第十五章 灯篭に照らされながら 2

 その後、私は秋菊と小芳に借りた襦裙や装飾品を身に着け、お面をかぶって帝に同行することとなった。


 秋菊と共に宮廷内の広間に入ると、秋菊と同じ極秘任務に携わっている巫力の持ち主や武官たちが数名ずつ集まっており、その中央には帝の姿があった。


「人数が集まったようだな。ではさっそく玲玉妃の宮へと向かう。あちらには夕餉を共にしたいと伝えてあるが、実際は呪いの灯篭を見つけるのが目的だ。わかっている限りでも四つの灯篭が玲玉妃の宮のどこかに隠されているはずだから、巫力のあるものと武官とで協力しあって探し出すように。では行くぞ」


 帝は無表情で淡々とそう伝えると、先陣を切って歩き出した。慌てて武官たちが護衛のため帝の傍に駆け寄り、一同はその後ろについて歩いていく。


「帝って、あまり感情を表に出さないお方なんすね」


 列について歩きながら秋菊にこっそりそう耳打ちすると、秋菊は言った。


「あら、そんなことないわよ。確かに一見そういう風にも見えるけど、結局やってることは結構大胆で過激じゃない? 歴代の皇帝と違ってほとんど後宮においでにならないで皇后様ばかりをお大事にされているし、今だって危険な呪術があるかもしれない場所へ、自ら先陣を切って向かおうとなさったじゃない。ああ見えて、ご自分のお気持ちにまっすぐな行動をされる方なのよ」


「まあ言われてみればそうか」


 そんな話をしながら列につづいてぞろぞろと歩き、一行はやがて玲玉妃の宮へと近づいた。


 玲玉妃は帝を出迎えるため、いつもより美しく着飾っていた。高く盛った髪に宝玉のはめ込まれた簪をいくつも挿し、細やかな刺繍の模様が施された襦裙に身を包んでいる。そしてまるで百年待っていた恋人でも出迎えるかのように、待ち遠しそうに、頬をあからめてじっと帝のほうを見つめている。


 だが玲玉妃は帝がぞろぞろと連れてきた御一行の姿に、次第に違和感を覚え始めたようだった。そして帝が彼女のすぐ近くまで到着した頃には、その瞳は輝きを失い、さっきまでの恋する乙女のような表情も消え去っていた。

 険しい目つきで一行を睨みつけ、口元だけは不自然に微笑んでいる。


「陛下、今宵は玲玉と夕餉を楽しみたいのだと、文をくださっていましたよね。玲玉はそのことが本当に嬉しくて、こうしてたくさん着飾って、お会いできる時間をじれったく待ち遠しく思っておりました」


「そうか、玲玉。だが見ての通り、今宵は夕餉を楽しみに来たわけではないのだ」


「そのようですわね。とても、とても残念ですわ」


 玲玉妃はそう答えると、視線を足元に落とした。微笑み続けてはいるが、彼女が穏やかではない気持ちになっていることが見て取れた。その様子を見て、護衛の武官たちがそれぞれの武器に手を添え、巫力のあるものたちも身構える。


「では陛下、今宵はどのようなご用件で、こちらにいらっしゃったのでしょうか」


 震える声で玲玉妃がそうたずねると、帝は淡々と答えた。


「お前が隠し持っている灯篭を見せてもらいに来たのだ」


 灯篭、という言葉を聞いて、玲玉妃の肩が小さくビクリと跳ねた。


「灯篭、でございますか? たしかにこの宮にも灯篭はいくつかございますが……」


「とぼけなくていい。どういった灯篭の話かは、自分でもわかっているだろう」


「わかりませんわ。私は美しい灯篭を、いくつも持っているのです。本当に、どの灯篭のことなのか、わからないのです」


 意味ありげにそう答えた玲玉妃に、帝は言った。


「では、お前が持っている全ての灯篭を、私に見せてくれ」


「かしこまりました。お前たち……」


 玲玉妃は不安そうにしている側仕えの女官たち数名に声をかけた。そして灯篭をすべて広間に運び出してくるように指示した。


「本当に、よろしいのですね?」


 青ざめた顔をしながらそうたずねる女官に、玲玉妃はうなずいてみせる。


「ええ。いいのよ。全ての灯篭を帝にお見せします。ちゃんと箱から出して、全部を広間に並べてちょうだい」


「かしこまりました」


 女官たちは宮の奥へと下がり、慌ただしく準備を始めた。

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