僕はお前の妹じゃない!...です。

りょくぴく

序章 世界変異

第1話 「女の子になっちゃった!」

━━━それじゃあその血をいただくわね。


 艶やかに発する声が真正面にいる深紅の髪の幼女から聞こえる。


 静寂に支配された駐車場だった空間で冷たい壁に背をつけて立ち上がることを拒絶するかのように臀部は地面にへばりついている。


 僕は何もなすことはできずにこれからこの吸血鬼に吸われて死ぬのだ。


 ああ、身体はもう動かない。僕の中にあった血液は温もりと共に流れていき、もう楽になれよと言わんばかりの眠気か押し寄せてくる。


 生きたい。ここで死ぬのは嫌だ。まだ今日の配信だってまだしてない。だから眠るな起きろ。身体を動かせ。


 僕は絶体絶命の状況から、諦めずにできる限りを尽くそうとしたが、意思をいの一番に反映する人差し指を動かすのが精一杯だった。


━━━抵抗なんてできないでしょう?


 ガブっと左胸元から血を吸われている。こうして抗うことは不可能だと悟る。ああ、これはダメかも……。結局僕に贖罪を示すチャンスなんて最初からなかったってわけだ。


 僕はついに抵抗する心を手放してしまった。僕は最期にまだここにいる妹の無事を祈り、目を瞑る。


━━━やっぱりあなた魔力がないのね。なのにあんな力を出していたなんて。


 吸血鬼は吸血を止め、語り始める。


━━━私はね、妹という存在が欲しいの。ここにきたのもそのため。この私があなたを追い詰めるのに5分もかかってしまったの。ふふっ、気に入ったわ。今日からあなたが私の妹よ。


 何を言っているのだろうか。僕は瞑っていた目を開き、ぼやけた視界で吸血鬼を見つめる。


 すると吸血鬼は自分の口を噛んだ。その口から少量の血が流れた。


 理解の範疇を超えた行動に心がざわつく。ただひとつ確かなことは僕にとって事態が好転する状況ではないということだ。


 吸血鬼は瞬く間に僕の顔に接近する。そして、吸血鬼は流れている血を僕に飲ませるように口付けをした。


 ほんのりとした温もりと共に流れる吸血鬼の血は凍っていく僕の脳を溶かし、意識を取り戻していく。理解が追いつかなかった。僕を殺そうとした相手がなんで突然こんな真似をするのか。


 吸血鬼が僕の口に血を流し込めたのを確認すると、その口を離した。その顔は胸の内にある企みを隠しきれない、してやったとばかりに口角を上げていた。


 ファーストキスを奪われた衝撃で、僕はあっけらかんと吸血鬼を見つめるしかなかった。何故こんな行動に出たのか考えを巡らせようとした。すると、突然僕の身体が熱くなり始めた。


痛い、痛い、熱い、熱い、痛い、痛い、熱い、熱い

 

 まるで泥のように崩れていくような身体が溶けて消える感覚だった。まさか人の形すら残してはくれないのか。苦しみと悲しみで涙が溢れていく。ダメだこれは意識が消える。


 最後に助けを求めるようにこの痛みを与えた吸血鬼に右手を伸ばす。ふと、自分の手を見るとみるみると小さくなっていた。


 そして右手にやった視線の先に紫色の霞が濃く渦巻いていた。そこからゲームやドラマでしか見ないような、剣を持った少女が吸血鬼に斬りかかっていた。

 

━━━ふんっ、こんなところまで勇者サマはくるのね。いいでしょう。少し遊んであげる。


 その光景が僕が最後に見た光景だった。


➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖


(起きて杜和とわ起きてってば!!)


 頭の中で声がした。途切れていた意識は徐々に覚醒する。


 どれくらい寝ていたのだろうか?頭の中で寝る前の状況を思い出そうとする。


━━━あら起きるのが早いのね。体はもう動かせるでしょう。


 向こう側から可愛いらしい幼女が話しかけてくる。誰だったかは思い出せない。


━━━そういえば名前を言ってなかったわね。私の名はクェル。そしてあなたは私の妹のルルス。


 何を言っているんだろうこの子は?僕に姉なんていないし、そもそも僕は男だ。もしかしておままごとでもしたいのだろうか?


━━━ふふっそれは過去の話よ。鏡を見なさい。同族になったのなら私たちの姿は見えるはずよ。


 僕は訝しみつつも、言われた通り近くにあった鏡を見る。そこには自称姉のクェルとそっくりな姿をしている女の子の姿があった。ポニーテールで深紅の髪に深紅の瞳、フリルがついた可愛い漆黒に染まった洋服を着ている。そして、僕が自分の頰をつねると鏡の向こうの子も頬をつねっている。


 そして僕の意識は完全に覚醒し、直前の記憶思い出すことができた。そして僕は部屋中の空気を全て取り入れるくらい吸い込み、


「なんじゃこりゃーーーーーーーーーーーー!」


度肝を抜かれ僕は、吐き出すように叫んでいた。

 

そして今日の出来事を回想する。

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