第3話 「進路」
アカネが東京の学校に転校し、
1年9ヶ月の月日が流れた。
アカネは、転校した東京の学校では
アイドルを目指す生徒も数人いて、
嫌がらせなど受ける事なく、
無事に卒業した。
また高校在学中に、大手芸能プロダクションが開催した、新人アイドルオーディションに見事合格。高校卒業後、半年間のレッスン期間があり、その後メジャーデビューが約束された。そして、ライブハウスや野外ステージ公演で実践経験を積み、メジャーデビューまでは、後1ヶ月。
一方、彰は、高校卒業後、東京の大学に進学。両親とはかなり揉めたが、反対を押し切り、奨学金を借りて、東京のアパートで一人暮らしする事になった。
アカネが転校した後も、SNSでアカネの投稿は毎日欠かさずチェックしていたが、あれ以降DMは送れていない。
それもそのはず、アカネは転校してから更にフォローワーも増え、人気も上昇。彰は自分とはほど遠い存在に感じでいて、メッセージを送れなくなってしまっていた。そしてアカネはオーディションにも合格したため、DMの管理はマネージャーが行う事になっていた。
2024年8月
アカネは都内のダンススタジオにいた。
アカネ(彰くん…元気かな…。)
彰の事を思い出すアカネ。
美香「アカネー!おはよー!相変わらず早いねー!気合い入ってるね〜!!」
ダンススタジオに1人の女性が入ってきた
茶山美香(ちゃやまみか)
アカネと同い年で、アイドルオーディションに合格した内の1人。髪は茶髪のショートヘアで、天真爛漫。どちらかと言うと姉御肌タイプ。自分のニックネームを「ちゃみ」にしている。
アカネ「そりゃ〜気合い入るでしょー!!後1ヶ月で…ついに…アイドルとしてメジャーデビューだよ…!!長年の夢が…!!ついに…!!」
美香「はいはい、もう何回もそれ聞いたー。それより葵はまだ来てないの?」
アカネ「葵はまた遅刻かな〜」
葵「ごめん!!遅くなったー!!!ギリギリセーフ?」
美香「…。まあ5分だけだから…許そう。」
葵「ふぅ〜…良かった〜!朝、レッスン用のTシャツが見つかんなくってさ〜。」
水川葵(みずかわあおい)
同じく高校在学中にアイドルオーディションに合格。髪は青く染める事にこだわっている。時間管理が下手で、遅刻常習犯。そして、人見知りが強く、最近ようやくこの2人への敬語がなくなった。歌のレベルが高く、ハモリのアレンジやピッチの正確さは、2人より頭1つ抜けている。
アカネ「そう言うば今日、マネージャーが変わるから挨拶に来るって言ってたよね?」
美香「そう言えばそうだったな。どんな人がくるのかね〜。」
葵「あと今日あれでしょ!デビュー曲の練習するんだよね!?みんな音源聞いた?」
アカネ「もちろん聞いたよー!!めっちゃいい曲だよね!!でもなあ…。」
美香「え、何か不満そうじゃん。」
アカネ「いや、音はすごく良いんだけど、実は歌詞が少し気になってて…。」
葵「えー!どこがどこが…!まっすぐな歌詞で、これ聞いたら頑張ろうとか、テンション上がるー!みたいな、めっちゃいい歌詞じゃん!どこが不満なの?」
アカネ「…。いや、そうなんだけど…。今日マネージャーが来たら直接話そうと思ってて…。」
美香「…。アカネまじか…。まだメジャーデビューもしてない駆け出しアイドルが、作詞作曲家に文句があると…。」
アカネ「いや、文句じゃないんだけど…。すごい良い歌詞なんだけど、この"頑張れ"って歌詞を"頑張ってる"に変えられないかなって…。」
葵「ん〜…。頑張れを頑張ってるに変えたいってこと?」
アカネ「…。うん。」
美香「アカネはなんでそうしたいの?別に頑張れって言葉、背中を押す感じで良いと思うけど。」
アカネ「…。もちろん、頑張れって人の背中を押す言葉である事は間違いないと思うよ。でも…私は、自分が辛い時に、"頑張れ"って言う言葉が重しになってた時期があって。その時に、ある人に言われたの。アカネさんは、頑張ってるって…。その言葉がすごく嬉しくて…。」
葵「え、彼氏?」
アカネ「ちがうわ!!急にストレートすぎるでしょ!」
美香「いや、彼氏だろ。」
アカネ「違うって!2人ともやめろー!」
葵「まあでもアカネの話聞いたら、なんかわかるような気がする。私も"頑張れ"って言われるより、"頑張ってるね"って言われた方が嬉しいかも…。」
美香「え〜そうか〜。まあ私はどっちでも良いかな〜。とにかくステージでこの曲バチっと決めたいね〜。」
アカネ「2人とも…私今日、マネージャーにこの想い伝えるけど…いい?
