第十二章 占い師の女官 3
「ダイジョウブデェス」
涙目で、宇晴が答えると、助手は結果を読み上げた。
「あなたの占い結果は……『大器晩成』です!」
「た、大器晩成!」
ごくり、と宇晴が唾をのむ。
「はい、詳細をお伝えしますね……。あなたは若いうちは、正直言ってなかなか仕事で評価されることが難しいです。あなたは真面目ですが、不器用で融通のきかないところがありますね。同僚からは面倒な奴、と思われてしまうこともあるようです」
「そ、そうですか。確かにそうかもしれません……」
宇晴はがっくりと肩を落とした。
「でも、年を重ねて様々な経験をする中で、その融通のきかない面が改善されていくようです。それからあなたの真面目で仕事に熱意をもって取り組む姿勢が次第に評価されるようになり、このまま努力していけば、いつかは上級女官になります。あなたは年長者からも好かれますし、若い女官たちからも信頼され、この後宮になくてはならない存在となるでしょう」
「そうですか!」
パアッ! と宇晴の表情が明るくなった。本当に宇晴はわかりやすい奴だ。
「では、占いは以上となりますので、お帰りください」
「はい! ありがとうございました!」
ニコニコしながら宇晴はお礼を言い、すぐに出口の方へと向かった。私たちも慌ててその後をついていく。
去り際、春蘭が猿のほうへ振り向いたのを見て、思わず私も猿を見た。
猿の方もまた、私たちの様子をじっと見つめ続けている。
「あの……」
春蘭が立ち止まり、猿に向かって言った。
「お体をお大事になさってくださいね」
すると猿はビクンと肩を跳ね、しばらく動きを止め……それからゆっくり、うなずいた。
「やー、良かった良かった。やっぱり私は出世するんだ!」
「そんなに喜んじゃってあんたって単純ね……。って言いたいとこだけど、確かにあの占い師の雰囲気はただものじゃない感じがあったわよね。私も占ってもらいたくなっちゃったなー」
宇晴と琳琳は厨房へと戻りながらも占い師の話で盛り上がっている。
その後ろについて歩きながら、私は春蘭にこっそり耳打ちする。
「ねえ、なんでさっき、あの人にお体をお大事に、なんて言ったの?」
すると春蘭は神妙な顔で言った。
「占い師には、自分の気力を削って占いをする人もいるの。母さんがそうだったわ。母さんは私たちを育てるために毎日たくさんの占いをしていたんだけど、そのせいで気力がすっかりすり減ってしまった。人間、気力が減ると体にも不調が出てしまうものなの。だから、母さんは占いのし過ぎで病気になって亡くなったようなものなのよ」
「そうだったのか……」
もしそうだとすると、さっきの猿の女もいつかは病気になり、早死にしてしまうのかもしれない。
「で、あの猿、お姉さんに似てた? っていってもあれじゃあわからないよな。部屋は薄暗かったし、顔はお面で隠されてるし、声も出さないんじゃ」
「うーん、確かにそうなんだよね。でも、すごく気になることがあって」
「なにが?」
たずねると、春蘭は私を見つめた。
「占いの方法が、母さんと一緒だったの」
「そりゃあ……気になるね」
「うん……」
相変わらず前を歩く二人は占いの話で盛り上がっている。琳琳は恋占いをしようか迷っているようで、宇晴が「迷っているくらいならやったらどうだー」なんて能天気に答えている。
「ねえ、思月」
ふいに春蘭は、私の手を握った。その指先が氷のように冷え切っていたから、私は自分の両手で春蘭の手を温めるように包んだ。
「なあに? 春蘭」
「今度もう一度、あの占い師のところへ行きたいの。その時は思月と二人で行きたい」
「うん」
「それで、あの助手の人がいない状態で、あの猿のお面の人に、話がしたいの」
「わかった。そうできるようにしてあげる。私の力を使えば簡単なことだから」
「ありがとう」
ホッとしたように、春蘭が微笑む。
すると前を歩いていた琳琳がこちらに振り向いた。
「んっ!? どうしたのよあんたたち、手なんかつないじゃって! ま、まさか……」
顔を赤らめる琳琳に、慌てて説明する。
「春蘭の手が氷みたいに冷たくなっちゃったから、温めてあげてたんだよ。ほら、触ってみ」
琳琳は春蘭の手を握る。
「ひゃっ。ほんとだー。手が冷たい! っていうかそんな綿もろくに詰まってないような上衣着てるからよ。冬用のを新しく作ったほうがいいわ」
「でも、新品の冬用の上衣なんて、値が張るし……」
そう言って苦笑いした春蘭に、琳琳は言った。
「あら、私の二輪草仲間のツテがあれば、安く手に入るわよ? そういう困ったことがあったときには、ちゃんと相談しなくちゃだめじゃないのー」
「そうだったんだ……。じゃあ、お願いしたいな」
「私の分も頼むわ」
ついでに琳琳に頼むと、快く引き受けてくれた。
「了解! 二人が寒い思いをしなくていいように、いっぱい綿の詰まったやつをお得な価格で手に入れてきてあげるから!」
琳琳は得意げに、にんまりと笑った。
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