第19話:炎賦
芸術都市付近では機械軍団と芸術都市自衛軍団の戦いが激化していた!
「おらあ!」ゴッ!
どさっ
「よし!これで十人目……」
ニュルッ ピト
「うわあああ!」
「クソ!あいつも捕まったか!」
「符術師はまだここに来ねえのか!?」
「皆さん!助けに来ましたよ!」
「おう!おそかったじゃ……」
青年の目には涙が浮かんでいる。
「まさかお前口が……」
「あ……あっ 符術生成!『
「手も操られてる!逃げろお!」
「クソ誰が敵で誰が味方かわかんねえ!」
ブオッ!
「うわっ」
「不味いぞ……空中戦は殆どこちらが制したと言って良いが、気絶させたと思っていた改造人間や壊した筈の機械からあのクソの触手みてえなのが出てきやがる!ここにきて戦況が読めなくなってきやがった……!」
「おーい皆……こっちへおいでー……。」
「あの声は!」
「悠久派閥最高戦力のエテルノ!」
「あっ あっ 待ってください……!」
二人は走り出す。ほぼ完全に体を操られた青年もそれを追う。
「エテルノさん!何か策が……」
ぼすんっ
「へっ?」
「エテルノ!?」
ぼすんっ
「おい何だこりゃ!?」
「あっ あっ 待っ」
ぼすんっ
「ふふふ皆落ちたねー……。俺特製の罠に……。」
「待ってくれよ!オレは味方だぜ!」
「オデも!」 「自、自分もです!」
「「いやお前は違うだろ!」」
「あ!と、とにかくオレ達をこの落とし穴から解放してくれよ!」
「あはは……ぶっちゃけ君達がどっちでも俺はいいんだー……。」
「まさかエテルノさんも……!?」
「あ!後ろ!」
エテルノの背後に武装した陸上用機械が迫る!
「ん……。君も落ちて……。」
バキュン! サッ どんっ ぼすんっ
エテルノは瞬時に弾丸を避け機械も罠に落とす!
ウイン……ウイーーーーーー……
「敵……でもない!?」
「いでででで!オデの足があ!」
「自分も痛いです!助けて欲しいです!」
「……?……!」ズキン!
罠に落ちた足にジワジワと痛みが込み上げてきた!
「この下には俺の作ったお人形さんがあるんだ……皆それに捻られ齧られ甚振られているみたいだね……。」
「分かってるなら助けてください〜!」
「嫌だよ……。これが俺がしたかった事だから……。皆の苦痛に歪む表情、ジワジワと込み上げてくる飢餓、絶望、怒り……!俺はその過程を逐一ゆっくり合法的そして永遠に……!
「……!」ぞあっ
(((間違いねえ……こいつ操られてねえ……自分の欲望以外には……!)))
ウイーーーージジッ ジジジッ
「機械も中々イイねえ……!よしもっと落とすぞお……!」
南西ではエテルノが敵味方問わず落としている為に街へ侵入しようとしている者は誰も現れなかった。
――南部最前線――
「南東、南西共に相手の侵入を許さず現在拮抗しています!」
「連絡ありがとうございます。となるとやはり今最も劣勢なのは……。」カチャカチャ
「ここでしょうね。ビル先生。」ブゥン バコッ!
バキッ バキッ バキッ
「もうじき最後の氷の罠も破壊されます!」
南部最前線では芸術都市の市民達はもちろん、ビル含む符術師の本隊そしてビムトーバスが戦っている。符術師達が張っていた氷の罠も続々と突破され始め彼らのいる所に改造人間や機械達もなだれ込んでくる。
「くっ……。」
「体内ナノマシン!再生をやめ左手のさらなる硬化を要求します!」
「ビムトーバス君正気ですか!?」
「一人の敵にかけてられる時間を少なくしないとこの量は捌ききれません!それに貴方こそ!学生の皆さんと同じ様に上にいるべきです!肉弾戦のプロフェッショナルではないでしょう!?」
「そういうわけにはいきません!近くで無いとこれを上手く活かせないのでね……!」
ビルが取り出したのは雷型の符術札だ。
「私は太腿に
バリバリハリバリ!
ジュウウウ…… どさっ どさっ バキャッ
ビルは右手で持った三枚の札を重ね合わせ強烈な電撃を放つ!辺り一列の敵は一掃できたがそれを踏み越えて第二陣が押し寄せてくる!
