるのも今の内。すぐにこの布陣の恐ろしさを思い知る事になるわ」

「だったら何かされる前に終わらせる! 私の元気、マキシマム!」

 アクーラの発言に恐怖を感じたチアフルは、早々に浄化魔法で終わらせようとする。

 その時、アクーラがフィンガースナップで指を鳴らした。

「うっ⁉」

「ぐっ! がぁっ……!」

 その瞬間、チアフルと愛依奈が苦しみ出し、その場に膝を付いた。

「チアフル⁉」

「一条さん⁉」

 驚く四人。アクーラは高笑いする。

「あなた達、花粉を吸い込んだでしょ?」

 アクーラの問い掛けで、昨日のブラックモンスターの事を思い出したチアフルは、アクーラに訊き返す。

「まさか、あの花粉に何かしてたの⁉」

「当たり前じゃない。あんな嫌がらせも同然の攻撃で、あなた達を仕留められるわけないもの。あの花粉にはね、ネガティブフォースを圧縮して作った毒が混ぜてあったのよ。気付かれないように少なくね」

 ロストハートはネガティブフォースの集合体。ゆえに、ネガティブフォースを用いる事であらゆる物質を創造する事が出来る。例えば、毒を作る事も。この毒には感染した相手の体内に、時間を掛けてゆっくりと入り込んでいく。この段階ではまだ危険はないが、アクーラが合図するとすぐさま牙を剥き、肉体を破壊し始める。アクーラはそれを発動させたのだ。

「ロストハートは魔法少女の心には干渉出来ない。だから肉体に干渉したという事ですか。しかしだとしても、魔法少女の魔力はネガティブフォースの弱点ですよ⁉ 魔法少女の体内に入って無事なはずは……!」

 驚く稔に、アクーラは笑う。

「魔法少女だからって、常に魔力を生み出しているわけじゃないわ。意識しなきゃ魔力は出せない。魔法界人ですらね。まして魔法少女は、元々魔力と無縁の地球人なんだもの。それに、あなた達もとっくに知っているはずよ? 強力なネガティブフォースは、魔法少女の魔力でも簡単には浄化出来ないって」

 魔法少女が魔力を使えるのは、スパークルハートを手にした時と、変身した時のみ。アクーラが言ったように、魔法界人でも常に魔力を持っているわけではなく、一朝一夕で魔力や魔法を使う事も出来ない。長期に渡る鍛錬が必要だ。スパークルハートは魔法界で常識となっている過程全てをすっ飛ばして魔法を使う為の道具であるゆえ、魔法少女はマジックコアを持っていたとしても、これがなければ魔法を使うどころか、魔力の発露すら出来ないのである。

 加えてロストハートは、最強クラスの浄化魔法でないと浄化出来ないくらい強力なネガティブフォースを生み出す事も出来る。シャドウズの存在そのものが、一番わかりやすい例だ。よって、魔法少女の体内に毒を仕込むという行動は、不可能ではないのである。

「とはいえ、その毒もネガティブフォースの塊だから、魔力を込めれば解毒出来るわ。もっとも、簡単じゃないけどねぇ」

「くっ……」

 チアフルは自身の中の毒の厄介さを知っていた。毒を仕込まれたと聞いた時から密かに回復魔法を使っているのだが、解毒出来ない。これを解毒するには恐らく、魔力を最大までチャージしたチアフル・シャイニング・エクスプロージョン並みの魔力を込めた回復魔法が必要だ。

(まずいな。戦える状態じゃない。一度退かないと……)

 自分達が最悪の状況に陥っている事を悟り、恭也は全員を瞬間移動で連れて逃げようとする。

「行きなさい! ロスレンジャー!」

「「「「「ロストー‼」」」」」

 だがその時、ロスレンジャーがアクーラからの指示を受け、一斉に恭也に襲い掛かった。

「がっ! うあっ! ぐあああああっ!」

 そのスピードたるや、恭也が視認出来ないほどであり、タコ殴りにされた恭也は地面を転がった。

「あなたの力は厄介だけど、弱点はもう見切っているわ。力を使う前に、0.1秒ほど集中しなきゃいけないんでしょう? その間に別の事に気を取られると、あなたは力が使えない」

