東方諸島編

第20話:ラーヴァ・ジェノサイドの不運な一日

早朝。ラーヴァ達は宿から港へ向かう。

「ふああ〜。二人共おはよう!」

「おはようござい……おはよう!先輩!」

「おはよ〜!」

「二人は結局一晩中祭りを回ってたのか?」

「まあはい。」 「うん!」

「おれだけ寝ちゃってごめんだぞ!」

「あんな夜中に起きた俺が悪いだけだから気にしないで下さい!」

「私は基本睡眠いらないから!」

 ((そうなんだ……。))

「まあ、どんどん行くか!」

 ざっざっざっ

「あれがおれ達の乗る船だ!」

「うおお〜!」

 三人の前には巨大な金属の船だ。既に中では多くの船員達が手を振って待っている。またインフェレッドや市長など多くの人が三人が来るのを待っていたようだ。

「皆さん本当に今回はありがとうございました!この後皆さんの銅像を街の広場に建てさせてもらいます!」

「おお!ありがとう!」

「いつの間に写真撮ったんだろ……?」

「少女の像を建て直すわけでは無いんですね。」

「それは別で建てます!また人類最高戦力であり、カーマイン・ビーク様のお仲間であるオトノコ・フリジット様は黄金のカーマイン・ビーク像の隣に建てさせてもらいます!」

「おお!って黄金!?」

「ランク付け露骨じゃない!?」

「昨日の花火といいこの街ビークさん推しすぎじゃないか!?」

「「「当たり前です!!」」」

 多くの市民たちが一斉に詰め寄ってきた。

「ビークさんはかつてこの街で未曾有の大洪水があった時我々を助けてくれたのです!」

「我々はなんと勇敢な少女だろうと感銘を受けました……!」

「しかし!彼の服が流され、我々の前にその裸体を晒していただいた際、我々はさらなる啓示を受けたのです!」

《え……何?服が……?わああああ!!見ないでええええ!!》

「少女の様に可愛らしく、そしてあどけないご尊顔の下に広がっていたのは……。」

「圧倒的筋肉!そして圧倒的オスの象徴!!」

「その場に居合わせた全員が思いました……。」

「「「神は貴方だ……と!!」」」

「ええ〜……。」

 市長はひたすらに腕を組み頭を縦に振っている。

 (この街の人間って皆こんな感じ何だな……。)

「勿論皆さんには多大なご恩があります!」

「しかしビーク様が一番!それは譲れません!」

「私達からは以上です!ありがとうございました!」

 市民たちは言いたいことを言い終えると後退していった。

「そういえばビークさん災害救助のエキスパートだったんでしたね……。」

「流石はリーダーだな!」

「男の娘に脳を焼かれちゃったか……それならしょうがないね。」

「市長として言い残す事は無いナリ!トリはインフェレッド君にお願いするナリよ!」

「はい、では……。」

「これから私は学術都市アルパカで学業に励んでいく……前に今までやってきた事の清算をしたいと思っています。ですからもし今後北方大陸に行き、皆さんが彼女に会ったに会ったとしても私の事は……」

「え!?嫌だよ!あんな惚気話のろけばなし聞かされたのに二人の仲を応援させてくれないの!?」

「えっ惚気話として語ったつもりは……。」

「いや途中凄い惚気てましたよ。……囚人になっていたとしても会えるだけで嬉しいんじゃないでしょうか?彼女の人柄を話を聞いた限り。」

「……そうでしょうか。」

「まあそこはインフェレッド君の名前を出してみないと分からないな!彼女の特徴を教えてくれないか?」

「話に出た通り黒髪で後ろをお団子にしています。……もしかしたらまだ秋桜コスモスの押し花を取っておいてるかもしれません。それから……そうだ一番大切な名前を言ってませんでしたね。尤も彼女は自分の名前を気に入ってはいませんでしたが。彼女の名前は『サクリ・タヌキルト』です。」

「オッケーありがとう!絶対見つけるからね!」

「彼女さんに掛ける言葉を考えといて下さいね!」

「はい!」

「よし!それじゃあ皆達者でな〜!」

ラーヴァ達は港にいる者達に手を振って見送られながら、出港した。この場での会話は無かったが砂上楽園へ来た使いの男やビル、学生達、そして戦闘には参加しなかったノノモフもそこにはいた。

