第18話

 ガリタ食堂の日替わり、人気の甘辛のタレが豚肉に絡まる生姜焼き定食に、やってくるお客さんの数もドッと増える。その客の中に深くフードを被る、黒いローブのお客が久しぶりにいつもの奥の席にいた。


 どう言ったらいいのかわからないのだけど、あのお客さんはやっぱり先輩に雰囲気が似ている。そう思ってしまうと、そのお客が気になり、ついつい目がいってしまう。


 その私の様子に気付いたチル女将さんが、私の側にススッと寄ってきて耳打ちした。


「ルーチェちゃんはあの、たまに来るお客さんがタイプなのかい? おしぼりとお冷持っていくついでに話しかけておいでよ」


「お客さんに話しかける? そんなこと、恥ずかしくて出来ませんよ」


「忙しい日に何をやる気だ? ルーチェ、お袋、ニ番、三番さんの生姜焼き定食が上がったよ」


 女将さんにはからかわれて、ニックには怒られる。

 やっぱり、勘違いをしているチル女将さんに「ほら、お客さん帰っちゃうよ。会計に行っておいで」と背中を押された。


「ありがとうございました、またいらしてください」

「……ああ、また来る。今日も美味しかった」


 と、帰り際に黒いローブのお客が言ってくれた。

 フードに隠れてお客の口元しかみえないけど、声、身長だって違うのにお客さんは先輩を思い出させる。


 先輩に会いたいな、会って話がしたい。

 学園の頃のように魔法の話を先輩から聞きたい。

 


 +

 


 午後二時、カリダ食堂の入り口の前には「本日終了」の看板が立てかけられた。甘辛のタレがかかる生姜焼きは予定より早く完売した。


 子犬ちゃんは終始カウンター席の隅で、お行儀よくしていて、たまに頭をなでられて「ワン」とお客さんに挨拶していた。


「疲れた、今日もよく働いたね」

「はい、働きました」


「お袋、親父、ルーチェ、お疲れ……はぁ、疲れた」


 チル女将さん、ニックと洗い物を終えて、店のテーブル席に座ると、マカ大将さんはノートを片手に厨房から出てきた。


「お疲れさん、今日もすごい列だったな……次回の生姜焼きのときは、もうすこし豚肉の仕入の量を増やすか?」


「そうだね、父ちゃんそれがいいよ」


「俺もそう思う。あとハンバーグ、カツ丼のときも仕入れを、増やしたほうがいいと思う」

 

「あぁ、そうだな」


 大将さん、女将さん、ニックはテーブルで仕入の話をはじめた。以前より食堂に来るお客が増えたのは、最近発行された港街新聞に「ガリタ食堂のおいしい定食特集、一番人気は生姜焼き!」と記事が掲載されたから。


 記事を読んだお客さんがどっと来て、店の前の行列がいつもよりも多かったけど。子犬ちゃんを見ても、誰も飼い主さんの話はしていなかった。


 ――まさか、港街から船で出航してしまったとか?

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