第5話:今こそ一つに
「『血継呪術・
プリンス団長の肉体は細身ながらも筋肉質……という風に大半の者には見えている。しかしミアには彼が急激に呪力を解放したために彼があたかも筋肉弾ける巨人の様に感じられた。
「『攻撃聖術・怒りの小槌』。」
ミアは呪力によって小さな槌を精製した。灰色に輝く呪力の槌は銀を思わせる繊細な美を放つ。プリンスも王家に伝わる剣を抜いた。……どうやら第一ラウンドは近接戦によるものらしい。
「『王の天誅』!!」
「ハアアッ!」
ギャイイイン!
上から剣を振り下ろしたプリンスと下から小槌を振り上げたミア。
ウ オ オ オ オ !
衝撃波が生まれ観衆達は吹き飛びそうになりながらも湧き上がる。剣の先端を叩いたミアがプリンスの剣をそのまま弾き飛ばしそうになるがプリンスが柄頭の部分で握り直し、再度振り下ろす。ミアは追加の一撃を胴に叩き込む前に回避を余儀なくされた。
ブオン! ガリガリガリ……
床に当たった剣は鉄より硬い床を音を立てて削り取る。ミアはそのままバックステップで距離を取る。
「一撃の勝負は互角ですか……でしたら今度は……。」
ミアは小槌を右側の床に置きプリンス団長の前で祈りを捧げ始めた。
「はーあ!?」
「団長を舐めるな――!」
「ぶっ殺せぇぇぇ!!」
プリンスもこの好機を逃しはしない。そのまま首を刎ねてやろうと剣を横に振るう。
「『強化聖術・脱兎の法』。」
バシュンッ
ミアの体が消えた。
「あれ?どこいった?」 「姿隠すやつ結局使うのかよ!」
「いや……後ろか!」
周りの観衆が完全に彼女を見失う中プリンスだけは彼女をいち早く察知した。
ガギィン! ギャリッ リリリリ……
「は……速い!いつの間に後ろに……!」
「今度は速さ比べと行きましょうか。」
バシュンッ
「くぅ……。」
シュンッ
「読めた!」
ガギィン!
「なら今度は……。」
バシュッ スッ
「横から!?」
ドゴシャッ
「ぐううっ」
バシュッ シャッ シャッ シャッ ビュオッ
「突っ込んできたか!」
ギャリリリリ……
「逃がすか!」
王子はローキックでミアの足を狙う!
「ふうっ」
シュンッ
しかし難なく回避される。3回中2回攻撃を防ぎきったプリンス団長だが彼自身はまだ一度も攻撃を当てられていない。顔には出さないが内心絶望しているのかもしれない。
「団長負けないで〜!」
「チクショー全然見えないぃ!」
観衆も想像以上の防戦一方振りに不安が隠せなくなってきている。少なくとも彼女のスピードについて行くことは出来ないだろうと判断したプリンス団長はその場で止まり、鞘に剣を収め居合の構えの様に剣を左脇腹に据えた。
「皆、よく聞いてくれ。このスピード勝負は次の一回、僕の勝利で終わる!」
この期に及んでもなお強気な発言である。
ウオオオオッ!
「団長にも考えがあるんだ!」
「団長は負けない!絶対勝つ!」
「あの女の脚ぶった切っちゃってください団長!」
(なかなか強気ですね……ですが驕りや見栄というわけではないようです。)
ズ オ オ オ オ ……
プリンス団長は目を閉じる。
「目を閉じた!?」
「団長自信満々だー!」
(呪力感知に集中しているようですね……。視覚と違い呪力感覚は360°全てを見渡せますから、後ろから行っても不意討ちにならないでしょう。)
(しかもその上大胆な発言と態度で観衆の恐怖感を和らげ、応援による強化率を戻した……。さてどう攻めたものでしょうか……。)
ッタン!
辺りを高速で周回していたミアがついに中心にいるプリンス団長目掛けて突っ込んだ。彼女は頭を下げ、前傾姿勢を取ることで風の抵抗を減らす。
「ふんっ!」
小槌を足下へ振るうミア。下段攻撃を防がせてから本命の上段攻撃を繰り出してやる腹積もりだ。
ブンッ スッターン!
