第3話 お世話になりました
そうは言っても一応神殿長には挨拶くらいはした方がいいと数枚の着替えや当座に必要なものを入れた大きなカバンを持つと神殿長の執務室を訪れた。
神殿長のオルクは忙しいのか執務机に向かっていた。
「神殿長。お忙しい所申し訳ありませんがお話があります」
「リリーシェ、どうした。やけに早いじゃないか。今日はリオン殿下の誕生祝いのはずだろう?」
オルクは顔をしかめた。
(思えば神殿長はリリーシェに親身な人だった。確かにあちこち連れ回されて大変だったがいつもリリーシェの体調を気遣い食べ物や困ったことはないかと気を配ってくれた。
それを思うと勝手を言う自分が悪いようにも思えた。
でも、ここに残ればアリーネのウソがばれて自分がまた婚約者に戻されるかもしれない。そんな事はごめんだ。
あんな男と結婚するなんて死んでも嫌だ。と言うのが今の気持ちだった。
男なんて信じられない。前世の小坂未来の時にも手ひどい裏切りにあった。リオン殿下も信じれるような男ではない。
ならば自分はひとりで生きて行く方がずっといい。
この国の人は番なんているはずもない絵空事なのにみんな番と聞いただけですべてが丸く収まると思っている。
だって番なんているはずがないのに)
さすがに言いにくいと思ったがいずれ分かる事と気持ちを切り替える。
「はい、ですが殿下から婚約を解消したいと言われましたので謹んでお受けしました」
「どういうことだ?そんな話は聞いていないぞ?」
無理もない。リオン殿下は国王や王妃が会場に現れる前にそれをやってのけたのだから。
「ですが、リオン殿下には番がいるとおっしゃいましたので私は必要ないかと思います。婚約解消を受けるかわりに私は自由にさせていただくという条件を受けて頂いたので私は今日限りでここをやめさせていただきます。神殿長にはいろいろお世話になりありがとうございました。では、失礼します」
神殿長が慌てて椅子から立ち上がった。
「いや、そんな急に困る!いや、これからもリリーシェ君の力が必要なんだ。頼む。そんな事を言わずこれからも一緒にこの国を盛り立てて「私に出来る事はすべてやって来ましたよね。もう自由になりたいんです。では」だが…いや、そんな事を言って…待ってくれ!おい、誰かリリーシェを止めろ!」
神殿長が声を荒げる。
リリーシェは急いで廊下に出る。
そこに神官たちが走って来てリリーシェの行く手を塞ぐ。
リリーシェが手をかざすと周りがほのかに淡い光に包まれる。
誰かが手を出しても決してリリーシェに触れることは出来ない。
どうやらリリーシェには自分を守る防御のちからもあるらしい。
「これは…」
「聖女様のお力…」
「神殿長!誰もリリーシェ様を止めることなど無理です!」
「リリーシェ…待て」
神官たちも神殿長までもが口々にそんな言葉を囁きながらも驚愕の表情でリリーシェが去って行くのを見ている。
リリーシェはそんな彼らに振り向くこともなく神殿を後にした。
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