「まだ今のを二回打てます……!」
「成程。私達で時間を稼げばいいということですね!」
ウオオオオ!
「うおお!負けられるかあああ!」
「俺達の街を守るんだっ!」
(今のビル先生の大技で士気は盛り返せましたが依然として劣勢……。頼みますよ……!皆さん……!)
――西園寺の大部屋――
「死ねえ西園寺!」ばっ
ラーヴァは勢い良く切りかかる。
「ふんっ」
西園寺は軽々とそれを避け、その下の足で壁を登っていく。
「ふぅ……ざっと三十か。」
そしてその間上側についている足でうなじ付近から生えてくる神経を採取し集めていた。
「放たないのか?」
「今ここで撃ってもすぐに凍らされて終わりだろう?」
「符術生成!『
フリジットは左手に氷の義手を作ると共に右手にも氷を纏う。
(神経対策か……いやらしいな。今回一番警戒すべきはフリジット……お前だ。)
「くそっ遠隔で脳を加熱するのは効いてないか……!?」
フリジットに注目していた西園寺に遠隔で攻撃していたラーヴァだが効果は今一つのようだ。
「少し頭の働きが鈍くなるかもしれないが、お前の一千万程の熱では俺達竜の脳を溶かし切る事は出来ないぞ?」
「クソがよ……!」
「ラーヴァ君!近接で畳み掛けよう!」
「……はい!」
「私もいくよ!」
三人は壁に張り付く西園寺へ向かう。
「……そろそろか。」
(((何か来る……!)))
「『空中回転』。」
バッ ズギュルルル!
取り囲まれた所で西園寺は壁から飛び立ち正中線を回転軸として時計回りで高速回転する。その際集めていた神経をやたらめったらに撒き散らす。
(熱探知じゃなくなってる!)
「符術解放!『
フリジットは目に付く神経を低温高圧で液化した空気を発射し凍らしていく。
「あまりクレバーな選択ではないな。」
西園寺は部屋中をグルグルと飛び回り神経を撒き散らしていく。あちこちに散布されている以上一点集中の液体ビームではその全てを凍らせることは到底できない。
「くっ」
ドシュウッ!
そして西園寺は右手を札を持つのに使っているフリジットに口を閉じた状態で襲い掛かる!
「先輩!」 「大丈夫だ!」
サッと避けるフリジットだが西園寺も壁にぶつかる前に方向転換をしフリジットが動く以上のスピードで向かっていく。フリジットは効果の終わった札をその場に置く。
「それなら……!」 「はあっ!」
ギャシィン!
フリジットとラーヴァはそれぞれ氷の義手と剣を使ってデスロールを繰り出す西園寺に真正面から激突した。
ぐぐ ぐぐ……
(搦め手だけかと思ったら意外と力も強い……!)
(回転で氷の義手が削り取られていく……!)
「加勢するよ!」ぴょーん
「メグメグさん!横からは駄目だ!」
「えっ!?ぎゃっ!」バチーン!
メグメグは高くジャンプし西園寺を上から狙う。しかしその回転の激しさに弾き飛ばされてしまった。
「ふん……。」
ニュルッ
「くっ 近くにいると神経がこちらへ向かってくるぞ!」
「これ以上は無意味か……!」
ばっ!
二人はそれぞれ左右に散らばり西園寺から逃れた。
「くう……」
ニュプッ
「あっ!」
ここにきて先程撒かれた神経が効いてきた。地面に落ちかけていた神経に右に逃れたラーヴァの足が突っ込む形になってしまったのだ。
「先輩!」
「今助けに行く!」
「出来ないぞ?」バシュッ!
部屋を回って帰ってきた西園寺がフリジットに向かう。空中を浮遊する能力ではないのでもう殆ど地面についている。しかし着地するやいなや頭が上下どちらに向いていても足が生えているので再び地面を蹴り上げて回転を維持する。
「うおおっ」ばっ
「むっ!?」
ドゴン!
フリジットに避けられた西園寺は壁に激突する!
グリグリグリグリ…… シュウウ……
彼は数メートル掘り進めるとそこで停止した。頭が壁にめり込んだ形になる。
「ぐう……。」
ピリ……リ……
「なっ」
バリバリバリ!