しかしなんという事だろうか。プリンス団長は回避も剣による防御もせずその一撃を受け入れたのだ。
「「「……え?」」」
シタタタターン!!
ミアはさらに間髪入れずに腹、胸、首、そして顔面と正中線へ連撃を繰り出す。しかし彼はびくとも動かない!ミアが今度は後ろから叩き込んでやろうと最後に回ると、
「……くかー くかー……。」
彼は寝息を立て始めた!
「な……何で……!?」
ミアの質問に反応しプリンス団長は気だるげに返す。
「ん……あぁ説明しないとか……僕には王の懐っていう防御術があって……気づいたのだよ。別にカウンターしなくてもいいんじゃないかとな……。」
「……そちらの方が疲れてそうだしな。呪力消費も体力消費も馬鹿にならないだろう?僕は仮眠しているから、気が済むまでやってくれ。」
「な……あ……!」
ミアは気付いた。この男は呪力を然程消費せず寝息を立てるほどの余裕がある。一方先程から高速で移動し、聖術の力もキープしている自分はすでに疲れが出ている。
(私の攻撃は……効いていない!)
(痛いいいいいいいいいいいい!!死にそうだ!!実際ガード技を発動しているとはいえ……こんな一撃無効化できるわけない!多分足の骨、それから胸の骨も折れてしまっている!でもやり過ごすにはこれしかない!得意の寝たふりで相手を諦めさせるしかない!)
「……解除。」
ミアは術を解除した。プリンス団長一世一代の効いてないアピールは成功したのだ!
「え……あれ これって……」
「ああ!団長の宣言通りだ!」
「一回で……スピード勝負を終わらせた!」
ウオオオオオオオオオッ! ヒュー ヒューッ
「団長強すぎぃ!」
「お前の攻撃なんざ効いてねぇぞバーカ!」
「イヤでも団長めっちゃ青痣まみれじゃ」
パンバンパンパン
「いっけーいけいけ我らが団長!」
「「いっけーいけいけ我らが団長!」」
「ヨソモノシレモノぶっ殺せー!」
「「ヨソモノシレモノぶっ殺せー!」」
……
会場は一つになり、ヒートアップした応援によりプリンス団長の力にさらなるブーストがかかる!
「スピード勝負は終わったようだな?」
「さて、肉弾戦ではお互い決定打不足なようだし……僕はビームで決めるとしよう!」
(これ以上体は動かしたくない!)
「同じ考えのようですね……。私もそれで勝負を決めようと思っていました!」
プリンス団長は右手の指先を上に、左手の指先を右に向け相手に右手の手のひらを見せるようにして右手の手の甲と左手の手の平を合わせ、ビームの構えをとる。ミアも呼吸を整え祈りを捧る。すると後光が差し始めてきた。
ピュイイイイイイイイイイ……
「正道と邪道、清濁併せ持ちて人初めて王と為る!今二つの道を一つに!」
パァァァァァァァァァァァ……
「主よ……あぁ我が主よ!聖なる光を以って咎人に裁きを与え給え!」
「『
「『攻撃聖術・裁きの威光【
ドギュウウウウウン!!
光と光が今ぶつかり合う!
バチバチバチバチバチバチ!
最初光線による押し合いは拮抗していた。これ程までのブーストがかかってもなお人類最高の壁を超えることはまだできない。
「お、おいどうなってる!?」
「駄目だ、見えない!どっちも強すぎる!」
「正面にいる団長はもっとやべえぞ……!」
「団長がんばえ〜!」
(目をつぶっているのに凄まじい光……!目が潰れてしまいそうだ!)
目からくる膨大なストレス故か、ジリジリとミアの光線がプリンス団長の光線を押していく。
「負けて……なるものかぁ!!」
口ではそう言うが既に最初から全力は出している。いきなり逆転したりなどは出来ない。ここにいる団員達も全力で応援している。ゆっくり確実に近づいていくミアの光線。チリチリと髪が焼けるようだ。しかしそんな時、光線同士がぶつかり弾け合う音に隠れて、ミアの耳にはコツコツという小さな、だが確かな音が聞こえてきた。
「この音はまさか……!」
「「「すぅぅぅぅ……」」」
「団長ガンバレー!」
「!!」
「上の階で伸びてた子達が来たようですね……!」
「勝ってくれなきゃヤダー!」
「頑張れ♡頑張れ♡そんな女に負けんなァ!!」
ジュイイイイン!
