タナトスナイトメア~悪夢の世界で生き残ります~
カール
第1話 夢の世界
子供の頃、夢を見るのが好きだった。そこは何をしてもいい、何もしなくてもいい。そんな場所。
空に12個の月があり、お墓の中心で俺たちはいつも遊んでいた。
冒険だって出来た。たくさんの生き物が襲ってくるんだ。
増殖する鼠、暴食の牛、刃の生えた虎、単眼の兎、人の顔をした龍、空を飛ぶ蛇、沼地を生む馬、多頭の羊、双子の猿、子なしの鶏、6本脚の猪、眠り犬。
本当に色々な生き物がいて俺たちはそれと楽しく戦うんだ。時には喧嘩しながら、時には一緒に冒険をし、夢を見るたびにそんな楽しい夢を見ていた。
ピピピピという電子音がなり俺は枕元にあったスマホへゆっくり手を伸ばす。まだ寝ぼけた頭を働かせながらスマホのアラームを止め、時間を見た。
午前7時。起きる時間だ。ゆっくり体を起こし布団から起きる。
ああ、変な夢を見た。昔の夢だ。
「懐かしいなぁ。子供の頃そういや変な夢見てたっけ」
軽くストレッチをしながら夢を思い出そうとするが既に記憶に霧がかかったように朧気になっている。
ただ一時期変な夢を見ていたのは思い出した。子供の頃、確か俺がここへ引っ越す前だったから小学生より前の頃だったかな。頻繁に同じ夢を見てたっけ。
「なんだっけ。変な敵と戦ったり、友達としゃべってたりしてた気がする」
そうだ。本当に変な夢だった。もう思い出せないがいつも同じ面子が揃っていてグダグダ無駄話をしていたような気がする。子供の頃の楽しみだった。でも転校してこっちに引っ越してからその夢も見なくなったんだっけ。
そんな事を考えながら寝間着を脱ぎ、私服に着替える。
「崇。ご飯覚めちゃうよ!」
「わかったよ」
充電器からスマホを取り出しポケットにしまってリビングへ移動した。
「大晦日はどうするの?」
「明日友達と初詣行くから今日は家にいるよ」
「そ。じゃ買い物いくから付き合ってよ。ついでに誕生日ケーキ買ってあげるから」
「ついでって……ケーキは別にいいよ。それより荷物持ちすりゃいいだろ」
朝ご飯を食べながらテレビを見る。今日は12月31日で俺の誕生日だ。大体お正月と一緒にされるから何か記念日が1つ減った気がしないでもないけどもう慣れた。
そして俺はお昼に買い物へ行き、そのまま家でゲームをしながら夜ご飯を食べるという何でもない誕生日を過ごし、いつもと同じ深夜0時を過ぎた頃にまたベッドの中へ入っていった。
そう。そこまではいつもの日常だったんだ。
「……ん?」
目が覚めた。いや気が付いたっていうべきなのか?
「は?」
思わずそんな声が出て俺は周囲を見渡した。一見すると家の外だ。俺が住んでいるマンションの入り口。でも微妙に作りが違う。例えば入口近くに自動販売機があるけどそれがないし、近くに俺の家の車が駐車されているのにそれもない。周囲の建物も微妙に違う。
「明るいな。朝になってやがんのか?」
さっきまで夜だったはずなのに今は明け方のように明るくなっている。いや違う。……空は暗い。なのにすごく明るい。俺は歩きながら周囲を見渡して俺は固まった。
「な……な……なんじゃこりゃぁあああ!?」
道路に設置されたカーブミラー。そこに映った俺の姿に絶句する。
鏡に映った俺の姿。とてもいつも鏡でみるような俺の姿から大きくかけ離れている。なんせ頭に何もない。そう皮膚も目も、髪もない。ただの骸骨なのだ。眼球部分が赤く光っている。首元には筋肉のようなものが見えているからどうやら首から下も骸骨という事はないらしい。
「っていうかよく見ると指も骨じゃねぇかぁ!」
指部分は骨で手のひらは筋肉で覆われている。自分の手に触れてみるが骨部分は固く、筋肉部分は妙に弾力がある。
「改めて自分の身体を見ると凄い変だな」
色々自分の身体を調べてみた所、顔、手と足の指部分は骨、他は筋肉がむき出しという状態のようだ。着ている服が違う。なんかゲームにありそうな黒い鎧みたいなみたいな格好だ。でも妙に動きやすい所はやっぱり夢っぽい。
「マジでここなに? 夢か?」
明晰夢とも違う気がする。マジでなんなんだ。気を取り直して周囲を散策する。何か妙な既視感を感じているのだ。なんだろう、この雰囲気を知っている気がする。そう思っていると道路の向こうから何かがやってきた。
それは黒い物体だった。大きなゴムボールのような見た目で跳ねている。ポンポンと跳ねているそれはよく見ると何かの生き物ようにも見える。なんていうかデフォルメされたスライムみたいな感じというか。
ポンポンと跳ねているその黒スライムらしきものはそのまま俺の近くまでやってきた。とりあえず蹴ってみる。
すると目を×にしながら消滅していった。黒い粒子となって消えていくスライムモドキ。するとスライムモドキの消えた身体から何か青色のキューブが出てきた。
「アイテムドロップ……? ゲームみたいだな」
そう呟きながらキューブを拾う。小さい、指で摘まめる程度の大きさで何か光が走っていて結構綺麗だ。プラスチックとは違う。妙に弾力があり強く押すと潰れそうな感じがする。
「んー。まあいいか。よっと」
よくわからないし壊してみよう。そんな短絡的な事を考え軽く力を入れるとキューブが割れた。割れたキューブから黒い粒子があふれ出し大きく膨らんでいく。びっくりしてそれを地面に落としてしまうが、しばらくすると粒子が消えていき……何故か包帯が現れた。
「え、なんで包帯?」
見た感じ新品だ。とりあえずそれを腰に装着されている皮袋に入れて考える。
本当にここは何なんだろうか。妙な身体になっているが夢っていう感じがない。でも現実とも思えない。小説やアニメである異世界転生かとも思ったが周囲にある建物から考えるに日本っぽいからそれはないだろうと思う。そんな事を考えながら歩いていた時だった。
「きゃあああ!!! 助けて!! 誰か!!!」
女の子の声だ。俺以外に人がいた!? そう思うとすぐに身体が動いた。声のする方へ向かって走る。思ったより身体が軽い。鎧を着ているのに現実の身体より随分動く。そんな事を考えながら声のする方へ路地の方へ走っていくと塀を超えるように1匹の小さな妖精が現れた。
青い髪をなびかせ、小さな羽を必死に動かし白い服を着た綺麗な妖精。俺はそれを見上げていた。でも俺が見ていたのはその妖精だけじゃなかった。
その妖精の後ろにあるもの。
遥か向こうの空。星のない闇夜の空に12個の月が浮かんでいた。
ああ、俺はこの世界を知っている。
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