「!」

 恭也は驚く。アクーラは、恭也自身すら気付いていなかった能力の弱点を突き止めていたのだ。

「大方、瞬間移動で一度退却して、解毒してから再挑戦するつもりだったんでしょう? その手は使わせないわ」

 しかも作戦までバレていた。倒れた恭也を、ロスレッドが蹴り飛ばす。

「このロスレンジャーは、あなたに対抗する為に加速能力を付与してあるの。あなたが力を使おうと思った時には……」

「ごはっ!」

 立ち上がろうとした恭也だが、再びロスレッドに蹴り飛ばされる。

「こうなるわ!」

 攻撃が速すぎて、狙いを付けられない。付けようと思った時には、もう攻撃されている。瞬間移動どころか、力を使う事すら出来なかった。



「おーおーやっとるやっとる。流石じゃな」

 ヤシィーは戦いの様子を見て、感嘆の声を上げている。

(そうだ。これがあの女の怖い所なんだよ)

 ズルドは思った。アクーラの恐ろしい点。それは、初めて戦う相手の戦法に対して、念入りな調査を行う事だ。相手の弱点を徹底的に調べ、その上で相手に対して最も効果的かつ、相手が最も苦しむ戦法を選んで使う。

(これもダキウス様の為だ。そのまま消えてくれ。メイチアフルに魔法少女レスキュー隊。俺の手で仕留められなかったのが、唯一の心残りだな)

 アクーラに目を付けられた事を同情しながら、ズルドは観戦を続けた。



「恭也君!」

 恭也を助ける為に走る来華。

「ロスト…」

「くっ!」

 だがそんな彼女を、ロスブルーが阻む。来華はロスブルーの攻撃を躱し、拳や蹴りを打ち込み、投げ技を掛ける。だがロスブルーは高速移動能力を使い、全ての攻撃を回避してしまう。

「ロスッ!ロスッ!」

 ロスイエローが稔を叩きのめす。稔はロスイエローのスピードに翻弄され、ポジトロンブラスターの照準を合わせられない。

「ロストロストー!」

「うぐっ! このっ……!」

 ロスグリーンと戦う愛依奈。毒で身体が弱りつつあるが、敵の動きを見切る事で、何とか倒されないように戦えている。

「私が仕込んだ毒があなた達の身体を破壊し尽くすまで5分。うふふふっ! 第二段階も完了だわ!」

「負けない! チアフルショット!」

 毒で蝕まれた身体に鞭打って、チアフルは魔力弾を撃つ。

「ふっ……アクーラソード!」

 軽く笑ったアクーラは、黄金の柄を持つ剣を出現させ、魔力弾を斬った。

「あらあら、こんなもの? 剣を使うまでもなかったわね」

 それから、剣をもてあそびつつ笑う。チアフルは歯を食いしばった。

「可哀想に。毒さえなければもっとやれた、そう思ってるでしょ? 残念ね。恨むなら私の策に嵌った自分の弱さと愚かさを恨みなさい!」

 駆け出したアクーラは、容赦なくチアフルを斬り付ける。

「ロストロスト!」

 さらにロスパープルまでが攻撃してくる。

「ロスッ⁉」

 だが、チアフルはロスパープルの拳を両手で掴んで動きを封じ、

「チアフル・オーラ・ウェーブ‼」

「ロスト~~~‼」

 全身から魔力を放って、ロスパープルを浄化した。

「頑張るわねぇ。腐っても魔法少女ってところかしら?」

「武器なら私だって! チアフルステッキ!」

 戦力を一つ潰した。チアフルはステッキを出してアクーラと打ち合う。

「腰が引けてるわよ。それで私を倒そうだなんて、お笑い種ね!」

「うっ! うあっ!」

 チアフルは果敢に打ち込んでいくが、アクーラはそれを容易く払いのけ、チアフルのコスチュームを刻んでいく。

「仕留める前に教えてあげる。私の計画は全部で、三段階に分けられているの。相手の能力や戦い方を調べるのが、第一段階。調査内容に合わせた対策を実行するのが、第二段階。そして、相手を仕留めるのが第三段階よ」

 剣を片手に、チアフルに近付いていくアクーラ。

「これで第三段階も完了ね」

 チアフルが、完全にアクーラの間合いに入った。対するチアフルは、動けない。

(駄目だ……このままじゃ……!)

 来華は焦る。チアフルが接近戦をあまり得意としていないのは既にわかっている。だが、相手は見るからに接近戦のエキスパート。勝ち目はない。

(せめてあと一人、戦える人がいれば……!)

