籠女〜かごめ〜
風丘春稀
第1話 夜の怪談
「母さんがこんな話をしてくれたんだ……」
祖母は、子供だった私によく怖い話をしてくれた。祖母が昔住んでた村に、ある言い伝えがあったんだって。
「ウチらが住んでた村で、昔『間引き』というものがあってなぁ……」
「間引き? それ、どんなの?」
「当時はみんな貧しくてなぁ、食うもんもなくて、あかんぼ育てられんくて海に捨てたんだ……」
「へぇ~、その赤ちゃん可哀想……」
私は祖母の膝に寝っ転がって真っ暗闇の庭を眺めながら、耳元に聴こえてくる怪談話を半信半疑で聞いていた。膝枕をしていると、祖母が毎日炊いている柑橘系のお香の香りが着物からふわりと漂ってきた。柔らかいけど、甘酸っぱい独特な香りが祖母の姿を思い起こさせてくれる。
「その赤ちゃん、海に捨てられたらどうなっちゃうの?」
「大抵は、沈んで死んじまう。籠の中にあかんぼと一緒に重い石を入れてねぇ……浮かんでこんようにするんだ」
「ひどい……」
「でもなぁ、、、母さんが言うには、たまぁに、沈んだ子が海から戻ってくるんだと」
「え? 生きて?」
「ううん……海の化け物になって帰ってくるんだ……子供を拐いに……」
その話を聞いた途端、理屈のない寒気が背中を撫でるのを感じた。幼いながらも、私が悪いことをしないように祖母が言い聞かせた作り話だと信じていたかった。
話が終わると、祖母は『かごめ唄』を口ずさんだ。
「か~ごめ、かごめ、籠の中の鳥は、いついつ出やる、夜明けの晩に、鶴と亀がすーべった……うしろの正面だぁれ?」
「あたし、そのお唄知ってるー!」
「おぉ、知っとるのかい?お前があかんぼの時からよく歌ってあげたからねぇ……。いいかい?絶対に夜に海に行ってはならん……。海に引きずり込まれるからな」
「うん……分かった……絶対行かない!」
あの時、私は祖母と約束した。夜になったら、絶対に『海に行かない』ということを……
だが、今や大人になった私は、祖母の話などほとんど忘れかけていた。あの悪魔のような日が来るまでは……
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