第2話 新米ナース

「はっ、妄想に縋る夢など、たかが知れておるわ。そもそも、あんたが乙女の夢を砕こうとするから悪いんでしょ!

 言っておきますけど、最初に絡んできたのはそっちなんですからねー、だ」


「……あの〜」


「絡んでなどない!

 あんたが最初、俺に話しかけてきたからだろ!?

 “うっわー、ライトノベル読まれるんですか。私も読書好きなんですー”

って。

 どぁれが“乙女”だ?

 俺の最推し、七ッ橋乙女ちゃんを愚弄するな!あと、語尾伸ばすのやめろし。可愛くねえからな」

「なんですって、この……」


「……あの〜」


「「うるっさいっ!!!!」」


 異口同音で振り返ると、同室の患者さん、糖尿病の市橋さんが怯えている。


「す、すみませぇん」


 更には、縮こまって謝る市橋さんの後ろに、額に青筋を立てにっこり嗤う看護師長の姿が。


 青くなった私に、彼女は猫なで声で告げた。


「松井さ〜ん?もう検温は終わったのよね。

 ちょーっとこっち、いらっしゃぁ〜い♡」


「……はい」


 大人しく師長の後に従う姿に、アイツが声を殺して嘲笑っている姿がチラッと見えて、ムカついた……



◇◇◇



「あなたねえ、病室で何騒いでるのっ。看護師のすることじゃないでしょうがっ」


 ナースステーションに入った途端、師長の様子は豹変した。

 君子豹変、これはだ、般若にそっくりだ!


「だ、だって。203号室のヤマダタロウさんが、私につっかかってくるから」


「ったく、だから!

 日頃からよく言ってるでしょう?

 面倒な人はうまく躱してやり過ごしなさいって。あなたね、担当患者の一人一人に立ち入りすぎ」


「うう……そんなこと言ったって。

 そもそも、あの人何にでもつっかかってきて面倒だからって、私に押し付けたの、師長じゃないですか」


「え?ちょっとナニイッテルカワカラナイ」


「ひどい!急にカタコトになってる!」


「まあ、とにかく。

 ヤマダタロウさんのことは、いい感じでやり過ごして。

 ね、彼も辛いのよ。

 事故で運ばれてきて、気づいたときには解離性健忘(=記憶喪失)で、自分の名前まで忘れちゃってるっていうんだから。

 なるべく優しくしてあげてね。

 あ、それから。くれぐれも逃げられないように見張っといて。入院費踏み倒されたら困るから」


「……」


 自分が言いたいことだけいうと、師長は“これだからZ世代は困るわ〜”などとホザきながら、とっとと向こうへ行ってしまった。

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