第17話 リリーシェ危機
「アンナ、よく聞け。最初の計画はそうだったが、何しろこいつは金の卵だ。だからこいつには家で仕事をしてもらうことになった。「でも、約束が違いますよ。だって私はアリー」、おい!」
アンナは慌てて男に口をふさがれ拘束される。
「いいから心配するな。旦那がそう決めたんだ。お前は心配するな。いいな?」
アンナはこくりと首を縦に振り黙った。
「いいか外の男が気づくと面倒だ。女は縛って口を塞げ。急げ。ここを出るぞ」
一番の頭目と思われる男が下っ端の男に命令を下すと掴んでいた腕に力を込めた。
その途端リリーシェはお腹にぐっと力を込めて防御の体制に入った。
一気にリリーシェの周りがピンク色の光に包まれて行く。腕を掴んでいた男が悲鳴を上げてその腕を離す。
「ぎゃー、お前何をした?」
男が手をぶんぶん振る。
「何やってんだ!「ばか、いきなりものすごい痺れがして…まるで雷にでも打たれたみたいに」何言ってんだ。おい、女。てめぇ大人しくしろ!」
別の男がリリーシェを捕まえようと手を伸ばす。
「痛っ!なんだこれは…光に触れた瞬間びりびりして「だから言ったじゃねぇか」嘘だろ。こいつ人間か?」
「リリーシェ!大丈夫か」
そこに扉が蹴破られユーリが入って来る。
見ればリリーシェが男たちに取り囲まれている。
一瞬でユーリの背中から青い炎がゆらゆら立ち上る。
銀色の髪は風もないのに揺らめき紺碧色だった瞳は碧銀色に変わっていて頬には鱗のようなものが浮き上がっている。
「お前ら、リリーシェに何をしたー!!」
ユーリが指先を男たちに向ける。
その指先からは青白い光がまっすぐ伸びてまるでレーザー光線のように男達の胸を射抜く。
アンナさんはあまりの事で気を失っていた。
リリーシェはその様をじっと見て思った。
(ユーリ様、あなたってスーパーヒーローだったんですか?これって特撮とかじゃないんですよね?その指先から出てるの画像加工とかでしか見たことないですけど…それってビームじゃないんですか?ってユーリ様って…あっ、竜人でしたか。竜人ってやっぱりすごいんですね…)
リリーシェはその場に立ち尽くしたまま、啞然としてやられて行く男達を見ながらそんなばかな事を思っていた。
すべての男を倒すとユーリの身体から青白い炎がぱたりと消えた。瞳もいつもの色合いに戻っていた。
「リリーシェ大丈夫か?」
そう尋ねたユーリ様が走り寄って来る。
(ちょっと待って、私に近づかないでほしいけど…何だか恐いかも…)
リリーシェは「ヒェッ!」とおかしな声が出た。
だがユーリ様はさっきまでビームを繰り出していた超人ではなくいつものユーリ様に戻っていた。
リリーシェはまだ防御の体制だったと気づき急いで術を解く。
いきなり力を止めたせいか車がエンストを起こしたみたいにガクンと身体が前に押し出されそうになった。
ユーリがそれを受け止めてくれる。
「リリーシェ?」
その手は大きくて温かい。
(ああ~恐かった。どうしようかと思ったらさすがですユーリ様)
「あっ、大丈夫です。反動でつい…すみません」
リリーシェは思った以上に身体が強張っていることに気づいて焦り急いでユーリから少し離れて姿勢を正した。
「ありがとうございます。ユーリ様が来て下さって助かりました」
「良かった。だから言ったんだ。離れるなって…」
ユーリ様は眉をひそめ唇を尖らせたが、そんな顔にさえ(ユーリ様ってやっぱりすごいんですね。私尊敬します)って見とれてしまう。
じっと見とれていたせいかユーリの耳が赤くなって顔を反らされ男たちに目を向けた。
「まあいい、こいつら見たところビレリアン商会のやつらのようだな」
リリーシェも倒れた男たちを見る。
「それって…」
「きっとリリーシェの加工の技術に目がくらんだに違いない。オステリア工房に独り占めされる前に君を連れ去ろうとしたんだろう。だが、リリーシェはその事をその女に話したのか?」
ユーリ様が指さしたのはもちろん倒れているアンナだ。
「いえ、彼女はそんな事は知らないはずです。でも、この人達仲間みたいでしたし…」
「詳しい事は調べてみる。すぐにわかるだろうが…リリーシェ、君は俺と一緒に来た方がいい。事情は工房に知らせるようにする。これから宮殿に行ってくれ」
「でも、私は俗人ですよ。あなたとは違います!」
「いや、君はきっと竜人の力を持っていると思う。さっきのあの力はとても力のある俗人レベルじゃない。多分リリーシェは竜人として覚醒を始めているんじゃないかと思う。そうなれば竜力が暴走するかもしれない。しばらく竜人のいる所にいた方がいい」
「でも、私が竜人な訳がありませんよ。だって…」
「まあ、そのことはこれからとして。でも、今は工房に帰らない方がいい。そう思わないか?」
「まあ、そうかもしれませんが…でも」
「俺はこれでも権力行使できる立場なんだが…いやなら無理やりにでも連れて行くけど」
「わかりましたよ~。でも、なるべく早く帰してくださいよ。私、もう貴族なんてこりごりなんですから」
「心配ない。リスロート帝国に貴族制度はない。知ってるはずだ」
ユーリはリリーシェをぱっと抱き上げた。
「ちょ、何するんです。歩けますから、下ろして下さいよ」
「いいから、かなり力を使ったはずだ。今は俺に任せるんだ。心配ない。表に馬車を待たせてある」
「え~?それってやっぱり権力行使ですよぉぉぉぉ」
リリーシェの声は夜の闇に消えて行く。
そう言いながらもリリーシェは少しほっとしている自分に気づいていた。
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