「があっ!?」
突っ込んだ壁には何か機材があったようで彼の口を通して全身に電気が流れる。
ニュルッ
「凍れ!」
パキッ
フリジットは神経を『
「大丈夫かラーヴァ君!」カチャカチャ
「右足に神経が……!」
「今私の『生命力離し』でラーヴァ君の足を体と実質的に分断したよ!これで神経が脊髄へ移動するのは防げるはず!」
「ありがとうメグメグさん!」
フリジットはラーヴァに侵入した西園寺の神経を外すのに夢中になっている。
ぱらぱらぱら……
「く……まさかエアコンに反逆されるとは……。」
「「!」」
西園寺が壁から口を抜きラーヴァ達をを睨みつける。しかし彼は突っ込んでは来なかった。近くの壁へ張り付くと再び首から神経を掻き出す。
「攻撃してこない……?」
「無理に動いて壁にぶつかるのを警戒してるみたいだな。」
「その女の手札がまだ分かりきっていないからな。横からなら弾き飛ばせるが正面でぶつかると何をしてくるか分からない……。」
(来るとしたら正面からじゃなくさっきみたいに神経をばら撒いてからって感じか……?)
「それにウォーミングアップはもう済んだ。」
「……は?あまり調子に乗るなよ戦闘素人のゲス野郎!」
「なんとでも言え。ふんっ!」
西園寺はうなじから大量の神経を一度に引き抜く。
「何だその量は!?」
「体が臨戦態勢に入った。神経の分泌量が増えたということだ。」
(神経の分泌量って何だよ!)
「もう俺はお前達に近付かない。『竜尾回転』……!」
ポポイ グルングルングルングルン!
上の足が尾へ飛ばした神経を尾はその回転運動に巻き込んでいく。
「よし!解除完了だぞ!」ちらっ
「!あれは……!?」
「『神経流動乱気流』!」
ブアッ!
西園寺はバラバラになった神経をラーヴァ達へ飛ばす!尻尾が生み出した気流により神経は奇怪な動きをしながら彼らに迫る!
「まじかよ……!」
「生命力離し解除!」
「二人共助かった!」
ラーヴァは立ち上がる。
「メグメグ……お前は下がっていろ。相性が良くない。」
「えっ」
「俺と先輩の二人で捌き切る!」
「符術解放!『
フリジットは三枚の札投げつけから術を発動し空気中の水分を凍らせて氷の破片をいくつも空中に発生させた。それに引っかかった神経は凍らせれるが、量が多すぎる為に止めきれない。
「符術解放!『
「二人で捌くって……ラーヴァ君もあの神経焼き切れないでしょ!?どうするの!?」
「焼けなくても出来ることはある!見てろ!」
ラーヴァは自分に向かってきた神経に腕を出す。
「煌牙竜殺爆炎掌!『遠隔』!」
キュウウウウン…… ボ ガ ー ン!
「空気があるところなら遠隔で爆破出来る!」
「おお!」
「いつまで捌き切れる?やってみろ!」
ニュルルルルルルッ
「先輩!」 「おう!」
「「オラアアアアア!!」」
ボガボガボガボガ! パキパキパキパキ!
二人は迫りくる神経の大群を一体も通さず凌ぎきった!
シュウウ……
「この札も力を果たしきったみたいだ。」
「何とかなった……!」
「私も遠隔攻撃持ってればな……。」
「では第二陣といくか。」
「「「……え?」」」
西園寺は既に第二の神経を尾で撹拌していた。
「そちらは札も体力も消耗が激しいようだが……どうする?」
「何……だと……?」
このままいけばジリ貧というやつだろう。それを察したフリジットは札を巻きつけた装備を脱ぎ始める。
ガチャガチャ……
「先輩!?何を!?」
「降参か?今更逃がしはしないが。」
「……ロケットアーム!」ボヒュン!
「くっ!?」
西園寺は上の腕で長い自身の頭部を守ろうとする。しかし彼の頭に攻撃は飛んでこなかった。
――フリジットはあろう事か部屋の出口の通路にロケットアームを放ったのだ!
「先輩……?先輩!?」
「フリジットさんまさか……」
「二人共!後は頼むぞ!」だっ!
呆然とする西園寺にフリジットが手無しの状態で向かってくる。
「……ハッ!喰らえ!」
「うおおおお!」
ヌプッ ヌプッ ヌプッ
フリジットの体に西園寺の神経が次々と入っていく。神経達は手もなく抵抗も出来ないフリジットの脊髄を目指してどんどん駆け上がっていく!
