第10話 アリーネの本性


  ~ここは王宮のリオンの部屋~


 リオンは王からそう言われてしょんぼり部屋に帰って来た。


 アリーナがすぐに様子がおかしいと気づく。


 「リオン様どうかされました?」


 「アリーネ頼む。リリーシェを連れ戻すのを手伝ってくれ」


 「どうして?お姉さまは自分から勝手に出て行ったんですよ。それを今さら。いやですわ」


 「父が‥いや、国王からの勅命なんだ。リリーシェは聖女だ。この国にとってとても重要な存在で…そして王族の子を成してもらわねばならない」


 「まっ!殿下。それって、もしかして殿下とお姉さまが…うぐぅ…」


 アリーネは声を詰まらせる。


 唇を噛みしめ眦には薄っすらと涙が滲む。



 リオンはたまらないようにアリーネを抱き寄せる。


 「アリーネ泣かないで。俺の番。君が悲しむところを見たくはない。とにかくリリーシェを連れ戻さなければその後の事は兄上とも相談するつもりだ。俺には番を悲しませるようなことは死んでも出来そうにない。だからリリーシェは兄の側妃にでもしてもらえないか頼んでみる」


 「…でも、お兄さまの妃はオビエン国の姫です。無理ですよ」


 オビエン国はリスロート帝国の反対側にある国でこれまで凶作のたびに、たくさんの援助をしてもらっている大恩のある国だ。


 「いや…では父に」


 「無理ですよぉ。リオンさまぁ~」


 アリーネは口をとがらせる。


 「いや、絶対何とかする。だからアリーネ。大丈夫だから…そうだ。兄たちにはまだ子が出来ていない。側妃を迎えるにはいいチャンスかもしれない。ああ、きっとうまく行く。だから」


 「リオンさまぁ。じゃあ、まず王都から捜索しましょう。頑張って下さい」


 「ああ、アリーネはやっぱり物分かりがいいな。さすがは俺の番だ」


 リオンは嬉しそうにアリーネを見つめる。


 「そうだ。リオン様。今日もアリーネの作った特製ドリンク飲んでくださいね。リオン様すごくお疲れモードだから今日は特別にはちみつたっぷり入れちゃいましたよ」


 アリーネは毒々しい色の液体をリオンの口に近づける。


 「ああ、ありがとう。これを飲むとぐっと力が沸き上がるみたいなんだ。アリーネは優しいね」


 ごくごくその液体を飲み干すとリオンは欲が湧き起こりアリーネを抱き寄せ唇を貪った。



 アリーネは口づけされながら思っていた。


 (これって毎日かかせないのよね。リオンに番と勘違いさせるための薬は『番騙し』と言う。はぁ、早く結婚できないかしら。それなのにお姉さま。やっとこれで安心を思ったのにまた私の邪魔をするつもり?もう今度こそ何とかしなきゃ…)


 アリーネは姉の動向を見張らせていた。


 そしていち早く今はリスロート帝国にいる事も知っていた。


 それと言うのもアリーネには母親を通じて知り合いがたくさんいたからだ。



 そもそもアリーネの母ナージャの父。アリーネの祖父はリスロート帝国で手広く商売をしていた。


 外国の商品を買い付けリスロート帝国で売りさばく商売で大金持ちになる。


 だが、祖父は賭け事や女遊びに呆けて一気に借金まみれになり母の両親は自殺したのだが、商会は人手に渡り、母のナージャは新たに名前の変わったビレリアン商会のエド・ビレリアンに囲われることになった。


 エドはかなり強欲な男で次々に女を変えて行き母は追い出され流れ流れてリスロート帝国からピュアリータ国に流れ着いたのだった。


 そしてケルヴェス男爵と知り合い愛人関係になりアリーネが生まれた。


 だが、ケルヴェス男爵には妻がいて子供もいる。実際いつ捨てられるかもわからないと思ったのだろう。


 母はずっと男にひどい目にあって来た。


 だから男は利用する生き物だと思っているらしく、いつもあちこちに男がいて何かあれば助けてほしいと話をしていた。


 おまけにエドと偶然再会してまた時々関係を持ってもいる。


 だからアリーネが頼めばあちこちに情報を得られる人がいるということだ。


 リオンに飲ませている番騙しの薬も母に頼んで手に入れてもらったものだ。


 こんな母親の娘なのだ。


 アリーネがこんなに冷めているのも無理はない。


 早速、母のナージャに頼んでリリーシェの事を調べてほしいと頼んだ。


 母はリオン殿下との結婚を切望している。どんな事でもしてくれるはずよ。そう、どんな事でも。


 

 翌日アリーネはリオンに言った。


 「リオン殿下、母にも頼んでおきましたからきっとお姉さまはすぐに見つかります。安心して下さい」


 「そうか。君の母上はあちこちに顔が広いと聞いているが…」


 「はい、元はリスロート帝国で手広く商会をしていた家ですから」


 「そうか、商売人ならあちこちの情報を得ることが出来るな」


 「はい、お姉さまはすぐに見つかりますよ」


 「ああ、アリーネはさすがだな。やっぱり俺の番は頼りになる」


 リオンはやっと安心したといからせた肩をほっと下ろした。


 強張っていた身体から力が抜けてアリーネをぎゅっと抱きしめた。


 「大丈夫ですよ。リオン殿下」


 アリーネが耳元で甘くささやいた。 


(次にリオンが会うのはもう動かなくなったお姉さまだと思いますけど…うふっ)そんな事を思いながら…




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る