第2話 はじまりの地
「サ……ササ。聞こえますか?田村さん?」
「え?あ、はい」
耳元に直接聞こえる、あのセールスウーマンの声に驚いた。
「良かったです。着陸は成功したようですね。おめでとうございます。ミドガルドに無事到着しました」
「ここがミドガルド……俺の会社や家で飼ってる魚はどうなる?」
「ご心配なく。この部分は私たちが専門の人間に任せています。それに、地球とミドガルドの時間の流れは一致していません。地球の一分はミドガルドの一時間に相当します。だから現実世界の問題に過度に心配する必要はありません。」
「は、はあ」
「分かってくれて嬉しいです。さて、時間が限られていますので、早速本題に入りましょう。まず、背後を見てください。あなたの後ろにあるのが『神の繭』です。中には基本的な生存セットが入っています。取り出してください。」
「お、おう」
「神の繭」に付着している弁膜なようなものに手を差し込み、俺は紫色の粘液に浸された箱を引き出した。
「……キモイ」
「我慢してください。これで補給品を手に入れました。あなたの今の体は原則として食事を必要としませんが、もしも怪我をして修復が必要な場合は、生存セット内の補充液が身体修復の資源を提供します。まあ、俗に言うと回復薬ですね。」
「今の体?じゃあ俺の本来の体は?」
「次に黒山羊の部分について説明しますね」
「おい」
相手は俺の質問に正面から答えてくれず、少し不安になった。
「黒山羊は最新のジェネレーティブAIを搭載した自己拡張型サテライトです。基本的には、現存する理論上可能なものであれば、材料さえあれば作ることができます。作った物品は転送装置でミッドガルドに送ることができます」
「はあ。すごいな」
「でも覚えておいてくださいね、どんな操作も黒山羊のエネルギーを消費します。エネルギーが尽きれば、黒山羊の太陽電池が再充電するまで待つしかありません。では、今から黒山羊と意志で連結して、ナイフを手に投影してみてください。想像すればいいですよ、ジェネレーティブAIが足りない部分を自動的に補完しますから。」
「そう言われても……あ、できそう」
自分の意志と遠くの何かが連結したことを感じた俺は、心の中でナイフの形を想像しながら相手に物品を作るように命令した。しばらくすると、手のひらに青白い光が差した。光が消えると、無骨な黒いサバイバルナイフが手に現れた。
「すごい」
視界には、小さなエネルギーバーが表示された。上には 70 % と書かれていた。
「え?ナイフを作るだけで 5% もエネルギーを消費したの?」
「当然ですよ。これは今最先進の転送と生成技術ですからね。しかも軌道上から位置を特定して送り込むんですから。まあ、消費するエネルギーは生成する物体の複雑さや質量によって変わりますけどね。田村さんの手にあるナイフなら、おそらく 2% くらいのエネルギーを消費するでしょう」
「引き算してみると3%もの転送費用が高すぎる」
「確かに。田村さんが地面上の素材を黒山羊に送り返すと、黒山羊は自己拡張します。その時に太陽電池が増えれば、エネルギーの消費比も下がりますよ」
「なるほど」
「はい。サンプル採取、文化侵略、新エネルギーの獲得、そして現地環境改造。鉱物や生物のサンプルを採取すれば、黒山羊はデータや素材を得られますし、最終的にはミドガルドに適応した前線基地に拡張されます。」
「なかなか長期的な計画だね。これを達成するにはどれくらい時間がかかるんだろう?」
「地球にとっては、意外と時間コストはそれほど多くありませんよ。だって、時間の流れが違うんですから」
「はあ」
「しっかりしてください。今のあなたは、神、ですよ」
「俺にそう言われても……」
「大丈夫です。田村さんは私たちが選び抜いた適任者です。この異世界で必ず人類に適した未来を切り開いてくれるでしょう。それでは、そろそろお暇させていただきます。私からの通信はここまでです。」
「え?もう切るんの?」
