第6話 闇夜を裂くNSX
湾岸線の冷たい夜風が、車たちの鋭いエンジン音を掻き消すように吹き抜ける。阪巻シズクのNSX Type-Rは、鋭いアクセルワークで蒼井ヒロキと西野アレトを着実に引き離していった。
「やばい、完全に置いて行かれるぞ...!」
西野のシルビアS15は、限界付近のグリップを感じながらも、追走に必死だった。しかし、そのテールがわずかにスライドし、わずかなロスが積み重なる。
蒼井は後方からその様子を冷静に観察しながらも、追いかける速度を緩めることはしなかった。
「シズニャン、本気を出している...!でも、どうしてあんなに速いんだ?」
赤坂ストレートでの攻防
一橋JCTを超え、3台は赤坂のストレートに突入した。ここは速度域がさらに上がる首都高屈指のハイスピードゾーンだ。
「ここなら勝負になるかもしれない...!」
西野のシルビアが最高速域に到達し、シズニャンのNSXを追い詰めようとする。しかし、その差は縮まらないどころか、さらに広がっていった。
蒼井のFD3Sも西野に追随するが、やがてそのシルビアとも距離が開き始めた。
「くそっ、あのNSX、ストレートでも抜けないなんて...!」
勝敗の明暗
赤坂のストレートを終えた三台は、三宅坂JCTに差し掛かる。ここでシズニャンのNSXは、新宿方面へと滑り込むように消えた。その滑らかな走りは、まるで夜の闇に溶け込むようだった。
「完全に負けたな...」
西野が無線越しに呟いた。その言葉には悔しさがにじみ出ている。
「うん。でも、あのNSXは明らかに格が違う。車も腕も...。」
蒼井の声には悔しさと、同時に尊敬の念が混じっていた。二人は言葉少なにその夜の走りを終え、それぞれの家へと帰っていった。
新たな情報
翌日、大学の授業を終えた蒼井と西野は、品川区の寺田リョウのガソリンスタンドを訪れた。スタンドの奥では、寺田が愛車の86GTを点検している。
「寺田さん、昨日シズニャンに完敗しました。」
西野が苦笑いしながら言うと、寺田は少し驚いた顔を見せた。
「阪巻シズクか。奴は首都高全域で速い。あの獅童サクラと肩を並べるレベルだ。」
「獅童さんと同じレベル...!?」
蒼井は驚きを隠せなかった。
「そうだ。C1では俺もシズニャンと互角に戦えるが、他の場所では完全に負ける。それくらい総合力が高いんだ。」
寺田の話を聞きながら、蒼井は昨夜の走りを思い返していた。
予期せぬ贈り物
その時、寺田が思い出したように言った。
「そういえば、知り合いのFD乗りからECUをもらったんだ。富士スピードウェイをメインに走ってるプロからのものだ。」
「本当ですか?」
「うん。首都高でも十分に通用する仕様だと思う。試してみるか?」
蒼井は即座に頷いた。
「ぜひ、お願いします!」
新たなセットアップ
その日の午後、蒼井のFD3Sに新しいECUが取り付けられた。寺田が自ら調整し、最適なセッティングを施していく。
「これでFDはさらに速くなるはずだ。」
寺田がそう告げると、蒼井は感謝の気持ちを込めて深く頭を下げた。
「ありがとうございます。早速試してみます。」
夜のテスト走行
日が沈み、夜の首都高が再び彼らを迎えた。寺田、西野、そして蒼井の三台は、セットアップの確認を兼ねて走りに出た。
「行くぞ!」
寺田の86が先陣を切り、西野と蒼井がその後を追う。新しいECUを装備したFDは、これまで以上に鋭いレスポンスを見せた。
「これは...すごい!」
蒼井は驚きと興奮を抑えられなかった。その感触は、昨夜の敗北を取り戻すための大きな武器となることを予感させた。
「このFDで、また挑戦する!」
首都高の夜は、彼にとって新たなスタート地点となった。
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