「くっ」 「感謝するぞ!」
ここにきてさらなる応援によりプリンス団長の光線が押し返す!この押し合いにおいて初めて彼が優位になった!
「限界を……超える!」
「うおおおおおおおお!!」
「はああああああああ!!」
もはやこの場にいる誰にもどうなっているかは見えない!極めてまばゆい白い光が部屋をも飛び出し、島中を包み込んだ。
……ドガアアアアアン!!
……シュウウウ……
「……どうなったんだ……?」
ホコリの煙が消えていく。立っていたのはプリンス団長だった。
「プリンス団長!」
「やっ やったああああ……ああ?」
……が、一言も発さずに立ちすくんでいるだけでありその体の表面は黒焦げだ。……勝ったのは見えざる一閃 クレイ・ミアだった。彼女はプリンス団長に近づき、前方に倒れ込む彼を支えてやった。
ぼすっ
「あぁ……そんな……。」
「団長が……負けた……。」
観衆達は絶望した。しばらくプリンス団長を支えるだけで何も語らなかったミアに、先にプリンス団長が枯れたような声で話しかける。
「何故……殺さない?」
ミアは表面の煤を払いプリンス団長の目を開かせてやると、ゆっくりと話しだした。
「……私が貴方を倒した技を覚えていますか?」
「裁きの威光……?」
「そうです。貴方は既に裁かれたのです。裁きを受けてなお生きているという事はあなたの罪は死んで償うべきものでは無かったという事です。私がこれ以上手を加える理由はもう……」
「……黙れ!主だの裁きだの……本当にそんなものあると思ってるのか!?結局は聖術も呪術も同じ
「……すみません。本心を隠し主を理由にするのは、あなたにとっても主にとっても……不義理でした。」
ミアはプリンス団長の手を取る。
「私は……貴方に生きて欲しいと思っています。だから手抜きをしました。」
ざわざわ……ざわざわ……
「嘘だろ!?あれで!?」
「ああ……戦ってる僕が一番感じてたよ。」
「プリンスさん。貴方はとても強かった。それは貴方が今まで苦痛をものともせず努力してきた何よりもの証でもありますが……それと同じ位皆さんから慕われている証拠でもあると思います。」
「特に最後の逆転は想定外……想定以上でした。」
「この組織の成り立ちや過去にやってきた事は決して美化できるものではありませんが……貴方はこのような場所でも民を思い、最善を尽くそうとしていた。貴方には王としての器があります。……違いますか?」
「そうだよ!皆団長大好きだよ!」
「団長雑魚じゃん♡……死ななくてよかったぁ!」
団員達はプリンス団長へ声をかける。敗北を惜しむ声はあっても、心からの愚弄はなかった。
「……もしかしたら島の人々には許してもらえないかもしれません。結局人の法による裁きを受ける事になるかもしれません。でも私は貴方に見て欲しいと願ってやみません。」
「この島の未来を……そしてジャニエルがいなくなった後の世界を。」
ざわざわ……
「え……ジャニエルの奴を……!?」
「倒せるのか!?」
団員達は浮足立つ。しかしプリンス団長の声は依然として冷たいままだ。
「あの最後の必殺の威力でも、ジャニエルには怪我ひとつ負わせられないぞ。いくらあれが手抜きでも倒し切るのは無理だ。」
「私もそう思います。私はジャニエルとの戦いでサポートに専念する事になるでしょう。」
「あれでサポーターかよ……!」
「ですが……私の仲間たちはジャニエルの首を刎ねるだけの力を持っています。……間違いなく!」
「……!!」
(目力がなくともここまで説得力を与えられるものなのか!)
