魔王様は、亜人や人を愛でるため、ダンジョン攻略専門学校の教師になりました。
優白 未侑
第1話 先生初日、逮捕されました。
『多種族合衆国政権第四十九代首脳長である。魔王アザート・ピース氏が失踪して一年、ムー大陸では混乱を……』
市街地の高層ビルに着いた大型のテレビから流れるニュースは、普段と変わらない。
「それホント? ありえないよ」
「本当だよー。昨日、エルフの友達がみたっていうから情報は確かだよ」
スーツ姿の目立たないサラリーマンの横を通っていったのは、蝙蝠の翼に角を生やした学生服の少女と白い鳥の翼を生やした学生服の少女であった。
「……」
他にも、ミミの長いエルフがスマホをいじりながら歩き、普通の人間の少女がエルフに声をかける。
「今日も世界は変わらず平和……。それに……あの天使っ子の羽、通夜は最高だし、悪魔っ娘は角が立派で……ふへへ、やっぱりアトランティスは最高だぜ」
あまり目立たないサラリーマンは、そうつぶやいた瞬間であった。スマホから呆れたような少女の声が流れる。
『正輝様……今日から各種族が集まるダンジョン攻略専門学校での仕事だというのに。その性癖どうにかしたほうが良いですよ』
「ごめんって、僕には、電子の妖精のティたんと言う嫁がいたのに。嫉妬はしないでくれ」
『私は、正輝様の専属サポート妖精であって嫁ではないです』
「照れ隠し」
正輝がそう言った瞬間、画面越しにいる透き通多羽を携え怒ったようにその羽を震わす。
『照れていません。あまりふざけたことを言いますと、スマホ内に何故か入っている文学評論極秘と言うデータを消去いたしますが』
「誠に申し訳ございませんでした」
スクランブル交差点の信号待ちの中、スマホに向かって謝る正輝であるが人工島アトランティスではよくある風景で誰も気には留めない。
そして信号が青になった瞬間であった。
交差点の中心で爆風が広がり、スクランブル交差点を通ろうとした人たちは、逃げたり、腰を抜かしその場でしりもちをついていた。
「さあさあ! この交差点は天下の大悪党グリファ様が占拠しました! ここを通りたければ、身代金として一億円を我々ダンジョン攻略専門学校停学部に入金すことだぁ! ねね、グリファ様、キリム頑張りました! 褒めて! 褒めて!」
「え、ええ! 流石だわ、キリム。カプリコ、籠城の準備は?」
茶色く長い髪に同じ色犬のミミをピンと立てしっぽを振る獣族の小柄な少女をなでる白い小さな羽根を頭から生やした金髪セミロングの天使族の少女はもう一人の立派なヤギのような角を生やした銀髪の大柄なのにおどおどおどおどした少女に声をかける。
「は、はい……完了しましたが、だ、大丈夫なのでしょうか」
三人のダンジョン攻略専門学校の生徒と思われる少女は、爆風と共に現れた装甲車の上に立ち高らかに宣言をした。
「だ、大丈夫! 成功すれば当面の食費……こほん、世界征服資金が賄えるのだし! では! 今日も平和ボケしているアトランティスの皆々様! 私たち停学部はいずれ、世界の覇権を奪い取るチーム! 従えば殺さないから覚悟しなさい!」
高らかに宣言するリーダーのグリファであったが、動じることもなく白けた目で見る正輝はその場で立ち尽くしていた。
「ティたん……あれって今日から僕が働く学校の生徒さんだよね」
『……残念ながら正解です。ダンジョン攻略専門学校。アトランティス最大の学校だというのは知っていましたが、あそこまでふざけた生徒、なぜ退学にして、刑務所にぶち込まないのでしょうか……あ、とりあえず攻撃否定の魔法を使いますので私から離れないでください』
そう言うとティたんは、正輝の周りに透明な光膜を張る。
「これで一般人は……。って、そこのサラリーマン! 何ボーッとしているの! 私たちは危険なの! 早く逃げなさい!」