フリジットは中央大陸が水平線の先に消えるまでずっと手を振り続けていた。

 ザザー……

「ふふっ 先輩、もう流石に見えてませんよ。」

「それもそうか!」

「私達ってこのまま北方大陸に行くの?」

「いや、その前に『東方諸島』に向かおうと思ってる!」

「東方諸島……『カーツァラッテ』君がいる所か……。」

「星守七成獣の他にそこにも地球人がいるんでしょうか?」

「ああ、恐らくな!と言っても全く情報が無いんだがな!」

「それってもしかして……。」

「ああ!ラーヴァ君の地元と同じ様に一度行った人間が一人も帰ってこない場所だ!地球人が来る前には世界一の漁獲量を誇る『ビニロン共和国』があったんだけどな!」

「「!」」

「今度の敵は……ジャニエルと同タイプってわけですね……!」

(閉鎖的な環境を利用するタイプ……絶対まともじゃない!)

「まだ確定じゃないけどな!どうも領海にいるだけで襲われるらしい!今メグメグさんが口にしたカーツァラッテ君とやらは海にいたり、干渉できるタイプなのか?」

「ううん。出来ないよ。あの子陸ヘビの聖獣だもの!」

「ならまあ九割方地球人だな!」

「そういやその星守七聖獣はまともなやつなのか?今の所馬の奴も含めて面汚しって感じの奴しかいないが。」

「うう……ごめんねラーヴァ君。彼は……私の知る限りでは大人しくて良い子だったけど……この一万年でおかしくなっちゃってるかも。私みたいに。」

「自覚症状あるのか……。」

「私達はあまり自分の能力は見せ合わないんだけど、彼、『今昔蛇こんじゃくだカーツァラッテ』君は生物の記憶に干渉する能力って自分で言ってたから気をつけてね!もしかしたら黒歴史とか暴かれちゃうかも……。」