ミアと戦ったプリンス団長だからこそ感じられる言葉の重みであった。プリンス団長はついに決心がついたようだ。
「……わかった。今この場を持って少年自警団は解散する。僕達の事で無駄に時間を使わせるわけにはいかないからな。」
「皆ここまでついてきてくれてありがとう。武器を放棄して各々自由に生きてくれ。責任者は僕だ。僕が皆に危害が及ばないよう責任を持って人々との落とし前をつける。」
「とはいえまずは僕が正面切って行かないと危ないだろうから、一階で待機しててくれ。これを最後の団長命令とする。」
「団長……ってもう団長じゃないのか……。」
「今までお世話になりました!」
元団員達は2階を後にする。場に残ったのはプリンスとミアの二人だけだ。
「……さて、何の理由だ?僕の手を未だ離さないのは。」
プリンス団長はミアに止められ動けないでいた。
「貴方は呪術や聖術を
「私の故郷、北方大陸にある宗教都市『リネン』も既にドラゴンの占領下にあります。私の同胞達は皆敬虔なる信徒であったにもかかわらず今もそこで理不尽にも苦しめられ続けています。」
「私もかの竜が来た時一度だけ、主の存在を疑ってしまいました。その結果私は故郷を追われ、色々あってここに来ました。」
「……今はいると信じてるのか?そんな事があったのに。」
「はい。私は考えたのです。故郷を追われ、築いてきたものを取っ払われ……何が自分に残っていたか。」
「私に残っていたのは……呪力そして聖術だけでした。私はその時思ったのです。この力は理不尽に抗うために与えられたものであり……これは誰かを
「ポジティブシンキング極まれり……と思ってしまうな、僕は。」
「ふふっ そうかもしれませんね。でもそう思うと呪力をほとんど持たずに生まれてきた人達の分も私には戦い続けなければならないんだ……と思って、生きる気力が湧いてきたのです。もちろん呪力の無い人もまた別の役割があって生まれてきたとも思っていますが。私の仲間の皆さんは私より呪力は少ないですが、私に決してできない事が出来ますからね。」
「役割……か。」
自分の役割はここで責任を取って死ぬことなのだろうか……或いは自分にも王として振る舞う役割が与えられているのだろうか……プリンスは思索する。
「私からは以上です。同じ根源を持つ力を使う者として思うところがあったので少し自分語りさせてもらいました。」
ミアはプリンスの手を離す。気づくとプリンスの体はとても軽くなっていた。
「おい。僕の体に何かしたのか?」
「はい。回復と私からのお
「……胸が苦しくなるくらい、本当に優しいな。ところでそのお
かつかつかつ……
「ミアさん!無事でしたか!?」
「団長ぉ!バトルは終わったのかぁ!?」
「説明します!カルマ副団長はラーヴァさんに怪我を負わすも敗北!ラーヴァさんに自分を殺すよう申し出ましたが断られ」
「自分の口で言うから言うんじゃねぇ恥ずかしいだろうがぁ!!」
「も、申し訳ありません!」
3階にいた者達が降りてきた。
「報告ご苦労。こちらも負けてしまったよ。」
「……あぁ、そういえば、副団長であるお前の判断を仰がずに団を解散させてしまった。すまないな。」
「まぁそこは団長であるお前の権限だから問題ねぇよ。でもそっちも負けちまったかぁ。」
「……んでも、アイツを倒すなら団長を超えるくらいできねぇとだしな、団長には悪ぃけどそこのお姉さんが勝ってよかったぜ。」
「ラーヴァさん。怪我の治療をしますからこちらへ。」
「お願いします!」
「このアジトの出口から南西に進むと一番大きな村が見えてきます。所要時間は我々の足で大体2時間程です。我々は先に移動していますね!」
カルマ達は合流後軽く会話しすぐに一階へと降りていった。ラーヴァ達は治療で数分ほど遅れてから自警団のアジトを出ることとなった。
――アジトの外――
パタパタパタ……
空はもうすっかり夕方になっていた。鳥達が巣へ向かって行くのが見える。4年前の出来事もあり、ラーヴァはあまりこの赤焼の空が好きではなかったがカルマ達との因縁を解消した今日ばかりは晴れやかな気持ちで、小さい頃持っていたノスタルジックな気持ちを持って村に向かう。朝の時の様に高速移動して直ぐに向かうという案をラーヴァが出したがラーヴァ本人の血の量は回復しきっておらず激しい運動は避けたいとミアが診断したため却下となった。
