失われた世界の再興
三八式物書機
第1話 世界の終わり
それは突然だった。
アジアを起点に新型ウィルスによる感染病が猛威を振るう。
ウィルスは空気感染をする為、感染率は限りなく100%に近い。
だが、致死率は限りなく0%に近い。
これだけならば、危険性は無いように思える。
しかし、そうではない。感染すれば、人は人で無くなる。
新型ウィルスは体内に入ると遺伝子を蝕む。
やがて、改変された遺伝子を持った細胞が増殖を始め、人の細胞は入れ替わる。
そうなると自我は失われ、体さえも人の形から変容する。
つまり、生物としては生きているが、人ではない何かに変わってしまう。
怪物病
そう名付けられた感染症は世界中が予防対策を取るも無駄であった。
世界中の人々が怪物になるのに1年も掛からなかった。
その限られた時間の中で幾つかの国々は人類が滅亡した後の計画を立てた。
それは日本も同じだった。
日本再興計画
日本政府は総力を挙げて、計画の実行に尽力した。
15年の月日が経った。
日本人は滅亡した。
朝霞駐屯地の地下。
かつて、核攻撃に備えて建設された巨大地下シェルター。
その中は改造され、幾つかの区画が設けられた。
元々、地下水から飲料水を作るシステムなどが構築されていたが、野菜を育てる人工プラントや全自動で豚や鳥を飼育する区画などが設けられている。
これは長期間、ここで人が生活する事を前提にした食料生産システムであった。
これらを含め、地下シェルター全体を管理するのが、量子コンピューター『フジヤマ』とその上を走る人工知能『オモイカネ』である。
完全自動で地下シェルターは運営されていた。
そして、その核とも言えるシステムが人工子宮と全自動保育システムである。
人工子宮は冷凍保存された遺伝子を用いて、人工授精と出産を全自動で行う。そこから産み落とされた子どもを全自動保育システムが育成をする。
ただし、ここで生産されるのは人間ではない。
ただの人間を生産してはウィルスが蔓延するシェルター外では感染するだけだからだ。
そこで研究者は遺伝子の掛け合わせを行った。
彼らが研究している中に置いて、新型ウィルスは人のみに感染、発症した。
そこで人の遺伝子を基盤として、感染の恐れが少ない猫や犬の遺伝子を掛け合わせ、新型ウィルスに感染しない個体を作り上げる事であった。
生命倫理に大きく抵触する行為だったが、人類滅亡の危機の前には誰もが最後の望みとして、そこに全てを賭けた。
新たに出来た生命にはこう名付けられた。
新人類
朝霞駐屯地地下シェルター居住区
そこには猫耳をピクピクさせる金髪の少女が居た。
彼女はタブレットPCでゲームをしている。
そこに館内放送が流れる。
「1期生。ハンガーに集合」
その放送に彼女は慌てて、タブレットPCを置いて、駆け出す。
その場には猫耳に猫尻尾を持った少女達が集まっていた。
皆、一様に陸上自衛隊の作業服を着ている。
整列した彼女達は点呼を取る。
「第1分隊、総員、集合」
「第2分隊、同じく」
「第3分隊も同じくにゃ」
総員が揃ったのを確認すると彼女達の前に立つ白髪の少女が話し始める。
「皆、ご苦労。我々は日本再興計画に従い、この数か月、準備をしてきた。オモイカネが15年を掛けて、調査してきたデータをチェックした結果、我々はついに外へと調査に出発する事が決定した」
その言葉に皆から声が漏れる。
「調査開始日は三日後。計画書はこれより配布する。皆はこの計画書に沿って、調査を実施して貰う。我々の行動の成否が日本の再興に繋がる。心して掛かれ。以上だ。ブリーフィングは明後日、行うからな」
データで配布された計画書を少女達はスマホで眺める。
計画の立案は全てオモイカネが行う。
少女達は計画に従って行動するのみであった。
現在、再興計画は一部の失敗を修正する必要があった。
それはかなり致命的な失敗であり、早急に改善の必要があった。
それは雄型の新人類の生産に失敗した。
雌型のデザインは成功したが、何故か雄型は正常に生産されず、破棄が続いている。オモイカネは幾度も調整を試みるも、既存のデータでは不可能であり、尚且つ、修正に必要な遺伝子情報も無かった。
雌雄が揃っていなければ、新人類としては今後の自然交配による繁殖活動は不可能であり、やがて、人工子宮が老朽化した場合、その時点から新人類すらも絶滅してしまう。
オモイカネは将来的に新人類が繁殖可能なように雄型の生産を開始したいと考えており、その為の遺伝子データの取得を急いでいた。
方法としては地下シェルター内にある遺伝子情報とは違う遺伝子情報の獲得。当時、様々な研究施設で新人類用の遺伝子情報の作成が行われており、未取得の物が多く存在しているとオモイカネは想定していた。
それとは別に新型ウィルスに耐性を持つ人間の遺伝子。もしくは汚染されていない人間の遺伝子であった。
最優先課題として、これらの探索をオモイカネは命じている。
無論、生活圏の拡大も必要とされる事から、駐屯地周辺の開拓も計画には入っている。
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