サンタさんだけど、プレゼントを配る先々でヤンデレっ子(自称5さい)が待ち構えていて辛い

ぽっぽ屋

ヤンデレっ子「サンタさんっ、捕まえた〜っ♡」

サンタ「クリスマスが今年もやってくる〜♪ 今日は年に一度の出勤日。帰ったらケンタッキー食いまくるぞ〜っ……宅配、北極まで対応してたか?」


 十二月二十四日。クリスマスイブ。

 トナカイの橇は現在、日本上空を飛行中。


サンタ「まあいっか、ウーバーなら何とかなるっしょ。とりあえず仕事仕事〜。まずは、あの一軒家から……今時珍しく、煙突があるや。よ〜し——」


 〜夢子ちゃん(自称5さい)の場合〜


サンタ「煙突潜ってメリ〜・クリスマ〜ス」

夢子「サンタさんっ、捕まえた〜っ♡」

サンタ「あれれ〜? 捕まっちゃった」


 煙突を下りるなり、出待ちしていた女の子に抱きつかれた。


サンタ「え〜っと、夢子ちゃんは今年もいい子にしてたかな?」

夢子「うん」

サンタ「じゃあサンタさんがプレゼントをあげよう。何が欲しいのかな〜?」

夢子「夢子、が欲しい」

サンタ「ほわ?」

夢子「夢子、サンタさんが欲しい」

サンタ「ほわっつ?」

夢子「夢子、サンタさんが欲しい」

サンタ「バグったゲームみてえだ。あと腕力がえぐい」


 5さい(自称)とは思えない腕力でもって、締め上げてくる。明らかにTKOを狙っている。


夢子「サンタさんって、ふかふかで夢子好み。お髭もセクシー」

サンタ「そんなに褒めたって、昼に食べたビックマックとペプシしか出ないよ」

夢子「夢子、サンタさんが欲しくて、この一年ず〜っといい子にしてたの。見て、お部屋にもサンタさんがい〜っぱい」

サンタ「こっっっっっわ」


 薄暗い部屋は、おびただしい数のサンタ人形で溢れている。サンタの決起集会みたいなことになっている。


サンタ「在庫管理ミスったみてえだ……」

夢子「こんなにサンタさんがいたって、本物のサンタさんには及ばないもん。夢子のサンタさんは一人だけ。夢が叶って、幸せ……」

サンタ「でもサンタさんは、みんなのサンタさんだから。えこひいきはいけないんだな」

夢子「も〜っ、いけずなんだから」


 夢子が顔を上げる。


サンタ「はわわ、目がハートだ。バレンタインデーを先取りしてるや」

夢子「今夜は寝かさない」

サンタ「み、身動きが取れない! これじゃプレゼントを待ってる子供たちが待ちぼうけを食ってしまう!」

夢子「素敵な夜にしようね……」

サンタ「こうなったら……むむむ。サンタ流忍法、身代わりの術!」

夢子「あ〜っ! 行っちゃやだ〜っ!」


 ブラックフライデーで買った『通信NINJA講座vol. 4』が早速、役に立った。

 煙突から脱出。トナカイを急発進。


サンタ「あやうく新しい家族をプレゼントするところだった。夢子ちゃんにはちょっと可哀想なことをしちゃった気もするけど、身代わりにカーネルサンダースのマネキンを置いてきたぞ。ふくふくで髭面だから、きっと気に入るはずさ。さ〜てさてさて、気を取り直して、お次の家は——」