「……あ、『水切り種花』だ!」
ラーヴァは路傍の花を見つける。アジトから村へ向かう道は比較的整備されているようだ。影というのは明け方と夕方が最も伸びるもので、二人の影は近くにポツポツと生えている木にまで届いている。
「水切り花……聞いたことはありますが実際どんな花ですか?」
ミアはラーヴァの話に興味を持ったようだ。
「えっとですね……春から夏にかけて7つの花びらを持つ白い花を咲かす植物でして、生命力もまあまあ高くて瓦礫の間なんかにも咲いてたりするんですけど、それ以上に特徴的なのが種の形状でして、種が平たくて薄くなっているんですよ。種が一定以上大きくなると、頭花が垂れてきて、横に向かって種を発射するんです!道中川があっても、水を切って小川程度なら渡りきってしまうその様子を見て、昔の人がこの名前を付けたそうです!」
「湿っていて川や池の多いこの島の気候に合った花なんですね。」
「そうですね!この島の代表的植物、そして苦難を乗り越える者の象徴として王家の紋にもデザインが取り入れられているとか!」
「ラーヴァさんは博識ですね。」
「えへへ……まあ先生に教えてもらった事の受け売り何ですけどね……。」
「ほとんどの知識は受け売りですよ。自分から何かを発見して新たな知識を生み出せる人等というのは、ほとんどいません。そしてそういう人たちは得てして既存の知識をよく学んできた人たちです。知識を得ることは第一歩、それを説明できるのはさらにもう一歩進んだ証だと私は思いますよ。」
「ミアさん……。」
「あぁ、すみません!昔からの習慣からか、なんというか何を喋るにも説教臭くなってしまって……。とにかく、今ラーヴァさんに花の事を教えてもらって、楽しくてためになったと伝えたかったんです!」
「本当ですか!ためになったなら良かったです!」
(人に教えるのって楽しいな……。先生も楽しかったのかな……?)
沈みゆく夕日に照らされ、二人の影はどこまでも伸びていった……。
――村――
「……〜!!」
「……〜!!」
二人が村の前までつくと何かを言っているかは分からないが怒鳴り声と思われる声が聞こえてきた。
言われている相手は勿論元少年自警団の少年少女達だ。
「ふざけるな!今更許されると思ってんのか!」
「友達を返してよ!」
元少年自警団のメンバーは返す言葉もない。ひたすらに人々の怒りを聞き、自責をしている様子だ。矢面に立っているプリンスは石や物を投げつけられ、せっかくミアに直してもらったきれいな顔もすっかり腫れ上がっている。
「それくらいにしてくれ!」
ラーヴァが口を挟む。
「今は島のみんなで団結することが大事なんだ!」
「何だよ急に!」
「ああ!?……ってラーヴァか!」
村の子達はラーヴァとミアを見ると大人しくなった。二人が少年自警団解散の立役者である事は既に知られているらしい。村の子達の代表が前に出て話しだした。
「俺達はお前らの事を許さないし、今までの事を風化させてやろうなんて欠片も思っちゃいない!……でもラーヴァの言う通りだ!今は島の人間同士で争っている時じゃない!取り敢えず村の中に入れ!……ラーヴァと連れのあなたもどうぞ。」
元少年自警団のメンバー達と一緒にラーヴァ達も村に入る。すると存外村のムードは怒り一色ではなく、寧ろ中の方はお祭り騒ぎだった。人々は火を囲い楽しげに踊っている。
「あれ?意外とお祭りムード?」
「ああ。人類最高戦力と名乗る二人が島中のドラゴンを倒して回ったからな。俺も祭りに参加したかった。……でも奴らにヘラヘラした表情であたかも何もなかった様にされるのは我慢ならなかったから、少々説教させてもらった。」
「成程。そういうことだったのですね。」
たたたた……
眼鏡をかけた緑髪の男児が駆け寄ってくる。
「ラーヴァお兄ちゃん!奥来て!めっちゃドラゴン転がってる!」
「めっちゃって何匹だ?」
「え、ええと……と、とにかくたくさん!いいから来て!」
男児に連れられ二人は村の奥まで行く。するとそこには大量の小型ドラゴンの残骸が積み重なっていた。その側では既に子供達にご飯をよそられているビークとフリジットの二人がいた。
「ラーヴァ君!ミアさん!少年自警団の人達とも和解できたんだな!良かったぞ!」