「食らって一番まずいのはお前だな。なら。」

「……そうかもね。」

「情報交換はここまでとしておくか!当分は船上の生活を楽しもう!」

「はい!」 「お〜!」

「……具体的に何しますか?」

「……考えてなかったぞ!」

「まぁたまには何もせずゆっくりするのもいいんじゃない?」

「ちょっと待ったー!」

「「「!?」」」

 船員の一人が話しかけて来た。

「今船の上でする事無いって思ったでしょ!」

「はいまぁ……。」

「意外と有りますからね!何せこの船は最新鋭ですから!」

「本当!?案内してくれる?」

「はい!どうぞついてきて下さい!」

 三人は船員に案内され甲板から船内へ入った。途中操舵室が目に見えた。船長も操舵手も航海士もおらず無人であった。

「あれ……操舵手とかいないんだな!」

「最新鋭ですから!」

「人類の技術力って凄いな!」

「いや先輩も技術者側の人間でしょ!」

「戦いに使う物ばっかりでこういう産業への応用はそんなに考えて無かったからな〜……。」

「そういうものなんですね!」

「緊急時は人が操作するの?」

「はいまあそうですね!多分そんな状況きやしないんでしょうけど……。」

「操作したくてウズウズしてる?」

「いや別にそんな事は無いんですけど……あっここです!」 

「はああああ!!もう死ねやああああ!!」

「来た……キタキタキタキタ!!」

 怒号と歓喜の声が広がる空間。人々は壁に取り付けられた機械を張り付くように見ている。

「何ですかこれ……。」

「電気型符術を使用したリールマシンや自動遊球機です!」

「えっ!?そんなもの船に積んで大丈夫なのか!?」

「はい、規定時間を超えて遊んでいる船員には……。」ぽちっ

ビリビリビリ

「いぎゃあああ!」

「お仕置きできますので!」

「痛そ〜……。」

「勿論対人のギャンブルも有りますよ!是非とも遊んでいって下さいね!」

「自室へ案内お願いします。」

「ええ!?面白いのに〜……。」

「船用意したの誰ですかこれ!」

「……おれだぞ。」

「先輩!?意外とギャンブル好き……!?」

「いやラクダでな、実は船を頼んでおいたんだ。一番いいのを頼むって。そしたら……。」

「これが来たと……。」

「防御設備も最新鋭ですから!安心して下さい!」

「設備は良くても人が働いてくれるか凄い怪しいんですけど……。操舵室も無人だったし……。」

「まぁ頭ごなしに否定するのも良くないよ!遊んでみよっ!」

「そうだな!娯楽に飢えてたしな!」

「ええ先輩まで!?……じゃあ俺も付き添いで……。」

 三時間が経過した。

「あと一つ!あと一つ!!あとひ ああああああああ!!ゔぅ ああああああああ!!」

 ラーヴァはリールマシンに熱中していた。

「ズ レ る ! お か し い ! 」

「ラーヴァ君そろそろやめにして!」

「メグ……メグ……。」

 彼女の手には景品が抱えられている。

「お前勝ったのか!?くっ見下ろしやがって……俺は勝つ!これで勝つ!」

「もうフリジットさんがお昼になるって言ってるよ!」

「先輩が!?……うぅ……行くか……。」

「フンまだまだだな小僧。」

 隣で打っていた船員が煽りを入れてくる。

「うるさい!お前は何で勝てるんだよ!」

「ンマ〜俺はこの船に乗って長いからな。もうバネの強さを完璧に把握してんだ。闇雲に打つだけのお前にスロットはまだ早え!ママンのおっぱい吸ってな!」

「ゔゔゔ……!」

「ママンの代わりに私のおっぱい吸おうね……。」ぽすっ

「えっ」

「いらない!」

 船員は少年を抱き寄せる少女を見る。

 (ンマ〜じかよ!)

 彼は耳から顔、乳房……

 (上玉なんてレベルじゃねえぞ、オイッ!)

 尻、そして足へスキャンするかの様に目を動かし自分がいつもキープしている台を離れる。好みの女だった様だ。

「……おい狸?の嬢ちゃん。昼飯食ったら俺のとこ来なよ。今日中には勝てるようにしてやるぜ?」

「リールマシンは私の好みじゃないから……遠慮しておこうかな!ごめんね!そうだ!後で対人の方で一戦しない?」

 (対人ならラーヴァ君見張ってられるし……。)

「えぇ?そう?ンマ〜じゃあそうするわ。」

「次こそ勝つ〜!」

「駄目!ラーヴァ君どんだけ負けたの?言ってみてよ!」

「うぅぅ……。」

「……ちっ。」

 ラーヴァ達は食堂へ向かった。

「皆様、この中からお一つお選び下さい!」

 先程三人を遊戯室へ案内した男船員が話す。彼が手を傾けた先には四種の食品がある。中身は肉の缶詰、魚の缶詰、野菜の缶詰、そしてビスケットだ。

「当船では皆同じだけ支給される食事とは別に一つ追加で好きな物を食べられる制度が有るんですよ!」

「おお!どれも美味しそうだな!」

「先輩はどれにします?俺はビスケットにします!」

「おれは今日は魚の気分だな!メグメグさんは?」

「私は……お肉にしちゃおう!」

「皆様の席はあちら側になります!当船での食事を満喫してくださいね〜!」

「おう!」 「ありがとね!」 「ありがとうございます。」

 三人が席につくとあのリールマシン男がやってきた。

「よぉ〜す。お、あんなとこに居るじゃん。お〜いちょっと〜そこの小僧〜!」

「何だよ?」

「ンマ〜何ていうかさ、ちょおっとさあ賭け事してみない?」

「しない。じゃあな。」

「あ、またオレに負けるの怖い感じ?ボ ク ゥ?」

 ラーヴァの目の色が変わる。

「お前それ……俺に言ったのか?」

「え?ボクとしか言ってないでちゅよ?」

「……内容は何だ。」

「オレが負けたら三人にそれぞれオレのご飯一品ずつあげまちゅから、オレが勝ったら何かボクの私物をくれまちぇんか〜?」

「「「……!」」」

 辺りの空気が変わる。

「やめてください『クァンツェン』さん!」 「お前末期症状すぎんだろ!」 「いい加減にしろよ!」

クァンツェンと呼ばれる男は仲間から言葉の集中砲火を浴びる。……が、

「黙りな。自分の身が惜しいなら。」

「「「……っ!!」」」

彼は言葉一つで周りを黙らせた。 

「断ろうラーヴァ君!」

「先輩!……でもこれは先輩には関係ないものですし、少し俺にやらせてくれませんか?」

「ラーヴァ君……分かった。でも相手が何を仕込んでるか分からないぞ?」

「はい。……オイ!いいぞ乗ってやるその話!ただしお前が不正をしていないと思っているうちはな!お前が何か仕込んでると思ったらすぐに賭けをやめられる、それでいいな!?」

