第2話 うそじゃないよね?


 リリーシェはすぐに王宮から立ち去った。


 (何かの冗談?いや、これは現実だ。思ってもいなかった婚約破棄。いや、薄々感づいてはいたのだがまさかこんなにうまく事が運ぶとは…まだ、信じれない)


 神殿に帰るまでの道すがらほっぺたをつねったり何度も嘘じゃないわよねと独り言を言いながら帰って来た。


 ちなみに王宮から神殿には歩いてでも行ける距離だった。



 思えばリリーシェの母マリアンが5年前に亡くなった後、父のロイドはすぐに愛人だった平民の義理母のナージャと1歳下の異母妹になるアリーネを家に入れた。


 母を亡くした悲しみに暮れていたリリーシェの事など気にもならないかのようにあっという間に3人は仲良し家族になっていた。


 そうなのだ。父はとうの昔に母を裏切っていたのだ。


 それからというものリリーシェはいつも蚊帳の外に置かれた。


 学園に通っていたがすぐにアリーネも学園に入って来た。


 まさかと思ったが現実だった。


 アリーネは図々しく平民の暮らしをしてきたせいか誰にでも馴れ馴れしくした。


 それにリリーシェのものを欲しがった。


 リリーシェが困っていると父は言った。


 「いいかリリーシェ。アリーネは妹なんだ。それに今までお前は男爵令嬢としていい暮らしをして来た。だが、アリーネは違う。いつも質素な暮らしだったんだ。少しくらいアリーネがわがままを言ったからといってそれがどうした?お前は可愛い妹に快く譲ってやるのが筋というものだろう?」


 リリーシェはその後の言葉が言えなくなった。


 ドレスだってそんなに持っているわけでもない。靴やアクセサリーもそうだ。でも、アリーネが欲しいと言えば渡すしかなかった。


 そうしなければアリーネが父に意地悪されたと告げ口するから。


 元々男爵令嬢などそんなにたくさんのものを持っているわけではない。


 おかげでリリーシェの私物はほとんどなくなった。


 そんなアリーネと一緒にいるのが嫌になり3年になる前にリスロート帝国に留学を申し出た。


 幸いリリーシェは成績も優秀ですぐに1年間の留学許可が下りた。もちろん国の推薦なので学費なども国が面倒を見てくれる。


 父もそのことには大喜びで留学に賛成してくれリリーシェはピュアリータ国を後にした。



 そしてリスロート帝国で1年間勉強に打ち込んだ。


 だが、もう少しで卒業と言うところではやり病にかかったらしく死にそうになった。


 その時日本人の小坂未来こさかみらいという女性が転生してリリーシェの中に入ってしまった。


 小坂未来はジュエリーデザインの学校を卒業して宝石店に就職したばかりの夢見る宝石デザイナーだったが、仕事帰りに酔っ払い運転の車に突っ込まれてあえなく死んでしまったらしい。


 そのせいで無事卒業してピュアリータ国に帰って来たものの生活習慣や考え方について行けなかった。


 おまけに凄い力があると分かってあちこちに連れ回され気づくと婚約までさせられていた。


 3年間はあっという間の出来事のようだった。


 その間アリーネはリリーシェの婚約者を欲しがった。でもこればかりはどうすることも出来ない。


 でも、そうでもなかったらしい。アリーネはちゃっかりリオンを手に入れたのだから。


 胸の奥がズキンと疼いた。



 でも、そんな煩わしいことからも今日限りで解放される。


 そう思うとリリーシェはうきうきした気分で自分の部屋で荷物をまとめた。


 気づけばもうすでに月が出て夜の帳とばりは降りている。


 焦って出て行くこともないかも知れないが、いつ引き留められるかもわからないこの状況では今すぐ出て行くのが一番だと思った。


 (だってやっと自由になれるんだから)


 幸い神殿で働くようになってからは謝礼と称したお金を頂くことになってしばらくの生活に困ることもない。


 一人暮らしをしていた未来にしてみればいつかチャンスが来たらと思っていたことが幸いした。


 だって一人暮らしには何の不安もないんだもの。


 家から持って来ていた簡素なワンピースに着替える。あまりに簡素で平民とほとんど変わらないくらいだ。


 赤茶色の髪は後ろで一つに束ね着ていた礼装の服はきれいに畳んで置いた。


 さてとそろそろと思ったがさすがに黙って出て行くわけにもいかない。


 リリーシェは神殿長の所に挨拶だけして行こうと荷物を持った。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る