生成ペン ~もしも思い描いたモノをこの世に生み出るペンがあったなら~

🪻夕凪百合🪻

想像と創造

 ――朝、起きたら机の上に変なペンがあった。


 何だろう、このペン……こんなもん買ったかな?そう思った、私は机の上のパソコンを見つめる。


『生成ペン、100000000円、返品不可』


 パソコンに写し出された0の数に絶望する。たぶん昨日、眠気に襲われて間違えて買ったなぁ。


 1億ってマジか。そもそもどう使うのこれ?……説明を見てみる。


『たったの1億円で、あなたが思い浮かべて描いたものを全て生み出すことができます!』


 わかりやすい詐欺みたいな文が書かれていた。でも、もしこれが本当のことならば……。


 試しに、昼ご飯になりそうなカップラーメンを思い浮かべて描いてみる。


「んー、こんな感じかな?」


 わぁ!突然、目の前に生成されたカップラーメンに驚く。え、嘘でしょ?まさか食べれるわけないよね?


 お湯を沸かして3分待つ。……え!これ食えるんだけど。


 もしかして何でも生成できるのかな?そう思った私は、お金や服など色々なものを思い浮かべて描いてみる……全部、生成できた。


 何でも作れるなら……このペンであの日死んでしまった君を描いたなら――。


***


 君の事を思い浮かべながら描いた。あの時の笑顔や私を見つめるその眼差し……私が覚えている君の全てを思い浮かべながらペンを走らせる。


 ――私の目の前には完璧な君が立っている……そのはずだった……何かが違うんだ。おかしい、完璧なはずなのに。そう、見た目が少し違うようだ。


「やあ。絵梨えり


「……うるさい!」


 君であって君ではない……"偽者"の頬を手のひらで叩く。生身の人間の感触がする。


「酷いよ。なんでこんなことするんだい?絵梨、前はそんなことしてこなかったじゃないか……」


 奴が叩かれた頬を手で抑えながら喋る。


「偽者が私を勝手に語るな!」


 偽者の頭を殴る。手に響いている痛みが鬱陶しい。偽者の首を両手でぎっしりと掴む。ものを握り潰すような感覚だ。


「……やめてくれ」


 それだけ言って偽者は動かなくなった。さっきまでは、あった生々しい熱もなくなっている。


「さぁーて、失敗作を消したし、本物の君を作り出すか」


 私は狂ったようにペンを走らせる。今度こそ!君の輪郭を描いて、髪の毛を1本ずつ忠実に再現する。まあこれは許容範囲だろうと思うところまで作り込んだ。


 目の前に生み出された君を見る。うふふ、完璧な君が出来上がった。細い首筋もキリッとした目も完璧に君になった。


「久しぶり!絵梨ちゃん!」


 なんだこのテンションの高い奴は……こんなのは、君じゃない。また偽者が出来上がっちゃった。壊してやる……殺してやる!私はまた偽者の首を絞める。


「……離せよ!」


 偽者が私の腕を掴んでくる。離せなんて言われても離さない。……あぁ、やっと動かなくなったか。


――もっと完璧なものを生み出さないと!私は何回も何回も君を描いた。でもどうしても何かが違う。偽者が出来上がる度に首を絞めた。暗い部屋の中には、どんどん死体ゴミが山積みになっていく。


 なんで?……そうか、こんなにやっても完璧な君が出来上がらないのは、私が君をちゃんと知らないからだ。もう少し……君の事をずっと見ていれば良かった……。涙が頬を伝う感覚がする。泣いたって何も得られないのに……。


 もう完璧な君じゃなくたっていい。とにかく君に近い君を描けばいいんだ。疲れて痛い右手に力を込めて描き始める。


――完成した!これが私の理想とする君だよ。ほんの少しだけ君には似てないところがあるとしても……それでもいいの。


「絵梨?久しぶりだね」


 そっと口を開く。声も喋り方も完璧だ。君らしい。


「会いたかったよ」


 君の背中に手を回して抱き締める。骨と筋肉がちゃんと生成されていて生きている温もりがする。

 

 君が後ろの方を振り返る。あ、そっちには――。


「ッ……絵梨、何あれ?」


 死体ゴミの山を見た君は絶句している。あーあ、退かれちゃったかぁ。


「大丈夫、ただの死体ゴミだから。君を作るためには仕方ない犠牲だよ」


 君は少し涙を流して逃げようとしているが、私は躊躇せずに君を抱き締めていた。


――完。

 


 


 

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