「同意だな?よしじゃあ始めるぜ。」

「この船にはよぉ『ファット』って奴が乗っている。太っていて鈍臭い奴な上に食い意地が張っている。符術師でな、今は船の中の符術の点検をしているが、後少ししたら間違いなくここに来るだろう。」

「太ってるって……。やめてやれよ……。」

「本人気にしてんのにな……。」

「今回の勝負は簡単。そいつがあの四品の中からどれを取るかを当てるだけだ。」

「それってお前がそいつを」

「オレがそいつに賄賂渡して選ぶ物指定してたら、勝負が成立しないってんだろ?」

「そうだ。」

「ンマ〜ガキの考える事はすぐわかる。そう言われると思ったぜ。」

「だから今回はお前らが先に、かつ一人一つずつで合わせて三つ選んで良い事にするぜ。」

「「「!」」」

「オレはお前らが選ばなかったお残りを選ぶって事だなあ〜。」

「馬鹿な……お前の選択が介在しない、しかも四分の一の勝負だぞ!?」

「そう言ってんだろ。オレはそれで良いんだよ。早く選びな。」

 三人はそれぞれ思索する。

 (船の上で怖いのはビタミンC不足による壊血病。基本の食材に野菜が含まれているとはいえ恐らく大柄の成人男性には十分な量ではない。さらに船員達によると本人は体型を気にしているらしい……ここから導き出される結論は……。)

「おれは野菜の缶詰を指定するぞ!」

「オーケー……はい次。」

(今食べてみて一番美味しかったのはやっぱり塩と胡椒の効いたお肉だったなあ……基本皆人間は肉が好きだし……!)

「私はお肉の缶詰めを指定するよ!」

「へへっ 当たってると良いな嬢ちゃん♡よし小僧ラストだ。」

「ところでお前負けたら飯どうするんだ?三品も取られたらまともに食うもん無いだろ。」

「ンマ〜オレの心配してくれてるの?ありがと〜!でもリール外しまくりのボクと違ってオレは景品のチョコレートが大量にあるから大丈夫だよ?」

「くそっ 聞くんじゃなかった!」

「てかはよいえ。あいつが来るまでにお前らが指定しきれなかったらこの勝負はナシな!お前は一生負け犬だ!」

(くそ……絶対一泡吹かせてやる……!とはいえ残り二つどう選んだものか……。……もし俺がお腹を空かして食堂に来たら、何が一番食べたいか……何が一番腹を満たせるか……。)

「穀物……ビスケットだ!」

「よし出揃ったな!じゃあオレは魚の缶詰めってわけだ!さてと怪しまれない為に手でも上げますかね。」

「オレの豪運見ててくれよな嬢ちゃん♡」

 男は手を上げた後左目をつぶりメグメグにウインクする。

「オイ!ウインクをやめろ!」

 ラーヴァは男に怒鳴る。

「ンマ〜自分の女に色目使われるのが不愉快かい?ボ  ク ?」

「違うそうじゃない!目で不正を行う可能性があるからだ!」

「どういう事何だラーヴァ君!?」

「目の動きは目を全て開ける、右目を閉じる、左目を閉じる、両目とも閉じるの四パターンが作れる!予め魚なら左目だけ閉じると伝えておけば喋らなくとも動かなくとも相手に自分の選んだ物を伝えられる!だから俺は目を全て開けるか閉じるかしか許可しない!駄目ならこの話はここで終わりだ!」

「ンマ〜そうカッカすんなよ。はいはい両目閉じますよ〜。」

「なっ」

(閉じる方!?)

「あ、そうだ。どうせ喋るなとか後で言われるだろうから先に言いたいこと言っとくわ。お嬢さん。オレの名前は『サナタカ・クァンツェン』。クァンツェンの方は覚えなくて良いよ。どうせ同じ苗字になるから。」

「キモッ」

 ラーヴァは自分に向けられた物でも無い情欲に嫌悪感を掻き立てられた。

「はいじゃあこれ以降オレは動かないし喋りません!」

「おれもそうしておくぞ……。」

「先輩!?」

「ここまで来たら盗める情報はおれ達の顔色位しか無いだろう?おれの顔で見破られるわけにはいかないからな!おれも外部との情報を断つぞ!まぁファットさんがサナタカさんと繋がってるかは定かじゃないが!」

「私も割と顔に出ちゃうタイプだからそうしておくね……。頼むねラーヴァ君!」

 二人は目を閉じ耳に手を当てた。

「二人共……。」

 (俺も閉じるべきか?いやでもそれだとあいつが実は動いてても気付けない!俺は目を開けてないと駄目か!)

