青の時雨に泣きやがれ
タチバナ シズカ
プロローグ
きっと、僕は化け物に食べられたんだ。
暗がりの景色には大勢の人々がいた。
皆は一心不乱に頭を振っていた。
振りまかれる汗が雨みたいに滴って、皆の頭上に降り注いだ。
それはきっと、化け物の腹の中の景色だと思ったんだ。
だって普通じゃない。
人間性のカケラもないくらいに皆は踊り狂って頭を振っている。
そんな暗がりの奥にその人達はいた。
大きな声で歌って、楽器を鳴らして、暗がりの狂った世界で全身全霊だった。
僕は化け物の中にいた。
それは今までに見たこともない、強さや狂気をも思わせる生き物のようだった。
気がつけば僕も飛び跳ねていた。
大きな声で叫んで、溶け合い混ざっていくように人々の群れの一員になっていた。
それが僕の初めてのライブ体験だった。
僕が僕として自覚を抱いた瞬間だった。
僕もこうありたいと思った。
僕も彼等のようになりたいと思った。
化け物のように、或いは獣のように荒れ狂う、生きた世界を生み出す彼等のように。
羨望の眼差しになった時、闇の奥、確かにその瞬間にいわれた気がしたんだ。
その化け物を飼い馴らす王様に。
ギターを掻き鳴らし、叫びながらに、はっきりと。
「お前もこっちにこいよ」
それは悪魔の囁きだったかもしれない。
もしかしたら悪夢に引きずり込まれたのかもしれない。
それでも僕は、その果てのない熱量を向けられて頷いた。
それが悪魔の契約に等しいことだとしてもよかった。
僕は化け物の腹の中で、彼等のようになりたいと願った。
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