 だが、戦力はいない。そもそも、人間がいないのだ。警察や自衛隊すら駆け付けない。それは、法律で決まっているから。通常兵器が通じない以上、ロストハートに対してどれだけ戦力を送り込んでも、餌を与えるのと同じだ。よって、戦闘は魔法少女に任せ、警察は一般人が近付かないようロストハートの出現区域を閉鎖する事に尽力する。愛依奈が魔法少女レスキュー隊のメンバーをむやみにスカウトせず、少数の部隊にしているのも、戦況の悪化を危惧してだ。

 すなわち、戦える人間が現れる余地がない。

(戦えるのは、魔法少女、だけ……)

 そこで来華は、気が付いた。いるではないか。一人だけ、戦える者が。

 正確には、これから戦えるようになる者、だが。

 その前に、まず目の前のロスブルーを何とかする。

「ふんっ!」

 来華はロスブルーの懐に飛び込むと、右足をロスブルーの両足の間の奥に差し込むようにして踏み込む。

「はぁぁぁっ‼」

 その状態から、胸の中心目掛けて肘打ちを放った。

「ロストー‼」

 悲鳴を上げながら何メートルもの距離を吹き飛んでいくロスブルー。

 これで安全は確保出来た。来華はミューシャに向かって叫ぶ。

「ミューシャちゃん! お願い!」

「えっ⁉」

 ミューシャは驚き、来華を見る。このタイミングで何を願うのか、彼が思い当たるものは、一つしかない。

「覚悟が決まったんだね?」

「うん。私を魔法少女にして!」

「なっ⁉」

 この発言には、アクーラも驚いている。来華が魔法少女の素質を持つという事は、第一段階で知っていた。だが、彼女はチアフルほど心に強さがない。肝心な場面での即決が出来ない。だから、もっと時間が掛かると思い、第一段階では脅威判定をしていなかったのだ。

「そうはいかないわ! ロスブルー! あいつらを止めなさい!」

「ロスト……!」

 ロスブルーは復帰し、来華とミューシャに襲い掛かる。

「やぁっ!」

「ロストッ!」

 だが、ミューシャが両前足を向けると、光の壁が出現し、ロスブルーが弾き飛ばされてしまった。

「これくらいの事なら、僕の魔力でも出来る!」

 ミューシャも魔法界の妖精。この世界の人間より格上の存在なのだ。強化されているとはいえ、ロスマンが相手なら対処は出来る。

「ロスグリーン! あなたも行きなさい!」

「ロスト!」

 ロスブルーだけではミューシャのバリアを突破出来ないと察したアクーラは、ロスグリーンも向かわせる。

「まっ……ぐっ!」

 愛依奈はそれを止めようとしたが、毒が限界に達して倒れてしまった。

「「ロストー!」」

「ま、まだまだ……!」

 攻撃するロスブルーとロスグリーン。だが、ミューシャのバリアは破れない。

「ふん。それなら全てのロスレンジャーを使うだけよ!」

「ロストー!」

 来華の覚醒は阻止出来ているが、これでは完全な阻止には至らない。ミューシャを潰す為、残った全てのロスレンジャーをけしかける。

 だが、ロスレンジャーの動きが止まった。

「俺の弱点を突き止めた事は褒めてやる。だが、それに満足して油断しているようじゃ、何の意味もないんじゃないのか……⁉」

 声に気付いてアクーラが見ると、恭也が倒れた状態でロスレンジャーを睨み付けていた。サイコキネシスで動きを封じたのだ。アクーラはチアフルに足止めされて動けない。従って動けるのはロスレンジャーのみ。しかし肝心のロスレンジャーは来華を止める為、全て動かしてしまっている。従って、恭也を止める為に動かせる戦力がない。本来のアクーラなら、こんなミスはしなかった。だが今の彼女は、来華の魔法少女化を阻止する事を最優先にして焦ってしまい、正常な判断力を失ってしまったのだ。

「そ、そんな身体になっているのに、まだ力が使えるっていうの⁉」

 アクーラは今の恭也の身体を見て驚く。全身ボロボロにされた上に、どうやら右腕と左足の骨を折られているようだ。これだけダメージを受けていれば、もう力を使う事も出来ないだろうという思い込みも、彼女の判断力を鈍らせた。

「残念だったな。頭さえ動けば、俺は戦えるんだよ……!」

 恭也は超能力を使う時、片手をかざすなどの動作をしているが、本当はそういった動作は一切必要ない。気合を入れて力を使うと、つい動かしてしまうというだけだ。

(こうなったらロスマンを……!)