美香「オーケー!」
葵「大丈夫!」
アカネ「…ありがとう!」
美香「でも作詞作曲家の人受け入れてくれるか〜?話によると自分の世界観大事にしてて、作詞も絶対自分でやるようにしてるって噂あるし。」
葵「それ、私も知ってる。でも今回がアイドルに提供するのは初めてらしいよー!元々はボカロPだったらしいし。」
アカネ「まあ、とりあえずマネージャーが来たら話してみる!…じゃあ練習しよっか!」
3日前、事務所から新曲がメールで送られ、振付け、歌パートは個人で練習していた。
揃って合わせるのは今日が初めて。
アカネがスマホをスピーカーに繋げて新曲を流し、練習が始まった。
美香「結構良い感じじゃん!てか3日で皆んなよく覚えてきたね!」
葵「そりゃ〜もうバイトの時間以外はひたすら練習したからね〜!」
アカネ「ほんと良い感じ!」(やっぱり歌詞変えたいなあ…)
スピーカーからアカネの携帯の着信音が流れた。
美香「うるさ!早くスピーカー切って!」
アカネ「誰かな…。あ!マネージャーだ!もしもしー…。」
旧マネージャー「今スタジオに着いたんだけど、部屋何番?」
アカネ「あ、3番の部屋です!」
マネージャー「わかった!ありがとう!」
美香「あ、今のマネージャーが新しいマネージャー連れて来たのか」
スタジオの扉が開く。
旧マネージャー「みんなお疲れ様。この前話したように、私は他のグループのマネージャーに専念することになったので、新しいマネージャーを紹介します。」
「皆さん初めまして。車谷と申します…。」
旧マネージャー「今日から、みんなのマネージャーはこの車谷仁くんになるから、よろしくねー!」
アイドル3人「よろしくお願いします…!」
美香「(なんか地味じゃない…?)」
葵「(美香、声でかいって…!聞こえるよ…!)」
車谷「地味ですいません…。」
葵「ほら〜聞こえてるじゃん…。」
旧マネージャー「美香〜。いきなりそう言う事言うなよ〜。車谷くんはまだマネージャーとしての経験は浅いけど、スケジュール管理は私よりもしっかりしてるから、安心してくれたまえ!営業も何気に強気だならな!」
美香「え〜!意外…!」
葵「美香やめなって〜…。」
旧マネージャー「じゃあ私はこの後次の仕事があるから行くけど、大丈夫かな?」
アカネ「…あの…すいません!新曲の事でお話が…。」
旧マネージャー「新曲?確か3日前に届いた曲だよね?」
アカネ「はい…。」
旧マネージャー「それが、どうかした?」
アカネ「実は、新曲の歌詞に少し不満があって…その…修正とかって…無理なんでしょうか…。」
旧マネージャー「いや〜それは無理でしょ!もう完成した後だし、発表まで後1ヶ月しかないんだから!」
アカネ「……そうです…よね…。」
旧マネージャー「私も聞いたけど、すごいいい曲だったじゃん!この曲でデビューすれば、このグループは間違いなく売れるよ!!
…頑張って!!じゃあ、ごめん私そろそろ行くから、後は車谷くんに任せるよ!頼んだよ、車谷くん!」
車谷「…はい、わかりました。」
旧マネージャー「じゃあみんなまた会おう!君たちは必ず…売れる!!じゃあね〜。」
アイドル3人「…。お疲れ様です…。」
美香「やっぱダメだったか〜。歌詞の変更ってそう簡単に出来るもんじゃないんだね〜。」
葵「そうだね〜。初ワンマンライブまであと1ヶ月しかないしね。」
アカネ「…そうだよね…作ってくれただけありがたいよね…。」
スタジオに無音の時間が流れる
車谷「…あの…もし良かったら、僕から話してみましょうか?風間さんに…。」
アイドル3人「え…?」
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