蛹の羽化を見守るバイト・1

 友人が俺に借金を押しつけて失踪した。

 いや、友人だと思っていたのは俺だけで、アイツにとっての俺はただの金ヅルだったのかもしれない。そんな不義理な奴を未だに友人と呼んでしまう辺り、俺は馬鹿みたいに人がいいんだろう。だからまんまと騙されたのだ。

 大学を出ても就職先がなかなか決まらず、アルバイトでどうにか食い繋ぐフリーター生活を送る俺の家に、大学ぶりにアイツは訪ねてきた。久々にサシで飲みたいと言われ、俺は歓迎した。近況を尋ねると、どうやらアイツも俺と似たような境遇だったようで、愚痴に花を咲かせた。そうして酒を呷っているうちに、俺はすっかり酔い潰れてしまった。

 翌朝、二日酔いでガンガンとする頭を押さえながら起き出すと、既に友人の姿はなく、手持ちの金や通帳、印鑑が全て消えていた。

 それから数日後。いかにもヤのつく自由業な、ガラの悪そうな奴らが家に押しかけてきた。どうやら友人は闇金からかなりの額を借りていたらしく――そういえばアイツは学生時代からギャンブルにハマっていた――更には、俺は知らぬ間に友人の借金の連帯保証人にされていた。金を持ち出した際、アイツが勝手に署名した挙句に俺の印鑑を使って契約書に押印したんだろう。俺はヤのつく連中から友人が失踪したため、代わりに借金を払うようにと脅された。

 まともに就職しようとしない息子に呆れた実家からの仕送りはとっくに途絶え、アルバイトで稼いだ端金も友人に持ち逃げされた。そんな事情を泣きながら説明したところで、情けをかけるほど向こうも甘くはなかった。

羽生ハブくんって言ったっけ。君にできるのは海に沈むか、体張ってでも大金稼ぐかの二択だよ」

 取り立て屋の親玉は柔らかい口調だが、言ってることはおっかない。漫画やドラマ以外でそんな台詞、初めて耳にした。リアルで言う奴マジでいるんだな、と考えたのは現実逃避だったんだろう。

「せっかくだから、大金稼ぐ手段、紹介しようか? お友達に勝手に連帯保証人にされた挙句逃げられたの、可哀想だもんねえ」

「それは、あの……腎臓を片方摘出するような……?」

「違う違う。紹介するのはアルバイトだよ。勿論ただのアルバイトじゃなくて、死ぬかもしれないけど簡単に大金稼げるやつ。どう?」

 俺は一も二もなく頷いた。頷くしかなかった。選択肢など端からないも同然だった。

 取り立て屋に連れられ、廃墟じみたビルの一室を訪ねると、お香なのか煙草なのか、よくわからない煙と匂いが蒸せ返るほどに蔓延していた。阿片窟という単語が脳裏をよぎる。闇金が紹介するくらいだからまともではないと覚悟していたが、まさかここまでとは。

 今すぐにでも踵を返して逃げ出したかったが、同行した取り立て屋が目を光らせている。逃げる素振りを見せた途端に後ろからズドン、体をバラバラにされて売り捌かれて終わりだろう。震える足を無理矢理踏ん張るしかなかった。

おもかげさーん、コイツに裏バイト見繕ってやってください」

「おや、初めての子だね。はじめまして」

 長い襟足を結わえた、蛇に似た陰険な目つきの男がニヤリと口を歪めた。サングラスの奥で細めた目に睥睨されると、なんだか値踏みされているようで落ち着かなかった。こいつが蛇なら俺は蛙だ。体を縮こまらせる俺に俤は告げる。

「キミにぴったりの仕事があるんだ」

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