 戦力はロスレンジャーに劣るが、今はとにかくミューシャを妨害する事が必要だ。ロスマンを生み出そうとするアクーラ。

「うあっ!」

 だがその時、光弾が飛んできてアクーラは地面を転がった。

「い、今のは……!」

 ポジトロンブラスターの光弾だ。見ると、そこには稔が立っていて、ポジトロンブラスターの銃口を向けている。しかし、稔にはロスイエローを張り付けていたはずだ。そういえば、先程ミューシャと来華にロスレンジャーを差し向けた時、声が一つしか聞こえなかったと、アクーラは気付いた。

「まさか、倒したっていうの⁉ ロスイエローを⁉」

「やはりロスマンはロスマンという事ですね。高速移動能力を付与したのには驚かされましたが、動きが単調だったので見切って銃撃出来ました。一条さんのように武術の達人というわけではないので、時間が掛かってしまいましたが」

 稔のパワードスーツは、虚弱体質の稔が激しい戦闘にも耐えられるよう、とてつもなく頑丈に作られている。ロケットランチャーで爆撃されても無傷で耐えられるし、装甲の頑丈さに加えて最新鋭の緩衝材が採用されている為、中の稔への衝撃によるダメージもゼロだ。バイザー部分は脆弱だが、それでもショットガンの接射に無傷で耐える事は出来る。稔はこの防御力を利用してロスイエローの攻撃に耐えながら、攻撃パターンを分析。一瞬の隙を突いて腹に銃撃を当て、撃破したのだ。

「うあああああっ!」

 その時、チアフルが力を振り絞り、アクーラに組み付いて押さえ込んだ。

「なっ⁉ このっ! 放しなさいよ!」

 チアフルが組み付いているのは胸元。アクーラの剣は長剣である為、チアフルに届かず斬撃を当てられない。仕方なく肘打ちを喰らわせ、チアフルを引き剥がそうとしている。

「今だ! 変身しろ!」

 ロストハートの動きは全員止めた。これで変身出来る。来華とミューシャに促す恭也。

「うん! ミューシャちゃん!」

「マジカルパワー、アウェイクン!」

 ミューシャは両前足を来華に向けて、光線を発射した。

「思い浮かべて! 君が一番大切にしている心を!」

(私が、一番大切にしている、心……)

 今から来華のスパークルハートを作る。スパークルハートの材料は三つ。ミューシャの力と、相手の魔力と、相手の中に一番強く残っている感情だ。満織は元気を一番大切な感情にしている為、元気が基になった魔法少女、チアフルになった。

 そんな来華が思い浮かべたものは、感動。

 思い出したものは、恭也との初めての出会い。

 来華は物静かな少女で、今のように進んで身体を動かそうとはしなかった。そんな彼女が生まれて初めて本気で身体を動かそうと思ったのは、木の上から降りられなくなっていた子猫を助けようとした時だ。

 木登りなど一度もやった事がない来華は、何度もずり落ち、いくつもの擦り傷を作った。彼女の力では、子猫を助ける事が出来なかった。

 そんな状況を、恭也がサイコキネシスを使って子猫を降ろす事で、解決した。生まれて初めて家族以外の人間の前で、超能力を使った。ズタボロになっても子猫を助けようとしている来華を、見ていられなくなったのだ。

 その時に見た恭也の超能力を、恭也の優しさを、自分の心に生まれた感動を、今でも思い出せる。

(痺れる感動が、私の心を、駆け巡る!)

 目を見開く来華。彼女の目の前に、スパークルハートが現れた。

「青い、スパークルハート……!」

 愛依奈は呟く。チアフルのスパークルハートはピンクだが、今現れたスパークルハートは青だったのだ。

「マジカル!スパークル!オンステージ!」

 来華はスパークルハートを手に取り、変身の呪文を唱え、胸に叩きつけた。

 青い雷が迸り、両手に青い手袋が、両足に白のハイソックスに青のパンプスが装着され、青と白を基調としたミニスカートのドレスが着用される。

 変身を終えた来華は、高らかに名乗りを上げた。

「ハートが痺れる感動の魔法使い! メイインプレス!」

 その名はメイインプレス。感動を魔力に変えて戦う魔法少女。

「「「ロスト~!」」」

 変身の際に発生した魔力の余波に、ロスレンジャーは弾き飛ばされる。その隙を逃さず、インプレスは魔法を使う。

「インプレスアクセル!」

 インプレスの全身に一瞬青い雷が迸ったかと思うと、インプレスは行動。ロスレッドの顔面に右掌底、回転しながら移動してロスブルーの顔面に右裏拳、最後にロスグリーンの胸元に左掌底を浴びせた。

