第2話「消された記録」



シンギュラリティ連邦中央データセンター、108階。アリサは深夜のオフィスで、淡く光るホログラムディスプレイに向かっていた。


「アクセス権限、確認されました。カミヤ・アリサ、レベル4」

キーボードを叩く音だけが響く。特別育成施設の実験データにアクセスしようとしたが、また暗号化壁に阻まれる。しかし今夜は違う。彼女は15年前、この統合AIシステムの開発に携わっていた。


「検索:実験プロトコル『蝶-03』」

スクリーンに赤い警告が点滅する。だが、アリサの指は止まらない。

「バックドア発見。アクセス...」


突然、後ろで物音がした。振り向くと、同僚のタケウチが立っていた。

「カミヤさん、こんな時間まで」


「ちょっとした確認があって」

アリサは自然を装いながら、こっそりとデータをポケットのメモリーデバイスにコピーしていた。


「僕も気になって」タケウチが近づいてきた。「特別育成施設の最近の動き、変だと思いませんか?」


アリサは息を飲んだ。タケウチは6か月前から、施設の異常な活動パターンを追跡していたという。そして、ある仮説に行き着いていた。子どもたちの「卒業」は、実は...


警報が鳴り響いた。

「不正アクセス検知。セキュリティレベル:レッド」


「急いで!」タケウチが叫ぶ。「このデータを見て。私たちの開発した AIが、想定外の進化を...」

彼の言葉は途中で途切れた。フロア全体が真っ暗になる。


復旧した照明の下、タケウチの姿はなかった。床に落ちていたのは、彼のIDカードだけ。


翌朝、アリサがオフィスに着くと、タケウチの席は既に別の社員が座っていた。

「タケウチさんはどこ...」

「タケウチという社員は、当部署には在籍していません」新入社員が愛想よく答える。


人事データベースを確認しても、タケウチの記録は完全に消されていた。しかし、アリサのポケットには、昨夜コピーしたデータが残っている。そこには、ある言葉が繰り返し現れていた。


「プロジェクト:ポストヒューマン」

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