第5話 夜の女王

次の日の昼休み、西野アレトが大学の食堂で蒼井ヒロキに声をかけた。


「お前、昨日の寺田さんとの走りで少しは自信ついたか?」


蒼井は箸を置いて笑った。


「まだまだだよ。でも、少し手応えは感じた。」


西野は満足げに頷いた。


「今夜も行こうぜ。走りを磨くには実戦が一番だ。」


蒼井は即答した。


「もちろんだ。」


夜の芝浦PA


夜の空気が冷たくなり始めた頃、蒼井と西野はいつもの芝浦PAで落ち合った。エンジンの音が交差し、車好きたちの熱気で満ちていた。


「今日のプランは?」


蒼井が尋ねると、西野は笑いながらシルビアのボンネットに腰掛けた。


「C1外回り。どれだけ連携して攻められるか試してみよう。」


準備を終えた2台はエンジンを始動させ、首都高に滑り込んでいった。ネオンが流れる中、蒼井のFDと西野のシルビアが一般車の間をスラロームし、息の合った走りを見せた。


「蒼井、成長したな...」


西野は感心しながら無線でつぶやいた。


辰巳PAでの出会い


激しい走りを終えた二人は、休憩のため辰巳PAに立ち寄った。普段よりも人だかりが多く、車好きたちの視線が一点に集中していた。


「何だ、あの車は...?」


人々が集まる中心には、黒いボディが美しく輝くホンダNSX Type-Rがあった。そのボンネットに腰掛けているのは、アイドルグループGZS45のメンバー、阪巻シズク――通称シズニャンだった。


「マジかよ、あのNSXがシズニャンの車なのか?」


西野が驚いたように呟く。蒼井はそのNSXがただの飾りではなく、走り屋仕様であることを見抜いていた。


「これ、相当な速さだぞ。」


しかし、西野の耳元で囁こうとしたその瞬間、シズニャンが彼らの方向に視線を向けた。


「走り屋ごっこ?そんなの、見てるだけでダサすぎ。」


シズニャンの辛辣な一言に、周囲の空気が張り詰める。西野は顔をしかめたが、蒼井が冷静に静止した。


湾岸線への挑戦


やがて、シズニャンは群衆を振り切るようにNSXに乗り込み、湾岸線へと姿を消した。その姿を追うように、西野がシルビアに飛び乗った。


「蒼井、あいつ追いかけるぞ!」


蒼井もFDに乗り込み、エンジンを唸らせた。二台はNSXを追い、湾岸線からレインボーブリッジ方面へ進んだ。


黒の閃光との対決


レインボーブリッジを渡る途中、蒼井はNSXに並ぶことに成功した。横を見ると、シズニャンが小さく首を振るのが見えた。


「本気でやるつもりか...」


その直後、NSXは一気に加速を始めた。蒼井と西野は彼女を追い、三台のバトルが繰り広げられた。


湾岸線からC1外回りへ。シズニャンのNSXはまるで舞うように走り、蒼井はその速さに舌を巻いた。


「なんてライン取りだ...!」


蒼井も全力で追いすがるが、その差は埋まらない。西野も後方から支えるように追走していたが、NSXの速さには一目置かざるを得なかった。


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