 この間、一秒。インプレスアクセルはスピードを強化する魔法で、発動すると目にも留まらぬ速度での行動を可能にする。さらに、この状態のインプレスは常に浄化の魔力を身に纏っている。ロスレンジャーは自身の能力を使う暇も、悲鳴を上げる暇もなく、爆散した。

「メイインプレス……あっ!」

 チアフルは思わずインプレスの姿に見入ってしまい、その隙を突いたアクーラがチアフルを引き剥がす。

 立ち上がったアクーラは剣を構える。

「こうなったらあなたから先に……!」

 狙いは恭也だ。この状況における最悪の事態は、恭也に瞬間移動を使われ、逃げられる事である。最大の脅威は魔法少女だが、その次に危険なのが恭也だ。魔法少女の覚醒を阻止出来なかった以上、せめて魔法少女と魔法少女レスキュー隊の足を潰す為、恭也に向かって駆け出す。

 だが、それは出来なかった。

 魔法の効果はまだ切れておらず、高速化したインプレスが駆け抜け、アクーラの懐に飛び込み、右手でみぞおち目掛けて掌底を打ち込み、アクーラを吹き飛ばした。

「インプレス……」

 アクーラに向き直ったインプレスを見て、

「綺麗だ」

 恭也は思わずそう呟いた。来華が恭也の事を想い続けていたように、恭也も来華の事を想い続けていた。想いが溢れて、言葉になった。もちろんその言葉はインプレスの耳に届いている。インプレスは一瞬驚いた後、顔を赤くしながら、笑顔で恭也に言った。

「ありがとう」

 大切な人に褒めてもらう事。これ以上の喜びはない。

「あ、あなた……!」

 みぞおちを押さえながら立ち上がるアクーラ。

「私の大切な人を、これ以上傷付けさせない!」

 インプレスはアクーラに力強く言い放った。

「ちょっと力に目覚めた程度の事で私に勝てるなんて、本気で思っているんじゃないわよね?」

 アクーラは笑みを浮かべていたが、明らかに怒っている。それを表現するかのように全身からネガティブフォースが噴き出し、それが大量のロスマンへと姿を変えた。

「行きなさいロスマン!」

「ロストロストー!」

 ロスマンの軍団が向かってくる。

「チアフル・スーパー・ヒーリング‼」

 その時、チアフルの声が聞こえた。

「スーパーチアフルショット!」

 さらに普段のチアフルショットよりも大きな光弾が飛んできて、着弾、爆発してロスマン達が吹き飛び、全滅する。

「お待たせ! 回復完了! 元気全開だよ!」

「ついでにあたしもね!」

 インプレスが見ると、そこには元気になったチアフルと愛依奈がいた。インプレスがアクーラの注意を惹き付けてくれていたおかげで、解毒に必要な魔力を溜める事が出来たのだ。

「そっか。今の私は回復魔法も使えるんだ」

 アクーラに集中しすぎていて、自分が攻撃以外の魔法も使える事を忘れていた。

「恭也君! 今治すね!」

「俺の事はいい。その分は奴を倒す為に使ってくれ」

「えっ、でも……」

「俺を治すのに力を使って、その分奴を倒す力が足りなかったら大変だ。俺は、魔法少女レスキュー隊だから、魔法少女を危険にはさらせない。奴を倒して、余裕があったら治してくれ」

 回復に使う魔力もタダではない。まして今は、チアフルが強力な回復魔法を使って消耗している状態だ。インプレスもまだ魔法少女になりたてで、勝手が掴めていない。となれば、余計な魔力の行使は避けたい。ここで恭也を助ける事は、敗北に繋がりかねないのだ。

「わかった。絶対にあの人を倒して、恭也君を治すから!」

「ああ。待ってる」

 インプレスはチアフルの隣に並び立った。ミューシャが申し訳なさそうに言う。

「ごめんね。僕が治せればいいんだけど、そこまで大きな傷だと、僕の魔力じゃ痛みを和らげるぐらいしか……」

 回復魔法といっても万能ではない。治せるかどうかは、使い手の魔力に依存する。大きすぎるダメージを治すなら、相応の魔力が必要なのだ。また、病気に対しては効果がない。その為、病気は魔法薬というものを処方して治すのだが、これも稔のような重大すぎる病気には効果がない為、稔は黄金の果実を求めている。

