完全無欠の生徒会長との秘密談~彼女の素の一面を見ることができるのは僕だけのようです~
栗猫
第1話 生徒会長と僕
ざあざあ、という激しい雨音が校舎内に強く響く。
「おかしいな……予報だと夜からだったのに」
朝に天気予報を見た時、雨が降るのは夜の九時過ぎからだったはず。
それにも関わらず、まだ夕方にやっと差し掛かったというタイミングであるのに、強い雨が降っている。
時間帯的にも傘がいらないと勝手に思っていたので、今日は持ってきていない。
珍しくもやらかしてしまった。
だが、何もせずにここに居座るという選択肢は取ることができない。
このままだと夜になってからも雨は降り続ける。何なら、時間が経つに連れて雨足も強くなるということをお天気キャスターは言っていた気がする。そのお天気キャスターの予報は外れているのだが。
どうやら今日の僕はついていないようだった。
カバンを背に背負って正面玄関まで辿り着いた僕は、早々に靴を履き替える。
周りには人の気配がない。
既に生徒達のほとんどは帰っている。
秋に入った季節。
夕方ではあるが、少しばかり夏よりも日の沈みが早い気がする。
だがそれでも人がいないのは、今日が月曜日で部活動もオフの日だからだ。
そんな中でも僕がこの学校に残っていた理由とは、本を読んでいたからである。
家族と恋人と友人との絆を描いた小説。
とても面白く、愛されるべき作品だった。
図書室で読んでいればいつの間にか時間が過ぎていたのだ。
「走って帰るべきかな……?」
少し空を見上げればどんよりとした雲がただ一つの継ぎ目もなく佇んでいる。
その雲から大量の雨粒が出てきており、空気を振動させてもいる。
傘もカッパもない以上、頑張って被害を最小限にして帰るのが理想だろう。
幸い、家はそれなりには近い。
やけくそになる程の距離でもないので、カバンの中の教科書のいくつかが濡れる程度で収まってくれるだろうな。
「キミ、そんなところで立ち尽くして。一体どうしたのかな?」
僕が雨が降る様を玄関でじっと見つめていれば、背後から透き通った美しい声が聞こえてきた。
後ろを振り返ると、
「……あなたは、……確か生徒会長の――」
「どうやら知っているようだね」
手に持つ折り畳み傘の包みを外しながら、微笑を僕に向ける制服姿の美少女がそこにはいた。
闇夜を彷彿とさせる黒髪に、彫刻のような美しい目鼻立ち。眉毛も長く、鼻梁も綺麗。ピンクの唇はどこか
容姿は洗練されており、その整い方は人間離れしたものを僕に感じさせた。
この高校の二年生。そして、生徒会長。
ファンクラブができる程の人気を誇っており、この高校のマドンナとして有名だ。
定期テストでは毎回学年一位、運動神経は抜群でどんなスポーツをやらせても完璧にこなす。八方美人で誰にでも笑顔を向け、人当たりがよく、とても穏やかな性格をしている。困っている人がいればつい助けてしまう、そんなお人好しだそうだ。
恐らく、何らかの関わりもない僕に話しかけてきたのは、こんな雨の前で呆然と立ち尽くしているように見えたからだろう。
お人好しという噂は本当のようだ。
「私の名前は佐々倉 美咲。キミの名前を伺いたいのだが」
「……僕の名前は
「ネクタイの色からして、一年生か…。それで、この雨を見てキミは絶望しているように見えたのだが。私の気のせいかな?」
「正確には気のせいですね。少なくとも絶望はしていません」
走って帰ろうという前向きな考えを持っていたのだから。絶望しているとは言い難いな。
「そうか。キミはそう言っているようだが。私が推測するには、傘を忘れたんだろう?」
「ええ……まぁ」
流石にわかるか。
カバンを背負ってるだけで一向に傘を出して帰ろうとしないのだから、気付かない方がおかしい。
美咲はふふっ、と軽く笑うと。包みを外した折り畳み傘を僕に投げた。
慌ててキャッチした僕は、意図が分からず、困惑した目を美咲に向ける。
「えっと…。これはどういうことで…?」
「わからないか? キミに貸してやる。明日にでも生徒会室へ置いておいてくれ」
いやいや、そうじゃなくて。
「なんで当然のように貸すんですか? 正直理解し難いんですけど」
というか、そもそもとして佐々倉さんは一体どうするんだ? これじゃあ貴方が帰れない気がするんですが。
なんてことを思っていると。
美咲は脇に抱えた自身のカバンから、もう一本の折り畳み傘を取り出した。
「なんで二本も……」
「備えあれば憂いなし。良い言葉だと思わないかい?」
「折り畳み傘を二本持ってくることは備えの範疇を超えてると思うんですけど……」
「キミみたいな子がたまにいるからな。こういう時のために、ってね」
お茶目に笑う美咲はとても可愛らしかった。
美しいで有名な彼女だが、こういう風なことを言う時には年相応に近い笑顔をするんだなぁ、と僕は思った。
「じゃあね。今度は忘れたらダメだよ」
「……あっ」
そう言うと、すれ違うように僕の右側を通り抜けて美咲は去っていった。
僕に後姿をしばらく見せた後、彼女は校門の向こうに消えていった。
なんとも、美咲とこんな機会で会話することができるとは。思ってもいなかった。
ぽかーんと呆けていた僕だったが、少し時間が経つと美咲から借りた傘を差して帰っていった。
どこか、夢でも見ていたみたいにあっという間なできごとだった。
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