 静まり返る食堂。

 カツンカツン……

(来た!)

 食堂に新たに入ってきたのは肥満体型の男だ。

「ふぅ〜『ヤン』君ここ涼しいねぇ〜!」

「お前の符術のおかげだよファット。」

「ファットさんもお選び下さい!」

「うん〜。」

 ファットは遂に追加の一品コーナーに来た。

「『ニック』君今日の野菜どう?」

「いつも通りのザワークラウトだよ。」

「ふ〜ん。」

 男は野菜をスルーする。

 (ちっ……先輩は脱落か……!あいつは……。)

 「……。」

 (動いてないな!よし!)

「魚は〜……。」

 (不味いっ!)

「気分じゃないな〜。」

(よしっ!顔に出すな顔に出すな!後ちょっとだ!)

 「う〜ん……ねぇサナタカ君肉とビスケットどっちが良いと思う?」

 サナタカは約束通り喋らない。

(へっ 答えられないよなあ!仮に喋られたとしてもよお!)

「自分で決めろって事?う〜ん……。」

 男はビスケットに手を伸ばす。

(よしっ!勝ったあ!!)

「……やっぱこっち!」ぱしっ

「はっ?」

――男が取ったのは魚の缶詰めだった。

「な、何いいいい!?」

《勝負終了・敗者ラーヴァから賭物を没収します。》

「何の声だ!?」 「今敗北って……!?」

 「っ……ぐ……ぐわあああああ!!」

 ラーヴァの着ていた服を含む全ての所有物が謎の力により剥かれサーナイトの下へ渡る。

「っぷはぁ〜!いい演技だったぜ?ファット!」

「そうかい『ギャンブ』。」

「偽名!?やっぱりズルしてたのか!ノーカンだこんなの!」

「ンマ〜世間知らずのガキだこと。一度成立した物はそう簡単には無くせませ〜ん!特に、オレの血継呪術『同意を以て不条理をドラッグダウンマイフィールド』ではね!」

「くそっ返せ!俺の服!」

「これは返さなくていい?」ひらっ

「!!」

 ギャンブが手に持つのは先生がラーヴァに作ってくれたハンカチだ。

「嘘だ!服なんて要らないからそれだけでも返してくれ!」

「ヘヘっ ヤーだよッ!まぁお前の見苦しい物見てたくねえから、これ以外は返してやるよ。」

 ギャンブはポイとラーヴァの服を渡す。

「大事なこの布切れを返してほしきゃあ、自分から勝負を申し出るんだな!ただ半端な物じゃオレは勝負にゃ応じな……」

 ぱしっ

「あ!?」

 ラーヴァは服を着た後すぐに男からハンカチを強奪する。

「残念だったな!」

「坊や辞めるんだ!」

「へ?」

 ガタガタガタ……

 突如として船全体が揺れ出す。

「ラーヴァ君走っちゃ駄目!」

「何かデカい生物とぶつかったみたいだなあ?お前がハンカチを取った瞬間。」

「あわわっ」

「避けろ少年!」

「えっうわあ!」

 ゴツン! 

 ラーヴァは揺れで姿勢を崩した人々に追突され前にあったテーブルに顔をぶつける。

「あっ皿がっ」

 ヒュウウウ…… べチャチャッ!