「先輩!神経は俺が爆発させて……」
「そうじゃない!頼む!」
ニュルルル
「うっ」
「あと少しで脊髄だな!どうしたそこの二人!このチャンスを逃すのか?逃げたらどうだ?」
「フリジットさんは攻撃から庇ってくれてる……なら私達がすべき事は!」
「先輩を盾にして奴に近づく!」
二人はフリジットの後をつける。
(盾になるのが狙いか……一番警戒してた奴が自己犠牲で脱落するのは幸運だな。……とはいえ考えたものだ。思えばこの男は他二人の様に生まれながらにして特別な能力を持っているわけではない……。義手と札さえ捨ててしまえばただのガタイのいい男……操る旨味が少ないな。)
「もう……少し……もう……。」
ずくっ!
「決まったな!」
「ここだぁ!」カチッ
「……は?」
(最後の必殺!符術装着!『
ブフォォォォ!!
「何!?」
パキパキパキパキ ピ シ !
フリジットは口の中に仕込んでいた符術を発動させ自らの口内を壊死させながら目の前の西園寺へ凍てつく呼気を放つ!
「あ゙……あ゙がが……メ゙グメ゙グさ……」
「フリジットさんごめん!吸い取り攻撃!乾眠!」
キュイイイン! どさっ
メグメグはフリジットが死ぬギリギリまで彼の生命力を吸い取った。
「盾が無くなったな!第三陣を……」
パッキーン……
(くっ 神経を出す所が凍結している!何も持って無いからといって接近を許しすぎた!)
「西園寺ぃぃぃぃぃ!!」
ラーヴァは飛び出す!
「殺す殺す殺す殺す!!」
ズバズバズバズバ! ボガボガボガボガ!!
「ぐっ ああっ!」
ラーヴァは斬撃と爆撃で西園寺の左目を潰す!
「はあっ!生命力離し!」
さらに生まれた死角からメグメグが飛び出し壁に張り付く西園寺の左前の下の足に飛びついた!
「ラーヴァ君!分離したよ!」
そしてメグメグは下の足を一つ機能停止させたのだ!
「よくやった!」ズバズバ!
「ぐうっ……やめろっ!『無移動回転』!」
グルルルッ!
「ちいっ!」 「うわわっ!」
何とか二人を離す西園寺。ラーヴァは倒れているフリジットを部屋の隅へ避難させてやった。
「どうする!もう神経攻撃は使えないぞ!」
「どうするもこうするも……もうこの体で貫くだけだ!」
西園寺は声を荒げる。今のでかなりダメージが入ったこともあり、死の恐怖を意識し始めている。
「ラーヴァ君!回復するよ!」
「ありがとうメグメグ!狐火で全力の一撃を喰らわす!少しでも生命力をくれ!」
「うん!」
両者態勢を整える。
「そっちが回転ならこっちも回転だ!いくぞ必殺!炎天旋回螺旋斬……狐火!!」
キュイイイン ボ ッ フ ァ ァ ァ ァ ! ! グ ル グ ル グ ル グ ル ! !
足の炎を紫の狐火に変え、ラーヴァは突っ込む!
「空中回転!改!!」
(尾の回転から始め……それを次第に全身に伝播させる!!)
グルグルグルグル ダンッ!ギ ュ ル ル ル ル ル ! !
西園寺も床を下の足で強く蹴り上げ空中で回転しながら突っ込む!
「うおおおおおおおお!!」
「
「ラーヴァ君ファイトおおおお!!」
ギ ャ リ リ リ リ リ リ ! !
互いの回転がぶつかり合う!ぶつかる瞬間頭が相手の回転にぶつからないようラーヴァが僅かに西園寺の下に回った!圧倒的巨体と栄養失調で成長が伸び悩んでいた十六の少年のぶつかり合い。それは傍から見ると虐殺の様に映った。だが実際は決してそうではない!
ギ ャ リ リ リ !
(まだ……燃やせる!生命の力を……燃やす!!燃やし尽くす!!)
(ぐ……まだ折れないのか……!?)
ギ ャ リ リ リ !
(勝つ勝つ勝つ勝つ!死んでも勝つ!!)
(不味い……足が一本踏ん張りがきかなかったのが……堪えて
ギ ャ イ イ イ ン ! !