「ありがたい。やってくれ」

「うん!」

 しかし恭也は、その好意を無下にはせず、ありがたく受け取る事にした。

「うぐぅ……!」

 片腕を押さえるアクーラ。どうやら、スーパーチアフルショットに巻き込まれてしまったようだ。

「痛い! 痛い! 何で私がこんな連中にこんな傷を……!」

 だが、受けた傷以上に、傷を付けられたという事実の方が大きく、彼女の心を傷付けていた。

「もう許さないわ! 来なさい! ロスピンク!」

「ロスト!」

 怒り狂うアクーラは、新たにピンクのロスレンジャーを呼び出した。

「まだロスレンジャーに頼るの?」

 愛依奈は呆れる。チアフルは体勢を立て直し、新たな魔法少女まで登場した。強化ロスマン一体で覆せる戦力差ではない。

「確かに、このままじゃあなた達には勝てないわね。でも、こうすれば話は変わってくる!」

 アクーラの左手に、ネガクリスタルが出現する。

 そしてそれを、

「ネガクリスタル起動! 心の闇を破壊の力に!」

「ロストー!」

 ロスピンクに使った。

「ロストロストォ~!」

 ロストハートが現地の人間をブラックモンスター化するのは、戦力兼人質として使う為だ。しかし、人間には心の光の部分や肉体など、不純物が多量に含まれている。その為ネガクリスタルは、純粋な心の闇の塊であるロストハート自身に使った方が、戦力としては強く出来るのだ。それが例え、ロスマンであったとしても。

「チアフル。あのロスマンは任せていいかな?」

「えっ⁉ アクーラと一人で戦うつもり⁉」

 インプレスの意図を感じ取ったチアフル。アクーラの強さは、今しがた体感したばかりだ。

「大丈夫。絶対に勝つから」

 だが、インプレスの顔には、揺るぎない勝利への確信が宿っていた。

「……わかった。気を付けてね!」

「じゃああたしはチアフルの方に!」

「僕もです。魔法少女の初陣を邪魔するほど、無粋ではありませんから」

 チアフル、愛依奈、稔の三人は、巨大化ロスピンクとの戦いに向かう。インプレスとアクーラは向き合った。

「さっきは不覚を取ったけど、奇跡は二度も起こらないわよ。素手で剣に勝てるわけがないわ」

 剣道三倍段という言葉がある。剣道に対して空手などの素手の武術が対抗する場合、今自分が取っている段位の三倍の段位の強さが必要という言葉だ。それだけ剣の使い手は強いのである。

「だったら私も、剣で戦う」

 インプレスが片手を胸のスパークルハートにかざすと、日本刀を思わせる片刃の、青を基調とした剣が出てきた。

「インプレスブレード!」

 魔法少女は固有の武器を持つ。チアフルの場合は、チアフルステッキ。インプレスの場合は、このインプレスブレードだ。

 インプレスは力強く踏み込むと、一瞬でアクーラに接近し、斬り掛かる。それを防ぐアクーラ。来華が修めているのは、雷天流闘法という古流武術だ。今まで来華が使っていたのは、その雷天流闘法の打撃技と投げ技である。しかし、それらは本来の戦い方が使えない時の緊急用の技だ。本来の戦い方とは、剣術。すなわち雷天流闘法は、剣を持った時こそ、真価を発揮する技なのだ。インプレスに変身する事により、その技の切れ味はさらに増す。

「剣が得意だったんじゃないの? 隙だらけだよ」

「くっ!」

 雷天流闘法の極意はその名の通り、雷のごとく素早く、鋭く、力強く踏み込み、斬り込む、攻撃と速度重視の戦法。怒涛の斬り込みを見せるインプレスに対して、アクーラは防戦一方だ。

「あなたの剣は弱肉の剣。罠に嵌めて弱らせた相手にとどめを刺す為の、狩りの剣。戦いの剣じゃない。でも私の剣は、大切な人を守る為の、戦いの剣! 私が剣での戦いであなたに負ける事なんて、絶対にない!」

