バナナ
夏木
第1話 アレ
アレの名前を言う事は固く禁じられている。
違反すれば懲役一年六カ月、執行猶予三年がつく。これは覚せい剤による初犯のときと同じぐらいの罪の重さだ。
何故アレのことが伏せられたのかは定かではない。しかし、気候変動による生産量の低下や物価上昇に伴う生産への影響が主たる要因とも言われた。
一部の界隈からは、アレの形がアレに似ているから消されたんだとか、アレの表現は今後どうしようとか、アレが好きなキャラクターにはどうしたらいいのか、アレをアイテムとして登場させているが代用品は何かとか。アレはたくさんのものに出ていたから、修正が大変だったらしい。
もちろん禁止されるまで、ある程度の猶予があった。
その間にアレが出回った作品に関しては修正がされ、設定が変更され、アレ自体を無くす方針へと向かう。
その間にも、アレはいつしか店で見かけなくなってしまった。
もう何年も、いや何十年もアレを見てもいないし食べてもいない。
だから時々、アレが欲しくなる。
『マジカル〜!』
横断歩道に差し掛かった時、車側の信号が黄色になった。
あと少しで歩行者側は青になる。信号待ちをしていると、ビルの側面にある大きなモニターにアニメが映った。
あれは日曜日の朝にアニメをやっている、いわゆる女児向けアニメだ。
髪の根本が少し茶色たが、長い金髪の女の子が黄色を基調としたフリフリの服を着て、ステッキを振る。すると光線が出て、ドロドロとしたいかにも敵の生物を粉々に消した。
「やはりナナちゃんは可愛いでござる」
「何を申そう、ナナちゃんよりハナちゃんの方が可愛いでござるよ」
同じく信号待ちをしていた、大きなお友だちが鼻息を荒くして語る。
なるほど、ナナとハナの二人が主人公なのか。
大きなお友だちはその後も呪文のような言葉を羅列して互いの意見を交換し合う間にも、信号が青に変わったので、大きなお友だちより先に横断歩道を渡った。
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