ラーヴァが西園寺の回転を超え、彼を切り上げ上に仰け反らせた!ラーヴァの目の前に広がるのは最初に欠損を負った西園寺の胸だ!
「まずっ」
「死ねえ!」
ズ バ ズ バ ズ バ !
「ぐああああああ!!」
ラーヴァは胸の怪我から彼の体内に侵入し、臓器を切り裂いて回る!
「くっ 覚悟を決めろ!俺!!」ガブチッ
西園寺は自らの下の足の指を一本切り落とす!
「うおおおお!」ずぷっ
それをラーヴァのいる傷口に刺す!
「一体……どうなって……」
「うぐああああ!!」
「ラーヴァ君!?」
ラーヴァは西園寺の傷口断面から漏れ出た神経に捕まった!
「よし……お前の体と接続できたぞ……!」どばっ
「ぷはっ ぐああ……」
西園寺は自身の胸からラーヴァを取り出し反撃を食らう前に自らの神経を切断しラーヴァを地面に叩き落とした!
「うわあああ!!」
「ラーヴァ君!」
ダァン!
落ちるラーヴァをメグメグが下からキャッチする。
「いぎっ うううう……」
うなじから出るものと違い指の神経は無痛分離出来ない!彼は指を切り落とす痛みを再度味わう事になった!とはいえ致命傷は避けれた!
シュルルルル……
……かに思えた。
「まさかっ肝臓をやられたのか!?」
エネルギーを貯蓄し、産生する肝臓は竜にとって重要な臓器のようだ。彼は肝臓をラーヴァに削り取られた事ですっかり弱り果て竜の姿を維持できなくなった!
「くっ 政府に戦いを挑む前に……死ぬわけにはいかない!!」
西園寺は逃げ出す!下の足が人間体での手足に相当するらしく彼は左手が全く動かず、右手の指も先程千切った部分が無い!
「はぁ!?なんだありゃ!?」
しかしそれでも竜!恐るべき程逃げ足が速い!
「待て殺す!」
「行けえ!」
西園寺は何とかシワシワのフリジットを操作する!勿論力などありはしない!ラーヴァが軽く小突けばフリジットを払いのけることが出来るだろう!
「っ……お前……!」
しかしラーヴァはそれを躊躇ってしまった!そのまま彼はフリジットに押さえつけられた!
「私が追うね!」だっ
メグメグは西園寺の後を追う!
「遅い!逃げ切れる!」
(駄目だ不味い!メグメグの全力疾走より弱ったクソ地球人の方が速い!ここまできて……あいつを取り逃がしてしまう!!)
「何か……手は……。……ハッ!」
(出来るがどうか分からないがやってみるしかない!)
「燃焼の……解釈を広げろ!『
ボヒュッ!
ラーヴァは遠隔で炎を出した!
「!?なにこれ……体が熱い……!なんか凄く良いことが起きてる気がする!」
燃やしたのはメグメグの脂肪や糖などのエネルギー源だ!
「死ぬ気で走れえ!頼むぜメグメグぅ!!」
「……うん!」ばしゅっ!
「「!!」」
メグメグは今までにないスピードを得た!その足で西園寺を追う!
「はぁっ はぁっ このまま……逃げ」ガッ!
「へ?」
どさっ
「今度はなんだ!?二号の奴玩具かなんか置いてたのか!?」
足元に視線をやるとそこにはは機械の腕があった。
「あの時のロケットアーム……つくづく運が無い……!だがまだ……逃げ」
ざっ
「あ」
奥の部屋から通路へ漏れ出ていた光が見えなくなる。
「……逃さないよ!」
西園寺はメグメグに追いつかれた。
「頼む!お前等の惑星で実験するのはやめるから!」
すとんっ
「ひっ」
西園寺は足をメグメグの大きな尻で押さえつけられた。
「あっ……!今止めた!外の改造人間と機械今止めた!解除したぞ!戦う理由がなくなったな!これで!」
「……。」
(この旅は地球人を倒していく旅……こうなるのは覚悟してたはず……でも怖いな……。プレイや暴漢を止めるのに生命力吸収を使った事はあるけれど……人……殺すのは初めてだな……。)
「なんか言え!」
(ギボーや『ルゲイッソヨ』達とおんなじになるんだ……私。いや……ギボーの言う通り、元から私達皆悪者か……。)
「俺を!殺さないメリットを!発表する!」
ちゅっ
「ふぇっ?」
メグメグは西園寺と唇を交わした。
ズジュウウウウウウ!!
