その人はもう助かりません《紙村弥生の"因果応報"心霊ツアー》

猫とホウキ

1.紙村弥生①

九月十日(火)【紙村かみむら弥生やよい



***



 わたしはオフィスフロアの端にある休憩スペースで、椅子に座ってスマートフォンをいじっていた。


 そこにやってきたのは──あまり話したことのない別部署の主任、赤池冬美さん。


「紙村さんもサボり?」


 彼女はそう言ってから、休憩スペース内にある自販機で缶コーヒーを二本買い、長椅子の──わたしの隣に腰掛けた。


「あ、その、サボりというか」


「無糖と微糖、どっちが好き?」


「え?」


「私は二本も飲まないわよ。コーヒーは好きよね、飲んでいるのを見たことあるから」


「あ、じゃあ……無糖の方で」


「はい」


 赤池さんから冷たい缶コーヒーを受け取る。わたしは思惑が分からず少し躊躇ってから──でも飲まないのも失礼だと思い、蓋を開け、少し口をつけた。


「あ、で、その。サボりというか。ちょっと面倒なお客さんの電話対応を延々としてして、さすがに疲れてしまって」


とがめるつもりはないから安心して。適度な休憩は大事よ──で」


 赤池さんも缶コーヒーの蓋を開け、少しだけ飲んだ。それからわたしの顔をじっと見て──


「紙村さん。突然変なことを訊くけど、あなたが心霊現象とかに詳しいって本当?」


 その言葉で、話しかけてきた目的を察する。


「あの、詳しいとかではなくて、霊感もないですし。ただ何故か、そういうたぐいの話が集まってくるというか」


「それで十分よ。ねえ、紙村さん、あなたに一つお願いがあって。相談に乗ってくれるかしら」


「はあ、わたしで良ければ……ですけど」


「あなたが適任なのよ──私の彼氏がね、心霊スポット巡りが好きなの。私もたまにそれに付き合わされてとても迷惑している。相談というのはね、彼氏にこの趣味をめさせるために

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る