 インプレスは、なぜアクーラが自分に押されているのかを教えた。慣れすぎたのだ。相手を確実に倒す事を目的とする戦い方に。正面切っての戦いのみで磨かれる技術と、積まれる経験、そして養われる精神。それが圧倒的に足りていないのである。

「このクソガキがぁぁぁぁぁぁ‼」

 こんな子供に自分の欠点を指摘された事が許せない。激怒したアクーラは攻勢に転じるが、インプレスはその一撃を躱してアクーラの腹を斬る。ダメージで動きが止まった隙を突き、何度も斬り付ける。一太刀毎にアクーラの鎧が破壊され、戦闘前の余裕は、今はもう影も形もない。

「ロスッ!ロスッ!」

「うぐっ!」

 一方で、チアフル達は巨大化ロスピンクに苦戦していた。元がロスピンクである為、高速移動能力も引き続き所持しているのだ。加えて、ネガクリスタルによるブーストが掛かっている為、浄化魔法でなければ倒せない。

「あたしに任せて! 今こそストロングブースターの第三の機能を使うわ!」

「愛依奈ちゃん⁉」

 愛依奈は飛び出す。そして、音声入力で三つ目の機能を使う。

「ブーストチャージ!」

 三つ目の機能、ブーストチャージ。ストロングブースターに充填されている全ての電力を使い、次に使う機能の威力を高める機能だ。

「ヘヴィークラッシャー!」

 この状態でヘヴィークラッシャーを使う。電力満タンで使った為、その威力は3倍にまで高まっている。

「ロストッ!」

 この一撃の危険性を察知したロスピンクは、高速移動能力で動き回る。強力な一撃も、当てられなければ意味がない。

 だが、愛依奈は空手の達人だ。毒で弱っている時でさえ、高速移動能力を見切っていた。まして巨大化した今、ロスピンクはただの的も同然である。

「そこだぁっ‼」

 愛依奈は背後を振り向きながら、中段突きを放つ。

「ロロロッ⁉」

 命中したその一撃は、ロスピンクの右足を木っ端微塵に吹き飛ばした。

「お見事!」

 続いて稔が、チャージショットモードのポジトロンブラスターで、ロスピンクの顔面を撃つ。目盛り一つ分しかチャージ出来ていないが、バランスを崩したロスピンクを仰向けに転倒させるには充分だった。

「今よ!」

「私の元気、マキシマム! チアフル! シャイニング・エクスプロージョン‼」

「ゲンキ~……」

 愛依奈に促されたチアフルが浄化魔法を使い、ロスピンクが倒される。今回はいつものブラックモンスターとは違い、素体となったロスマンがネガティブフォースの塊である為、浄化後も残る事はなく、完全に消滅し、ネガクリスタルが砕けた。

「馬鹿な……こんなはずじゃなかったのに……!」

 全ての戦力を失ったアクーラは悔しがる。

「今度はあなたの番だよ」

 アクーラに剣を突き付けるインプレス。

「ま、待って! 私はネガティブフォースの塊よ⁉ 浄化されたらそのまま死んじゃうわ! あなたに人殺しが出来るの⁉」

「今自分で言ったじゃない。自分はネガティブフォースの塊だって。あなたは命を持たない闇そのもの。私の光で、闇に返す‼」

 アクーラの命乞いは、インプレスには通じなかった。ロストハートは、ネガティブフォースが形と意思を持ったもの。自我を持つが、命を持たぬ者だ。倒した所で、本来の形に戻るだけ。むしろ戻してやる事こそ、相対した者の礼儀だ。

「私の感動、マキシマム‼ インプレス! サンダー・スラッシュ‼」

 剣に雷が宿る。インプレスは剣を振るい、青く光る電撃を飛ばした。

「ああ、あああああああああああ‼」

 迫る閃光の一撃に、悲鳴を上げるアクーラ。雷が爆発を起こす。

「やった!」

 愛依奈はガッツポーズをした。

 だが、インプレスは鋭い声で叫ぶ。

「違う! 避けられた!」

 そしてインプレスが睨み付ける先には、アクーラを抱き締めるズルドが。インプレス・サンダー・スラッシュが直撃する寸前に飛び込み、アクーラを救出したのだ。

「やるじゃねぇか。アクーラをここまで追い詰めるなんてな。いけ好かねぇ女だが、こんな奴でも大事なシャドウズの一人だ。連れて帰らせてもらうぜ」

 アクーラはインプレスとの戦いで大ダメージを負ってしまい、戦闘の続行は不可能。加えて魔法少女が二人に増えているので、このまま戦えばズルドは怪我人を庇いながら二対一の戦闘を強いられる事になる。その為、ズルドは撤退を選択した。