「うげえ!」

 うずくまるラーヴァにテーブルに乗っていた皿が降りかかる。ラーヴァの体をクッションとした事で皿は割れなかったものの食材は皆ラーヴァに付着し、着直した服は早くも油汚れでいっぱいになってしまった。

「はぁ……はぁ……」

「ハンカチだけは守ったか。余程大切と見える。今ので分かったか?小僧。」

「何……がだ?」

「一度勝負を通して得たものは勝負以外では取り返せねえって事よ。それがオレの血継呪術。絶対なんだ。運命すらも捻じ曲げる。」

「お前……AEA反地球同盟の刺客か?それとも地球人の手先か!?」

「それどっちもおんなじだろ。別にどっちでもねえよ。」

「ただの一般害悪呪術師かよ!?」

「ああ、オレは地球人とは一切関係ないぜ。このオレに『一般』は余計だけどな?小僧。」

「あ、オレを殺そうなんて考えるなよ?この船と船員達、そしてお前の大切なハンカチちゃんが海の藻屑になるからな〜?」

「何い!?」

(既にこの船に乗っている人は全員勝負に負けた人達なのか!)

「操舵室に誰も居なかったのは……。」

 フリジットの発言にギャンブは答える。

「暗礁でもイカの怪物でもオレからこの船を奪う事は出来ねえ。目的地の方に船を向けときゃ後は自動よ。」

「俺がリールマシンで大負けしたのもお前の財産を奪えないからって事か……?」

「いやそれは単純にお前の運と実力の問題だ。」

「えっ」

「目的は私なの?ギャンブさん!」

「ンマ〜早速名前呼んでくれるのねお嬢さん。もうこんなダサ男よりオレの方が好きになってたり……?」

「質問に質問で返さないでよ!」

「ごめんごめん。今回の仕事はオレの手駒の船長が普通にオファーされたものでオレも普通に仕事するつもりだったぜ。」

「仕事してなかっただろ。」

「黙れ小僧。ただオレはお嬢さんに一目惚れしちまった。それで急遽ここで結婚式とハネムーンをやることにしたってわけよ。」

「まあ何にせよ勝負すればいいんだな!俺と勝負しろ!」

「賭けるものは?」

「俺達の有り金全てで……。」

「ンマ〜理解力の低いガキ。オレはその子を賭けてくれなきゃ勝負してやらねえぜ?」

「くっ……!」

「ンマ〜仲間内で相談しな。」がたっ

 いつの間に昼食を食べ終えていた男は席を外した。

「……ごめんね。私のせいで……。」

「いや、俺があいつに勝つのに必死になり過ぎたのが全て悪いんだ。二人共巻き込んでごめん。」

「取りあえずおれ達も昼食を食べるぞ!食わなきゃ元気でないからな!」

「はい……。」 「うん……。」

 ラーヴァは涙を流しながら昼食を食べた。折角の船内昼食はまるで味を感じる事が出来ず、口に触れたしょっぱい涙の方が味が濃い程だった。

「あの……皆さん。後で自室に……」

「お前もあいつの駒なんだろ!?」

「……その通りです。本当にごめんなさい……。」

「とはいえこの食堂に籠もるわけにはいかないからな。後でおれに教えて欲しいぞ!二人にはおれから伝えておくから!」

「……よろしくお願いします。」

 その後ラーヴァはフリジットに案内され自室に戻った。

「俺は……何を……!」

 全ては挑発に乗り相手の勝負に乗った自分のせいだ。言い訳のしようがない。

(ハンカチを取り返しに行きたいけれど……それはメグメグを賭けの為に利用することだ。)