グリファは、手に持ったサブマシンガンMP5を正輝に向かい警告をするが、正輝は動じず、両手をあげてグリファ達に近づく。
「ごめんって! 君たちダン専の生徒だよね! 僕は、今日からダン専の先生になる初瀬正輝(はつせまさき)と言うんだ! 銃を降ろして一緒に話さないかい? 僕たちは、言葉で会話のできる仲間通しなんだ!」
「あぁ! 先公がきやすくグリファ様に近づくな!」
「そ、それ以上近づけば爆弾を爆破いたします」
近づく正輝を警戒し、キリムは手に持ったAKー47を向け、カプリコは、爆弾の起動スイッチに指をかける。
「ほら、そんなにお金が欲しい理由あるんだろう! どうだろう今なら、その羽や角、もふもふのしっぽをなでさせてくれればこんな犯罪などしなくても済む方法を」
しかし正輝は、そんな警告にも怯えず二人に近づくのだが発言が怪しすぎた。
「教師が、ぱ、パパ活を申し出るのはいかがなものなの!」
「別にそんなつもりは!」
『正輝様が悪いです』
ジト目で魔法を展開し続けるティたんをしり目に危険を感じたグリファは、MP5を正輝の近くの地面に威嚇射撃をする。
正輝は動じず近づこうとした瞬間、次の威嚇射撃を撃とうとするグリファの射撃から正輝をかばうようにダン専の制服を着た黒髪ボブカットの人間族の少女が飛び込んできた。
「き、キミは」
「あ、貴方は、馬鹿ですか! 重火器を持った生徒に丸腰で近づくなんて!」
「いやぁ、僕は、生徒のためを思って……あ、僕は、初瀬正輝。君の名前は?」
「う、雨下野光珠(うかのみたま)です。ダン専の一年で人間族……勇者になるのが目標です!……って今は、自己紹介をしている場合じゃないです! さ、下がってください! 今、警察と生徒会長が向かっていますので! それまで私が守ります!」
人間族の少女、光珠は、慌てて正輝の前に立ちホルスターから少し古い形のデザートイーグルを構える。
「あははは! 生徒が一人助太刀に来たところでどうにもならないわよ」
「ブーストワン……正輝さん、とにかく私が護衛をしますので逃げますよ」
「……それで、光珠ちゃん装備と魔法は?」
「えっと、魔法は初級身体強化ブースト、段階は三まで……それ以外には、対人制圧日殺傷弾丸のデザートイーグルに模擬刀、煙幕二つですが」
「これつけて……それだけあれば、あの子たち止められるから。僕の指示に従って動いて。僕は怪しくない。教員証明書がこれ、今日からだけど、これがあれば戦闘許可できる」
「へ、え、えっと」
正輝から受け取ったイヤフォンを慌てて付けとり、教員証明書を見て驚く光珠であったが戸惑い正輝に聞く。
「ですが、そうすると正輝さん……先生は危ない……」
「僕には、相棒がいるから安心して」
『相棒って……はあ……正輝様。無理をするようでしたら、覚悟してください』
「分かっているってティたん」
「よ、妖精族、初めて見ました」
妖精族のティたんを見て納得する光珠。
妖精族は、排他的な種族でアトランティスには、あまりいない種族であるが、魔力が他種族に比べ強く、護衛として妖精族がいるなら正輝の言動も理解できた光珠は銃を構える。
「理解しました。では先生、指示を……決してティたんさんから離れないでください! 勇者光珠! 行ってきます!」
『私の本名は違うのですが』
「まあいいじゃんね。頼んだよ光珠」
「はい!」
光珠はデザートイーグルを構えるとそれを見たグリファは面白そうにわらう。
「あはは! あくまで抵抗するのね! いいわ! やっておしまい!」
「あいあい! ブーストをかけてもケガしちゃいますよ!」
そう言うとキリムは、AKー47を光珠に乱射し始める。