 〜きららちゃん(自称5さい)の場合〜


サンタ「窓をすり抜けメリ〜・クリスマ〜ス」

きらら「こんばんわ、サンタさん」

サンタ「寝ない子だ〜れだ?」


 薄暗い部屋で、女の子が出迎えてくれた。


きらら「あのねあのね、私、サンタさんのために、頑張ってクッキーを焼いたの。食べてほしいな」

サンタ「なんてこった! サンタさんは三度の飯よりクッキーが大好きなんだ! この前もダチのクッキーモンスターと大食い選手権に挑んで——」

きらら「食べてほしいな」

サンタ「うん。頂くよ」


 バスケットに入ったクッキーを食べる。


サンタ「う〜ん、デリシャス! サンタさんはクッキーにはうるさいんだ。でも、これは過去一だね。シェフを呼んでくれたまえ!……な〜んて」

きらら「気に入ってくれてよかった」

サンタ「でも……きららちゃん、作るの大変だったでしょ? なんか指めっちゃ怪我してるよ?」

きらら「これはね、を入れたの」

サンタ「ぱーどぅん?」

きらら「血を入れてみたの。サンタさんと心も体も繋がるようにって」

サンタ「女の子のおまじないって、基本、黒魔術だよね」


 きららの手は絆創膏だらけだ。


きらら「おいしい?」

サンタ「え〜っと……ちょうど貧血気味だったから、嬉しいよ」

きらら「じゃあ、もっと食べて」

サンタ「トナカイ君も走りっぱなしで、きっとおなかを空かせてるだろうな〜」

きらら「だったらこれ、持ってっていいよ。うちの猫の、ちゅ〜る」

サンタ「よ〜し、あとでトナカイとプレゼント交換会だ!」


 プレゼントでいっぱいの袋を弄る。


サンタ「じゃあプレゼントをあげよう。クッキーのお礼に奮発して……って、なんか体が痺れてきたぞ?……あれ? 声が、遅れて、聞こえて、くるよ?」

きらら「実は隠し味に痺れ薬を入れたの」

サンタ「どっひゃ〜、どうりでスパイシー」

きらら「私、一人っ子だから、料理を作っても、食べてくれる人がいなくて……サンタさんだったら、きっと毎日おいしい、おいしいって食べてくれるよね? ね?」

サンタ「ははっ!『毎日、俺のために闇鍋を作ってくれ』ってか?」

きらら「じゃあ、明日は闇鍋を作るね!」

サンタ「サンタジョークが通じないや」


 きららがクッキーを押し付ける。


サンタ「でもサンタさんは、実はビーガンなんだ。動物性たんぱく質を食べると、尻が二つに割れる特殊なアレルギー体質で——」

きらら「あ〜ん……」

サンタ「それに夜に物を食べると、凶悪なグレムリンに変身して、陰険なばばあを車椅子ごと葬り去る——」

きらら「あ〜ん……」

サンタ「で、でりしゃ〜す……」


 髭に愛情たっぷりクッキーがこびりつく。

 ますます体が痺れてくる。


サンタ「でも心配いらないんだな〜。サンタさんは、世界中の子供たちの用意したクッキーやミルクなんかを、一晩で飲み食いしなきゃいけないから、何を食べても原子力エネルギーになるのだ。ドラえもんとお揃いさ。では、さらば!」

きらら「あっ、きららを置いてかないで!」


 窓ガラスをダイハードみたく突き破って逃走。トナカイ急発進。後始末は多分保険でなんとかなるさ。


サンタ「寂しがりで料理好きなきららちゃんの枕元には、オロナインと一緒に『ひとりでできるもん!』のバックナンバーも置いてきたぞ。まんだらけで仕入れておいてよかった。それにしても、このクッキー、案外いけるな。う〜ん、スパイシーっ!」


