女の子はファンタジー世界を拳で乗り切る

白井いと

第1話 旅立ちの日

「ただいまー、まき持ってきたよおじいちゃん」


 少女は明るい笑顔を浮かべながら、暖炉の脇にまきを整理して置くと、ベッドで優しい笑顔を浮かべている老人に声をかける。

 オレンジ色に輝く、ショートカットは、日向のようで青年の元気な様とぴったりだった。


「お帰り、相変わらず元気だな、ライラ。もう17になったか」

「またその話?私だって十分大きくなったでしょ?おじいちゃんの世話なら、出来るから安心して横になっててよ」

 世話なら出来ると言われると、ジェントーは少し申し訳なさそうに、笑顔を向けた。

「お前を拾ってから、もう随分たった。わしの技術は全て叩き込んだし、お前は素直でいい子だから、すぐにそれを飲み込んでいった、自慢の娘だよ」

「よしてよ急に、おじいちゃんが拾ってくれたから、私は、生きていられたんだよ」



 ライラの村は、彼女が6歳の頃、魔物によって滅ぼされた。

 その話を聞いたジェントーが村に行き、潰れた建物の並ぶ、村だった場所に立ち尽くした彼を見つけて保護した。


 そして、ライラとジェントー二人の生活が始まった。

その生活の中で、ライラは良くジェントーの旅の話を聞いていた。そしてその話にあこがれを抱きながら眠りについていた。


「おじいちゃん、私に格闘術を教えて」

 その言葉は、一緒に暮らして、一年が経とうとしていた時に、出てきた。

 ジェントーはその言葉を聞き、最初は半信半疑だったが、本気でライラが格闘術を教わりたいと、願っていることを知り、快諾したのだった。


「いいかいライラ、この世界にマナと呼ばれるエネルギーがあるのは知ってるね」

「うん、本で読んだよ」

「そのマナを自由に操るのが、大切なんだよ。マナを鎧の様にまとえば、刃から身を守る鎧になるし、マナを拳にまとえば敵を穿つ鉾にもなる。だから最初は基礎体力を付けながら、マナをコントロールする練習をするぞ」


 訓練は、年を重ねるごとに厳しくなっていった。それでも、ライラは弱音一つ吐かずにくらいついて見せた。



「ライラはしたい事はないのか?」

 突然の問いかけに、彼女は少し戸惑った。

「やりたい事?ないかな?」

 少し寂しそうにジェントーは話を聞き続けた。

「私は、元々もう死ぬと思ってたから、おじいちゃんの修行が全てだったし、それが終わってもおじいちゃんといたいし」

「そうか」

 力なく漏れ出た


「旅はどうなんだ?ライラの知らないことを、沢山見て、感じれるぞ。わしも元々旅に出てたしな」

「旅か、それはいいね、私の知らない世界、見てみたいかも。でも今はまだでしょう」

ジェントーは安心したように笑った。



 その翌日だった。

ジェントーは息を引き取った。

朝ジェントーを起こしに彼の寝室に入ったライラは、穏やかな笑顔の彼の遺体を見つけた。



 土を掘り、遺体を埋めて簡単な墓標を立てた。

そしてその墓に、涙を捧げる様に泣いた。

周りがまるで無音の様に、ライラの泣き声だけが響いていた。



「おじいちゃん、私旅に出るね」

まとめた荷物を背負い、墓の前に立つと、ライラは声をかけた。

「おじいちゃんが見たように、私も世界を見て回ってみるから。じゃあ行ってきます」



 ライラを優しく迎え入れる様に、穏やかで温かい空だった。


            * 


 旅立ってから、しばらく歩いていると、いつも買い物をしてい町に出た。

普段のにぎやかさも、しばらくは来ないだろうと思うと、どこか寂しい光景に見えた。


「ライラちゃん、今日は買い出しにしては、荷物が多いわね?どうかしたの?」

 訪ねてきたのは、いつも焼き立てのパンを売る、パン屋の女店主だった。ロマリーという名前で、ふくよかな体形と、カっと笑う豪快な笑顔で、町の人気者だった。

彼女に旅に出る事を伝えると、パンを一つくれた。お礼を言うと元気でねと、いつもの明るい笑顔でいってくれた。

 不思議なエネルギーを貰ったような気がして、彼女はもう一度お礼を言うと、お店の前から歩き出す。



 町を後にして少しすると、叫び声が聞こえた。

その声の主は行商人だった。彼の馬車の前は魔物たちに立ちふさがれて、今にも襲い掛かられそうだった。


 ライラはそれを見つけると、駆け出して、商業馬車と魔物たちの間に割って入った。

「大丈夫ですか?」

「君は誰だ?というか、危ないじゃないか、早く逃げないと」

自分が危険なのに、人の心配できるなんて、いい人だなと、思いながらも、ライラは背負っていた荷物を地面に置いて。

「大丈夫です、おじいちゃんが鍛えてくれたから」


 行商人が、何を言ってるか分からないでいると、ライラは強く地面をける。そして一瞬にして、魔物との距離を縮めると、マナを込めた拳を突き出し、体のパーツが、拳で敵に突き刺さるために、揃うようにして、正拳突きを解き放つ。


 その様子に行商人はやっと彼女がモンクであると理解する。

そして、ライラはそのまま、まるで獅子のごとき、豪快な拳や蹴りで、魔物を倒していった。


「ありがとうな」

 魔物を全て退治し終わると、行商人が感謝を告げた。

「いいえ、困ったときはお互い様って教えてもらったので」

「そうか、ところで君はどこかに行く途中なのかい?」


 行商人がライラの荷物の多さを見て、尋ねる。

「うん、行先は決まってないけど、旅に出たんだ」

「そうかい、ならもしよかったら、この馬車に乗っていかないかい?行先はタウングスって町だよ。そこに鉄鉱石を持っていって、売るところだったのさ」

満面の笑顔で答える彼に、行商人は提案すると、ライラは提案に乗る


こうして、旅は人助けとともに始まった。

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