『光珠! 蛇行して、車に隠れて! ブーストは、1のまま弾丸を弾き飛ばす強度で』
「了解!」
光珠は、弾丸の雨を避けるように車に隠れると正輝から指示が飛ぶ。
『煙幕投下後、二秒待って急接近! 悪魔っ娘が爆弾を起動すると思うから爆風が来る瞬間、ブースト最大! 飛び上がって、犬ミミっ娘と悪魔っ娘の武器を模擬刀で飛ばして、天使っ娘の懐に入って!』
命令を聞いた光珠は、煙幕をグリファ達に投下する。
「や、やっぱり駄目です! き、起動します!」
その瞬間爆破に驚いたカプリコは爆弾を起動し、その爆炎でさらに煙幕は、広がりグリファ達の視界を奪う。
「今です!」
光珠は、模擬刀で、キリムとカプリコに近づき、武装を弾き飛ばすとグリファの懐に入り込み銃をグリファに向ける。
「投降してください。例え、あなた方がブーストで防いだとしても痛い思いをします」
「……キリム、カプリコ」
手をあげるグリファであったがその一言でカプリコとキリムは、その場で屈み目をつぶる。
「りょぉかい~」
「は、はい!」
刹那、それに気が付いた正輝は、指示を出そうとしたが、すでに時は遅く、グリファは、握った拳から閃光弾を離した。そして、辺りが一瞬光に包まれる。
「きゃ!」
「あーはははは! これで勝ったと思わない事ね~!」
そう言いグリファとキリムは、大きな翼を広げたカプリコに掴まり空に飛び去り逃げていった。
「あ、待ってください!」
『光珠、追わなくていい。僕たちの目的は、あの子たちを止めるだけ。目標達成だよ』
がやがやと騒がしい交差点の真ん中に鎮座する倉庫者にへたり込む光珠は、少し納得いかないのか頬を膨らませる。
「納得いきません」
『大丈夫、もっと納得いかないことが今から起こるから、ああ、でも……悪魔っ娘に天使娘、犬ミミっ娘はめでたかった』
「へ」
光珠は、変な声を出すと周りには、突然銃を構えたダン専の制服を着た生徒たちが、光珠と正輝を囲んだ。
「動くな……生徒会長命令。公共での問題行動で雨下野光珠、初瀬先生。おふた型を拘束させていただきます」
黒い軍服を着た黒く長い髪を一つにまとめた美少女がそう言いはなつ。
「げ、な、なんでエルバ会長が! わ、私たちは市民のためにみんなをまも……それに、先生の指導の下行った行為なので無罪です!」
「初瀬先生は、今日の午前九時より先生としての権限が発生いたします。今は、まだ朝八時……申し訳ございませんが今の戦闘行為は、違法なので、同行をお願いいたします」
断線の生徒にそう告げられ光珠は諦めて生徒に手錠をかけられる。
『まあ、エルちゃん、仕事に真面目だからね。自衛だとしても市街地での戦闘行為は、先生の権限がない限り禁止だから……諦めよう』
「あんまりです! 私は先生の指示に従っただけなのにあんまりですよ!」
涙目で叫ぶ光珠は、ダン専の生徒に連行されていく。正輝もおとなしく、生徒会の補佐に連れていかれるとき、呆れてエルバが正輝に話しかける。
「ま……いいえ、先生。初出勤からトラブルを起こすなんて全く」
「ごめんね、エルちゃん。生徒がトラブルを起こしたのだから先生としては、助けに入るのが当たり前であって」
「え、エルちゃんじゃないです。……それよりもようこそ、先生人工島アトランティスへ」
「うんよろしくねエルちゃん」
人工島アトランティス。
百九十九年前、地球に突如現れたダンジョンと多種族国家ムー。
現地世界が共存を望み作られ、科学や魔法が研究される人工島。世界に散らばるダンジョンを攻略し世界の平和を目指す、色々な種族が住む中立人工島アトランティスに新米教師初瀬正輝は、期待を胸にパトカーで学校まで優雅に光珠と連行されていった。
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