「あっ♡あっ♡あ゙っ ふあ゙っ……あ……♡」
する……ぽす……
西園寺は生命力を急速に吸い取られ、干からびシワシワの肌になり、息絶えた。
「ん……ぷはぁ……。」
二人の唇からでた
「ごめんなさい。……私達の目的の為に……逝って下さい。」
メグメグは二人の下へ戻った。
「メグメグ……!先輩の暴走が止まったぜ!倒せたんだな!西園寺を!」
「うん。……あ!そうだ!生命力補給するね。」ポアアア……
「ああ、ありがとう!でも先輩の回復を優先してほしい。」
「本当にフリジットさん想いだね。」
「後……生命力が回復するとはいえ疲れるものは疲れる……。ヘンプに帰ったらちょっと寝かせてくれ。」
「うん!私も添い寝していい?」
「……良いよ。お触り厳禁な!」
「うん!守るよ。それから最後に……。」
「?」
「私、尊敬できる仲間になった?」
「……ああ!お前が居ないと何回死んでいたか分からない……とても心強い戦力だ!」
「……それは信頼であって尊敬じゃなくない……?」
「信頼は尊敬の第一歩だろ!」
「……それもそっか!」
――芸術都市付近――
「あれ……?機械の子動かなくなっちゃった……。」
「何だ!?」 「俺達助かったのか!?」 「自分の支配も解けました!」
「もっと爆発させるぜ!」
「「「やめろ馬鹿ー!」」」ボゴッ!
「グエーッ!!」
「……ふふ。アナタにしては遅かったじゃないですか……全く!」
「ビル先生これって……。」
「勝ちですよ!彼ら三人の英雄達と……私達防衛軍の!」
ウオオオオオオ!
「何とか……なりましたね……!」
「ええ……」どさっ
「「「ビル先生ーっ!?」」」
「ビル先生!?……ええと。私が仕切ってしまっても大丈夫なんでしょうか……。」
「頼むぜ!ビムトーバスさん!」
「皆さん!我々の勝利です!近くの元改造人間の方を抱えて、撤退してください!」
ウオオオオオオ!!
辺り一帯にはさらなる歓声が上がる!
「……ま 何だかんだいってこの一体感こそが……芸術の本懐だよな。」
「「「お前が芸術を語るなボケー!」」」ボゴッ!!
「良い一体感だホゲェーッ!!」
AD198年6月2日
流回竜 西園寺 死亡
犠牲者数 15,871人
――二日後――
「う……うう〜ん……。」
(暖かくて気持ちいい……。)
ぎゅっ もみもみ……
(……あれ?俺、何かに寄りかかってる……?何か……凄くやわこいものに……。)
「ほら、見える?ラーヴァ君私の事離してくれないの♡」
「お母さんの事を思い出してたりするのかな?」
(うげっ これメグメグかよ……!)