「逃がさない! チアフルショット!」

 もちろんそれを許すチアフルではなく、即座にチアフルショットを放つが、ズルド達には瞬間移動で逃げてしまった。

「逃げられちゃった……」

「……いえ、その方がよかったかもしれません」

 怪我人を抱えているのはこちらも同じだ。少なからずダメージを受けている今の状態でズルドまで相手にしたら、最悪死人が出かねない。

「恭也君! 今治すね! インプレス・ヒーリング!」

 インプレスの回復魔法で、恭也の重傷は完治する。

「ありがとう。そっちも怪我はないか?」

「うん。かすり傷一つないよ」 

「よかった」

 恭也は安堵した。来華が魔法少女として戦う事には不安があったが、それを完全に払拭するほどの大活躍だ。来華は本当に強くなった。恭也が来華に気を遣う必要はなくなった。

「まさか魔法少女の覚醒に立ち会えるなんてね」

「ええ。人生何が起こるかわからないものです」

 愛依奈が出会ったチアフルはもう覚醒している状態だった為、実は魔法少女の覚醒に立ち会う事は初めてである。

「私も後輩が出来るなんて思ってなかったなぁ」

 満織は魔法少女の仲間が出来て嬉しい反面、来華を戦いに巻き込みたくなかったという思いもある為、複雑な気持ちだ。

 と、恭也は思い付く。来華が魔法少女になったという事は、魔法少女レスキュー隊の救助対象になったという事だ。

「ミューシャ。頼みがあるんだが、一条が着けている指輪と同じものを、俺にもくれないか?」

 そこで、来華が危機に陥った時、誰よりも速く駆け付ける為の手段を欲した。

「お安い御用だよ! それじゃあ着けて欲しい方の手を出して。どの指に着けて欲しいかリクエストはある?」

「薬指に」

「オッケー」

 恭也は左手を差し出す。ミューシャが両前足をかざすと、左手の薬指に指輪が出現した。

「ミューシャちゃん。私にもお願いしていいかな?」

 すると、来華が自分も着けて欲しいと頼んできた。

「いいけど、着けても意味ないよ?」

 ミューシャは疑問を抱いた。この指輪はあくまでも、魔法少女の戦闘を知らせる警報として与えているものである。よって、魔法少女が着けても意味はない。

「いいの。位置は左手の薬指でお願い」

「? わかった」

 それでもいいと、来華は左手を差し出した。ミューシャは疑問を解消出来ないまま、来華に指輪を与える。

「ふふ、お嫁さんになったみたい」

 自分の指輪を見て、来華は喜ぶ。恭也と愛依奈は固まった。

(そ、そういえばそうだ! この指輪の位置は……!)

 左手の薬指。それは結婚指輪を嵌める位置だ。恭也としては指輪を得る事以外に興味がなかったので、着ける位置は適当に選んでしまった。だが来華は気付いており、意図的に同じ位置にしたのだ。

「ま、まさか、優木さん、それが目的で……⁉」

 愛依奈も気付いて指摘する。来華は愛依奈を見て、ウインクしながら、ぺろりと舌を出した。

「満織ちゃ~~~ん!」

「く、苦しいよ愛依奈ちゃん……」

 自分の中からこみ上げてくる気持ちを抑えられず、愛依奈は満織に抱き着いた。

「おやおや……」

 クスクスと笑う稔。ミューシャはようやく来華の行動の意図がわかり、両前足で口元を押さえて赤面していた。

「恭也君。改めて、私と付き合って下さい」

 来華は恭也に向き直り、交際を申し込んだ。二人は元々そういう関係であり、来華は元の関係に戻りたいと望んでいたのだ。

「はい。喜んで!」

 恭也も同じ気持ちであり、すぐにそれを受け入れた。こうして、意図せず別れさせられた二人は、元の関係に戻った。

「満織ちゃ~~~~~~~‼」

「ううううう!」

 愛依奈は満織の両肩を掴んで激しく揺さぶる。

 そんな二人を尻目に、自分の左手を恭也に向かって差し出す来華。恭也も自身の左手を差し出す。二人の左手の薬指には、誓いの指輪が光っていた。

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魔法少女レスキュー隊 大久保たかし @555999

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