🚫校則違反をしないと出られない学校〜よりにもよって、堅物学級委員長と一緒に閉じ込められてしまったなんて……

苟且(仮ペンネーム)

第1話 ゲームの幕開け

 ある夏の夕暮れ、帰宅途中の帰り道で携帯電話が不意に鳴り出した。画面に表示されたのは知らない番号だった。


「藤崎、お前、視聴覚室に忘れ物をしているぞ。今すぐ取りに戻ってきてくれ」


 聞き覚えのない声だった。でも相手は俺の名前を知っているし、話し方の雰囲気からして、先生のうちの誰かだろうと思った。


 ——けど、何先生だ?


 不思議に思いながらも、全力で自転車をこぎ、学校に舞い戻る。


 誰もいない放課後の学校って、なんだか魔法の解けたカボチャみたいだな。


 ぼんやりとそう思いながら、自転車を停めて校門をくぐる。暗くなり始めた校内は、昼間の賑やかさが嘘のように静まり返っていた。


 視聴覚室にたどり着き、扉を開けると、そこには学級委員長の七瀬沙織がいた。


 制服の上にカーディガンを羽織り、きっちりとした三つ編みに度の強そうな眼鏡。いかにも”品行方正”を地で行くような姿だった。


「藤崎くん、どうしてここに?」彼女は驚いたように声を上げる。


「いや、それはこっちのセリフだよ。忘れ物があるって電話があってさ」

「私も同じ」


 俺たちが状況を確認しあっていると、突然視聴覚室のモニターが点灯した。画面に映し出されたのは黒いスーツを着た男。しかし、その顔にはボカシが入っていた。


「こんばんは、諸君」


 男が話し始める。俺は目を細め、モニターを見上げた。


「いきなりで申し訳ないが、私の指示に従わないと、ここから出ることはできなくなった」


「……は?」思わず声が漏れる。


 七瀬さんも眉をひそめた。

「冗談にしては悪趣味すぎます」


「ドアも窓も封じた。この部屋は私の支配下にある。抵抗するのは無意味だ」


 七瀬さんと俺はすぐに扉に駆け寄り、ドアノブをひねる。しかし、びくともしない。今度は窓を開けようとしたけれど、まるで溶接されたように動かなかった。


「こんなの…… どういうこと?」


 七瀬さんの声はかすかに震えている。俺も背筋に嫌な汗を感じながら、モニターの男をにらみつけた。


「目的は何だ? こんなことして、どうするつもりなんだ!」


 男は淡々とした声で答える。

「目的? 強いて言うなら娯楽だな。さて、始めようか」


「ふざけないで!」七瀬さんが叫ぶ。


「こんなこと、絶対に警察が許さないわ!」

 彼女はすぐに携帯を取り出し、通報しようとした。しかし、画面を見た彼女の動きはすぐに固まった。


「……圏外? そんなはずない!」


 俺も慌てて自分の携帯を確認するが、同じだった。さらに時計を見ると、19時00分のまま動いていない。秒針すら止まっている。


「気づいたようだな。この学校は外界と完全に切り離されている。つまり、お前たちの力ではどうすることもできない」


 七瀬さんは声を震わせながらつぶやいた。

「本当に……出られないの?」


 俺も怖くなってきたけれど、何とか平静を装う。

「大丈夫だ、方法はあるはずだよ。落ち着こう」

 七瀬さんは小さく頷くが、不安が拭えない顔だ。


「さて、説明をはじめよう」

 モニターの男がフリップボードを取り出すと、そこには大きく


 ”校則違反をしたら出られる学校”


 と書かれていた。


「校則違反……?」


「その通り。この学校には校則があるな? それを破ることが、この空間から脱出する唯一の条件だ」


 七瀬さんは拳を握りしめ、震える声で言った。

「そんなこと、絶対にしません!」


「拒否するのは自由だ。ただし、一晩経てば誰かが助けに来る、そんな希望は持つんじゃないぜ。この空間では時間も空間も止まっている。お前たちが行動を起こさない限り、永遠に閉じ込められることになる」


「……藤崎くん、まさかとは思うけど、何か知ってるの?」

 七瀬さんが不安げに俺を見つめる。その視線には疑念と恐怖が入り混じっていた。


「俺だって被害者なんだけど」

 思わずムッとした声を返すが、七瀬さんの表情は硬いままだ。


 モニター越しに、男の不気味な笑い声が響いた。

「さあ、どうする? 最初の校則違反を試してみるか?」


 俺たちは互いに顔を見合わせた。


 不安と恐怖の入り混じった中、奇妙な「ゲーム」が今、始まろうとしていた。

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