「メグメグ……。」

 先生のハンカチの為ならメグメグを利用してもいい。昔の彼ならそう思っていただろうが中央大陸の旅を通して彼のメグメグへの心境は少しずつ変わっていた。

「はは……自分の目的の為にあいつを使おうなんて……俺最低だ……。」

 彼は二重に自己嫌悪に浸った。

「……あいつに話をしよう。」

 コンコン

「メグメグ、いるか……?ラーヴァだ……。」

《いるよ!入ってきて!》 

 ガチャ

「メグメグ……。話したいことがあって来た。」

「うん。あっ 立ち話しないで!ベッドに座って良いよ。」

「ん……。」

 二人は椅子に腰掛ける様に足を外側に向けてベッドに座る。

「メグメグ、俺……」

「ラーヴァ君大好き!ハグしよっ!」ぎゅっ

「いや話……。」

「ぎゅ〜が終わったらね。」

ラーヴァはしばらくメグメグに抱き着かれたまま黙っていた。尻尾を体に巻き付けるメグメグのハグは彼女の熱が漏れること無く伝わってきてすぐに体が熱を持ってしまう。

「暑い……。」

「じゃあここまで!元気出た?大抵の辛い事はおっぱいに顔をうずめれば消し飛ぶらしいよ!」

「茶化さないでくれ!大事な……話だから……。」 

「ごめん。話ってのは……さっきの事?」

「うん……。俺さ、あいつと勝負、しない事にした。」

「えっ!?どうして?大事なハンカチ何でしょ!?雪原でもそう言ってたじゃん!」

「うん。大事な物だよ。でも、物の為に人を賭けるって、駄目だよなって思ったんだ。何だかんだいってお前がいなきゃ中央大陸を生きて渡る事は出来なかったしな。」

「ラーヴァ君優しいね。」

「いつもが厳し過ぎただけだよ。」

「でも私はギャンブさんと勝負してほしいな。」

「へ?」 

「ラーヴァ君あのハンカチが無いときっとこの先ずうっと引きずって後悔する事になるもの!ほら今も……。」

 メグメグはラーヴァの涙を拭ってやる。

「必要でしょ?取り返さないと!」

「でも……」

「もし私を賭けに使う事に罪悪感が有るなら、『お願い』って頼んで!私はそれだけ言ってくれれば幸せだから……満たされるから!」

「メグメグ……。」

「ほらくよくよしないで!ギャフンと言わせてやろっ!」

「……うん!メグメグ、俺の私情に付き合わせてごめんな。お願いだ!賭け金になってくれ!」

「うん!」

 コンコンコン

《メグメグさんいるか〜?ちょっと話したい事があるんだ!》

「先輩!入れてもいいか?メグメグ。」

「良いよ!入ってきて!」

「……てかノックって三回なんだな。」

「二回だとトイレのノックだね。」

「……ごめん。」

「私の事「トイレにしたいとかでは無いから。」

「いつものツッコミが帰ってきたね!」

 ガチャ

「失礼するぞ!それから……」

「僕も入らせてもらいます!」

 そう言ってフリジットに連れられてきたのは最初に三人を案内した男だ。

「あ……あなたは……さっきは駒とか言ってすみませんでした。」

「いえ、僕達が駒なのは事実なので……。」

「用があるのは私かな?言ってみて!」

「はい。単刀直入に言います!僕達を救う為の賭け金になって欲しいです!」

「「!」」

「僕達はクァンツェンには逆らえません。恐らく今も仲間の誰かが彼の仕込みに手伝わされています。あなた達が負けたらお姉さんが僕達と同じ様に、いやそれ以上に好き放題される事でしょう。自分が最低な事を言ってるのは分かります!でももう皆限界なんです!どうか助けてください!」

「おれからも!頼む!」

 二人は頭を下げる。

「これはもう勝負するしか無いね!ラーヴァ君!」

「二人共頭を上げてください!俺、勝負します!」

「……!本当にありがとうございます!」

「メグメグさんすまない!」

「いいのいいの!」

「時間を与えれば与えるほど相手が仕込みをする時間が増える。今すぐ乗り込もう皆!」

「はい!」 「おー!」 「行くぞ〜!」

 ――遊戯室――

手打ち式の自動遊球機で遊んでいるギャンブ。しかしその目線は常に出口へ向いている。既に仕込みは完了している様だ。負け犬と愛しの彼女が来るのをひたすらに待っている。

ざっざっ

「!」

赤髪と水色髪が入ってきた。いよいよ覚悟を決めてきた様だ。

「おい、サナタカ。勝負だ。」

「ギャンブだボケ小僧。」

「名字は覚えなくていいと言ってたが、名前は覚えろとさっき言ってたじゃないか。俺達が要求するのはハンカチと……」

「とぉ?」

「この船そしてその船員達全員の解放だ。」

「「「!」」」

「強欲だなおい。賭けるものは勿論分かってんだな?」

「私だよ!あなたが勝ったら一生私はあなたの物。」

「よし来た!賭けは成立だ!オレが用意したゲームで良いなら勝負してやる!」

「ああ。どんなイカサマも暴いてやるよ。かかってこい!」

「ンマ〜素直だねえ!よしお前ら準備しろ!」

「「「ハッ!」」」ざっざっ

 船員達は忙しなく動き始める。遊戯室には何やら巨大な仕掛けが登場した!スタート、ゴールと書かれた床がそれぞれ二つあり、そのスタートの位置には海兵の服を着た人形が乗っかっている!

 「これからお前らには……『自給自足じゃんけん』で勝負して貰う!」

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