「申し訳ありません、地球側からミッドガルドに接続するにはまだいろいろ制限があります。でもご安心ください。何をすればいいかわからない場合や分からないことがある場合は、こちらで初歩的な知識をまとめてあります。必要があればいつでも参照してください。では」
「お、おい!」
いくら呼びかけても、声は答えてくれなかった。代わりに、ヘッドアップディスプレイにメッセージが表示された。
「ええと?あ、ミッションだね。」
<ミッション>
田村さん、こんにちは。あなたが最初に任務をどう実行すればよいのか分からない場合に備えて、私たちはいくつかのガイドラインを準備しました。
1.基地を作成
黒山羊は簡易的な生活設備の構築が可能です。
中でも「祭壇」と呼ばれる一式の小型転送装置が重要です。祭壇があると位置情報が容易になり、物資の転送は黒山羊のエネルギーを節約することができます。
祭壇には太陽電池が内蔵されており、黒山羊から送られてくるエネルギーを蓄積したり、充電することもできます。
物資は祭壇を通じて直接作成することができ、これにより黒山羊の内部エネルギーの消費を抑えることができます。ぜひ設置を試みてください。
2.自衛手段を作るように
黒山羊を使って防御武器を転送することをお勧めします。
さらに、アバターシステムには戦闘ガイドが内蔵されており、機体そのものが軍用向けです。
脅威に遭遇した場合は、適度に防御武器と機体の性能を使って排除してください。
機体が過程で損傷した場合は、サバイバルキットに含まれているナノマシン補給液を飲んで修復してください。
ご注意ください。自衛手段を持つことを強く推奨します。
ナノ補給液は肢体の欠損などの重大な損傷を修復するのが難しい。地上の完全な修復メカニズムを確立する前に、防御武器をできる限り利用してアバターの損傷を避けてください。
3.サンプルを収集
周囲の物質を収集することをお勧めします。
生物の場合は、アバターは直接摂取することができます。関連する生物情報は定期的に黒山羊にアップロードされます。
非生物的な物質の場合は、祭壇を使用してアップロードすることができます。
4.自分の設定について考えてください
神として影響力を最大化することを推奨しています。しかし、それに限定する必要はありません。
サンプル採取、文化侵略、新エネルギーの取得、環境改造の四つの目標を達成できれば、他の身分も可能です。
どの身分であれ、自分の役割を考え、コアアイデアを確立してください。このプロセスは、後続の現地人との接触時に一貫したスタイルを維持するのに役立ち、現地人のあなたに対する理解を早めるのに役立ちます。
「ほほう、簡易ガイドがあって助かる。1は最優先、2はすでに武器を作ったし、3と4は生活基盤が整った後に考えればいい。4は……重要そうだけど、今はインスピレーションが湧かないな」
ここに放り出されたことに不満はあるものの、自分がこれから起こることを期待しているのも事実だった。
「まあ、とりあえず1を達成することが先だ。祭壇に太陽電池があるなら、長期間日光に照らされる高い場所を基地にするのが良いかもしれないな。」
俺は前にある森へと進んだ。涼しい空気と草木の香りが迎えてくれる。森の中を歩き回り、両手を上げて伸びをした。
「予想はしていたけど、ここの植物は全部初見だな。まあ、俺が植物について知識が少ないだけかもしれないけど。おっと」
斜面を上って行くと、すぐに開けた場所を見つけた。それは大きな岩が点在する小丘だった。
小丘に登った後、俺は遠くの平原を見渡した。遠方にはいくつかの集落が点在しており、石造りの建物から朝の光の中に立ち昇る炊煙が見えた。
「始まりの地として、なかなかいい景色だ」
俺は岩に跳ね上がった。一息ついて、袖を一振り。しばらくすると、光が消えた。小道の前には鮮やかな鳥居が生成された。
現世と神界を分けるような鳥居を見て、俺は笑顔が浮かんだ。
「さて、やるぞ」
次の更新予定
TS外なる神は異世界を侵食する 浜彦 @Hamahiko
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