「いや、
「おはよーっ!ございます!二人共!」がばっ
ラーヴァはメグメグの胸から手を離し大げさにベッドの上で跳び、起きたことをアピールする。
「おお!起きたかラーヴァ君!」
「おはよう!よく寝られた?」
「まあな!うん!あ!あれから何日位経ったんですか!?先輩!」
「二日だぞ!」
「いつぐらいにここを発ちますか!?今すぐですか!?」
「今日はもう夜だからな!明日の朝に発とう!」
「分かりました!じゃあご飯食べたらまた寝ますね!あっ メグメグは他のベッドで寝ろよ!」
「え〜なんで!?添い寝オッケー何じゃないの!?」
「お触り厳禁破っただろ!」
「そっちからもみもみしてきたのに〜!」
「だから駄目何だよ!退場!」
「理不尽だよ〜!」
「……ラーヴァ君本当に寝ちゃうのか?外で連日花火大会やってるぞ?」
「えっ 花火大会!?」
「あっそうそう花火大会!そういえば市長のご厚意で私ドレス借りられる事になったんだ!ラーヴァ君に見てって欲しいな〜?」
「ふぅん ああ そう……。ところで先輩は?」
「勿論行くぞ!」
「あっ じゃあ行きます行きます!もう寝飽きました!一晩中一緒に回りましょう!」
「うそっ……態度の差露骨すぎ……!?」
三人は着替えだす。
「じゃじゃーん!」
メグメグは桃色のドレスに身を包んでいる。
「派手派手で祭りにピッタリだな!」 「でしょ!」
「割とキレイだな……。」 「割とは余計!」
「あれ、他の人見てると男性用の特別な衣装もあるのか?」
「みだいだな!ラーヴァ君は借りていくか?」
「ああいや大丈夫です。動きやすい服装が一番だと思ってるので。」
「成程な!花火は街の中心が一番良く見えるらしいからそこに行こう!」
三人は街へ繰り出した。
がやがや……
「う〜ん人が多いな……。」
「ラーヴァ君手離さないでね!」
「お前も大概俺の事格下扱いしてるよな……。」
「いや、可愛がってるだけだよ!」
「それを言ってんだよ!……それにしても何でこんな人が……。」
「どうも街の人だけじゃなく、辺りの地域の人やラクダの人も集まって来てるみたいだぞ。」
「ここじゃ見づらいですかね……。」
「あ!そうだ!ラーヴァ君が目を覚ましたことの報告も兼ねて市役所に向かったらどうかな!他のところより高い所にあるし、遠いけど花火も見られるんじゃないかな!」
「「それだ!」」
三人は市の役所に駆け込んだ。
「……という事なんで!良いでしょうか市長!」
「良いナリよ!ただこっちも会議してるけど気にしないで欲しいナリ!」
「ありがとう市長!……てか皆お祭りしてるのにもう働いてるんだ……凄い大変。」
「まあそういう仕事ナリからね!皆さんは我が芸術都市一瞬派閥の名物を楽しんでいくナリよ!」
「頭が上がりませんほんと……あ!ラーヴァ君ほら、挨拶!」
「ああ!」
ラーヴァはフリジットと窓際にいたが市長の下へ移動した。
「この街にはお世話になったな。明日には出ていく。今までありがとう市長!」
「寧ろお世話になったのはこっちナリよ!それにしてもそっちもハードスケジュールナリね。目覚めた次の日から新たな地とは……。」
「まだ苦しめられている人達が大勢いるんでな。全ての地球人の脅威を取り除くまで俺達の戦いは終わらない!」
「やる気に満ち溢れているナリね……。まあ我々芸術都市ヘンプは総力を挙げて君達をサポートするナリよ!」
「そうか。ありがとうな。」
「そろそろ花火の時間だぞ〜!」
「おっ じゃあな!」
「あっ 最後にフリジットに!」
「?先輩に何だ?」
「疑ってすまなかったと伝えて欲しいナリ!」
「……何のことか知らないが先輩を疑っていたのかお前?」
「ぴ、ぴぎぃ!」
「まあ良い。伝えておくよ。」
「ありがとうナリ!」
「カモンカモン!もう始まってるよラーヴァ君!」
「ああ!」
ラーヴァはフリジットとメグメグの間に挟まる。
ドーン ドーン ……
夜空には色とりどりの花火が打ち上がっている。
「うおおっ!」 「わぁ……!」 「キレイだね……!」
「ボンバさんの爆発癖も昇華すれば芸術になるんだな。」
「……今打ち上がってるのはボンバさんはボンバさんでも戦場にいたオスクリタ・ボンバさんのじゃなくて、そのお兄さんのルーチェ・ボンバさんが作った花火らしいよ。」
「え?じゃああの人は?」
「半殺しにされて今病院にいるらしいぞ……。」
「まじか……。最高戦力とか言われてたのも戦場に厄介払いする為だったりしたのかな……?」
「まあでもこれからお兄さん同様花火職人さんになるかも分からないね!生きてれば色々あるわけだし!」
「だと良いな……。」
「あっ そういえば先輩、市長が《疑ってごめんなさい》って言ってましたよ。」
「……!そうか!少しだけど、これで皆も報われるな!」
フリジットはラーヴァに笑みを見せる。フリジットにしては珍しい控えめな笑みだがラーヴァはそんな表情もまた愛おしく思うのであった。
ヒュルルルル……
「おっ!」 「ラストか!」 「楽しみ〜!」
ド ッ カ ー ン !
「えっ!?」 「どういう事だ!?」 「何あれ!?」
大空には特大の、ビークの顔の花火が上がった。
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