 きららちゃん特製の栄養補助クッキーを貪りながら、夜空を走る。


サンタ「次はマンションか。セキュリティが厳しいから、侵入するのも一苦労なんだよな——」


 〜聖那ちゃん(自称5さい)の場合〜


サンタ「天井裏からメリ〜・クリスマ〜ス」

聖那「わ、サンタって実在したんだ。正体はパパかと思ってた」

サンタ「サンタさんはね、みんなの心の中にいるのさ」


 天井から顔を出すなり、女の子と目が合った。

 子供部屋なのに、謎の実験道具で溢れている。


聖那「エナドリ飲む? 冷蔵庫に冷えてるけど」

サンタ「レッドブルなら遠慮するよ。翼が生えちゃうから。ところで、聖那ちゃんの欲しいものは何かな?」

聖那「手錠と拘束具と猿轡」

サンタ「随分マニアックなものを欲しがるね……ま、いっか。ちょうどコストコで買ったSM嬢なりきりセットが内ポケットに……あった!」


 要望通り、袋から手錠と拘束具と猿轡を取り出して、プレゼントする。


サンタ「で、どうするの?」

聖那「

サンタ「んんん〜〜〜〜っ!?(拘束されちゃった〜〜〜っ!?)」


 手錠と拘束具と猿轡でもって、羊たちの沈黙みたく厳重に拘束される。


聖那「サンタとかいう珍獣は、図鑑にも載ってないし、解剖のしがいがあるよね」

サンタ「人体の図鑑を捲ってごらん? 裸のサンタさんが載ってるから」

聖那「え、なんで話せるの? 猿轡してるのに」

サンタ「サンタさんは特殊な訓練を重ねているから、穴という穴から声を出すことができるのだ」

聖那「珍獣じゃん、やっぱ」


 聖那はドリルとハンマーを手に取る。


聖那「とりあえずおなか、開いてみよっか」

サンタ「開腹手術で使うやつじゃないよね。解体工事で使うやつだよね、それ」

聖那「私さ、普通の人間とか興味ないんだ。だってバラせないじゃん? でもサンタさんなら、好きになれそう……やば。運命、感じちゃったかも」

サンタ「ドリルとハンマー握りしめながら言うセリフじゃないよ」


 なぜか恍惚とした聖那が迫ってくる。ドリルとハンマーを両手に持って。


聖那「大丈夫、痛くしないから」

サンタ「麻酔はしなくていいのかな?」

聖那「エナドリ飲む?」

サンタ「むしろ目が冴えちゃうんじゃないかな」


 ドリルのスイッチが入る。歯医者さんのドアの向こうみたいな音がする。


聖那「もし失敗しても、心配ないから。私が責任を持って、死ぬまで飼育してあげる」

サンタ「確かに、責任を持って生き物を飼うことは大切だね。でも聖那ちゃんは、もっと大事なことを忘れているよ。倫理観とか道徳心とか」

聖那「科学の発展に犠牲は付き物」

サンタ「マッドサイエンティストにありがちな屁理屈だね」


 手術開始。


サンタ「だがしかし……その時、不思議なことが起こった。サンタさんの体が水晶の輝きを持つ水となり、生き物のように隙間を上り始めたのだ……とうっ!」

聖那「あ、逃げた」

サンタ「忘年会の宴会芸として、バイオライダーの物まねを練習しといてよかった。どう? 似てたかな?」

聖那「いや、元ネタ知らないし」

サンタ「ジェネレーション・ギャップだね、ははっ! じゃ、おじさんはこの辺でドロンするとしよう。アデューっ!」

聖那「え、せめて指一本でも置いてって」


 防犯セキュリティを強行突破して逃走する。まさかセコムも空までは追って来まい。


サンタ「聖那ちゃんの苦手科目は道徳かな。だからディズニーのDVDを山積みにしてきたよ。アダムスファミリーもバンビで更生したから、きっと効果はあるはずさ」


 聖夜の空にシャンシャンと鈴の音が響く。

 サンタさんを待つ子供たちは、まだまだたくさんいる。


サンタ「気を取り直して、もう一仕事といきますか。そして帰ったら、ケンタッキーだ。ポットパイもつけちゃうぞ〜っ」


 クリスマスが今年もやってくる〜♪

 悲しかった出来事を消し去るように〜♪

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サンタさんだけど、プレゼントを配る先々でヤンデレっ子(自称5さい)が待ち構えていて辛い ぽっぽ屋 @Cruppo

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