「はい!フリジットさん!ところでドラゴンって何匹倒しました?」
「32匹だよ!話によると1体倒されたから31体のはずだけど……。」
「いえ、あの後すぐ補充されたのでこれで合ってます。……小型ドラゴン全滅です!」
「おお〜!倒し残しが無くて良かったぞ〜!」
「……凄い。あそこから出てから3時間と少しくらいしか経ってないはずなのに……島中を回って全員倒すなんて……!」
「ウェへへ。あっ立ち話も何だから二人も座って!」
ビークは照れ笑いを見せた。彼は二人を椅子へ誘導する。
「二人の分のご飯もあるよ〜!」
「では、有り難く頂きます!」
「俺も!いっぱい食べて血を作らなきゃ!」
「ミアさんの服も乾いてたから小屋から回収しておいたよ!」
「本当ですか!ありがとうございます。ラーヴァさんもこの服を貸していただいてありがとうございました。」
ミアは2分もしない内に修道服に着替えて戻ってきた。ラーヴァ達がご飯を食べ始めたのを見て二人も食べ始めた。二人が来るのを待っていたようだ。
「こ、こんなに食べちゃっていいのか!?おれご飯食べるの好きだから止まんなくなっちゃうぞ!?」
フリジットが配膳係の子供に質問した。
「体大っきいからちゃんと食べないとダメです!」
「それじゃ遠慮なく!うおおっ」
モグモグモグモグ……
「お兄ちゃん見てて気持ちいい食いっぷりだね〜。」
フリジットは見た目に違わず大食漢のようだ。
「お米も意外と美味しいね!ボクパン派だったんだけど乗り換えちゃおうかな……?」
「パンって小麦とか大麦から作るやつですよね。この島はお米はよく取れるんですけど小麦は全然育たなくて……どんな味なんですか?」
「う〜ん、味……ものにもよるけど甘い系……なのかな?ボクのとこだと中にチョコレートを入れたやつが大人気だったよ!」
「ああいうのをパンとして紹介するのはどうなのですか?少々疑問に感じます。やはりパンと言えばあの硬い『杖パン』でしょう!」
「うわ〜お……ミアさん原理主義者……でもお米はしょっぱいのと合わせるのがベターっぽいけどパンは甘いのと合わせるのがベターじゃん!チョコと合わせられるのもパンの強みの一つでしょ!」
「とにかくパンって色々あるんですね!……あのところでチョコって……。」
「あっチョコって言うのはね!カカオの……」
「楽しそうだなぁ!オイラ達も混ぜてもらっていいかぁ?」
カルマとプリンスの二人が来た。
「おう!皆さんが良ければだけどな!」
「ボクは大丈夫だよ!」
「私も皆さんとお話したいです。」
「……!」
フリジットは口いっぱいにご飯をかきこんでいるため喋られない様だが了解のハンドサインを見せた。
「よしじゃあ遠慮なくぅ!ホラ、ガンバレヨォ」
「で……では失礼する。」
プリンスはミアの右隣に座る。
「なっ!?」
ぎょっとするビーク。空いていたミアの左隣をビークは急いで取る。今までは大きな台を挟んで北にフリジット、東にラーヴァ、南にミア、西にビークと座っていたがここに来て南側が急に狭くなった。カルマは空いた西側の席に座る。
「説教は済んだのか?カルマ。」
「取り敢えず祭りのムード壊すなってことで解散したぜぇ。オイラや平の連中は社会奉仕ってことで、これからの人生を償いに使ってく予定だぁ。」
「プリンスさんは!?」
ビークが聞く。
「何だかんだ言って王家の血筋だし……来てくれたあんた達も一生ここにいてくれるわけじゃねぇだろぉ?国の脅威や……後単純に偶に大量発生する危険生物共との戦いにプリンスは必要だ。小さい頃から教育を受けてる分復興でも期待できるしよぉ。そこら辺は村の連中も分かってくれた。まぁ今後次第だけど直ぐに処刑されるってのはなさそうだなぁ。」
「よかった!ラーヴァ君からの聞きづてだけどプリンスさんこの国の為に頑張ってた人みたいだし!またこの国の為に働けるんだね!」
(本心なんだろうけど状況が状況なせいで《お前はミアさんを追うな》って言ってるように感じるな……。)
「良かったです。……あれ?」
ミアはプリンスの手を握る。
「ッ!ど、どうした急に……?」
「呼吸が荒いようでしたので。私の聖術で治しましょうかと……。」
「『強化聖術』……」
ドックン ドックン ドックン ドックン!
