君がくれた最後の嘘

鏡浩一

第一章・さよならの予行練習

「卒業式の日に、私たち別れるから。」

教室の隅、最後のホームルームが終わった放課後。校舎を染める夕日よりも淡々とした声で、幼馴染の水原柚希がそう言った。


「……え?」

意味が飲み込めず、返事は間抜けなものになった。冗談かと思ったが、柚希は冗談が下手だ。それに、彼女はいつだって本気だ。笑いながら嘘をつくタイプではない。


「お互い、新しい生活が始まるんだよ。大学も違うし、遠距離恋愛なんて続かないって知ってるでしょ?」

柚希の言葉は理屈ばかりで、どこか冷たかった。

だが、俺は知っている。そうやって理屈で武装しているのは、彼女が本当の気持ちを隠すときだ。


「そんなの、続けるかどうかやってみないと分からないだろ!」

勢いよく反論した俺を見て、柚希はふっと笑った。でも、それはいつもの笑顔じゃない。どこか諦めたような、切ない表情だ。


「ううん、わかるよ。私ね、嘘つけないから。今のうちに、ちゃんと区切りをつけておきたいの。」


それが、柚希がくれた“最後の嘘”だった。

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