「ビークさん!?心臓の様子がおかしいですよ!?不整脈ですか!?」
「う、うん!そうかもしれない!」
プリンスにミアを取られまいとビークは鼓動を強くしてミアを引きつける!
(えっ今自分の意志で心臓動かしたのか!?化け物すぎるだろ!)
「おっとぉ まさかの三角関係かぁ〜?」
「「茶化(すな)(さないで)!」」
「カルマさん。呼吸器の異常も不整脈も死につながることがありますから、茶化すのは良くないですよ。」
ミアは優しめにカルマに諭した。
「アッ サーセン。」
「でも三角関係という発想はいいですね。」
「「えっ!?」」
ラーヴァとカルマの二人は驚愕した。ミアは席を立ち二人の後ろに行ってから手を握り直す。
「確かに私達三人で三角形になって術を発動すれば呪力の漏れが減らせて効率的かもしれません!ほら二人も手を握り合って下さい!」
((クソボケすぎんだろ……!))
「手を握るよ!プリンス君!」
「お、お願いする。」
がしっ ギリギリギリギリ ミチミチミチミチ
その怪力で握り合う両者。強張る上腕二頭筋など見えていないミアは柔和な笑顔のまま聖術を行使する。一応プリンスは顔の怪我があったので完全な無駄でもないようだ。
(顔が良くても牽制し合う様は見るに堪えないな、カルマ。)
(だなぁ。)
「肉傘海月焼き上がったよ〜!」
大皿に丸々1個乗せられた肉傘海月を少年が運んでくる。青白い体色で見た目はあまり美味しそうでない肉傘クラゲだが焼くとすっかりその色味も取れキラキラと肉汁が漏れ出してくる。
「うおおおおおおお!!肉きた!」
フリジットが久しぶりに口を開いた。
「肉傘海月!?取ってきたのですか!?」
「うん!ボクとフリジットさんでね!せっかくだからと思って!皆の分もあるよ!」
「フリジットさんに冷凍保存してもらってる分もあるから後数日は食べれられるよ!」
「これはこれは……干物にしても美味しいのでしょうか?」
「ああ!美味しいぞ!でもそれ以外にも肉傘海月には良い食し方があってだな……」
「えっボクも気になる!ボクにも教えてよ!」
「え?いやこれは実は特定の人にしか伝授できない国の秘匿情報で〜……」
絶えず取り合いをする二人。
「お兄ちゃん大っきい!後で肩車して〜!」
もぐもぐ……ごくんっ!
「勿論だ!」
「僕も僕も〜!」
子供達と和気あいあいとした雰囲気を醸し出すフリジット。
少しずつ北の方に移動していくラーヴァとカルマ。
「せっかくですから私とビークさんでどちらが上手く作れるかというのも……」
ピタ
長らく続いた談笑だったが、突如してミアの口が止まる。
「……皆さん村の入口へ!何かが迫ってきています!」
「「「「「!!」」」」」
――村の入口――
「団長すっかりあのお姉さんにゾッコンだったね……。」
「うん。だってきれいだったもん。それにあれくらいの年のお姉さんこの島に全然いないし……。」
元少年自警団のメンバー達はミアの話でもちきりだ。このような極限環境で過ごしてきた少年達にとって年上のお姉さんは魅惑の麻薬だったのだろう。
「団長キョドってて可愛かった♡……何で私じゃないんだよ!説明しろハゲぇ!」
「説明します!」
「何を説明するのだ?」
「「……へ?」」
ビュアッ
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