第3話
魔王は自信満々だったものの、その勇気は上っ面だけ。
なにかの作戦やアイディアに裏付けされたものではありませんでした。
密猟団が出るという場所を聞いて、やって来たものの。現場についてからやっと自分が蛙であることを思い出す始末。
「なんだ、此処はさっきの泥沼ではないか。行ったり来たり、無駄足だな」
「歩いたのはオラだけども。それよりどうするんだべ?」
「まぁ、何とかなるだろう。コチラには優秀で屈強な兵も居るしな」
「へぇ? どこにだべ?(キョロキョロ)」
「うーん、ダメかもしれん」
構えていない時にこそ死神は来訪するもの。森の木をなぎ倒しながら出現したのは、ミノ吉よりも一回り大きな黒い影でした。
その姿はまるで黒塗りの甲冑。目の部分には不気味なモノアイが光り、生き物というよりは巨大な操り人形といった感じのぎこちない動き方をしていました。
「あれは? 魔王軍のモンスターには見えねぇけんども。全身鉄の塊だべ」
「ふぅむ、謎の軍団が使うゴーレムのような物だろう」
アイアン・ゴーレムは背中にカゴを担ぎ、その中にはキノコやら卵やらユニコーンの角やら毛皮やら……色々な収穫物が乱雑に詰め込まれていました。
間違いなく森を荒らしているのはコイツでしょう。
「よし、ミノ吉! 我らの力をみせてやれ」
「やっぱりこうなるんだべか。お袋を悲しませたくはないんだけども」
「勝てば良いのだ。生きているだけじゃ、栄光はつかめんぞ」
それまで緑色だった単眼が赤へと変化し、ゴーレムはガチャガチャ音を鳴らしながらミノ吉の方へと向かってきました。
「エネミーノ存在ヲ確認。ミッション阻害の可能性・大。戦闘態勢ニ移行スル」
腹をくくったミノ吉は、重量級の肉体を活かして肩からぶつかっていきました。
ショルダータックルで相手を揺らし、渾身の力で斧を振るいました。
刃が当たるなり、飛び散る凄まじい火花。
しかしゴーレムの装甲は傷の一つもつきませんでした。
「王様、硬くてダメだべ。岩みたいだっぺ」
「脅威度B。エネミーヲ排除スル」
ゴーレム装甲の胸部が開き、そこから何本もの鎖が飛び出てきました。
鎖はミノ吉に絡みつき、もはや逃げる事すらままならぬ有様でした。
「ええい、こりゃイカン」
何という事でしょう。
デビータは形勢が不利と見るや、ミノ吉を見捨てて逃げ出したではありませんか。
「ちょ、そりゃあんまりだっぺ。何とかしてくんろ」
「ええい、うるさい。役立たずなど知ったことか」
肩から飛び降り、そそくさと逃亡。
しかし、近場の草むらに逃げ込んだ所でふと気付いたのです。
記念すべき新生魔王軍に加わった最初の部下。
それすらも切り捨てるようでは、まさしく蛙畜生でしかないと。
逃げれば命は助かる。
されど、その後の一生は惨めな蛙として生きるしか道はありません。
「逃げる? またしてもか? あり得ぬ! 余は王だ。責任があるのだ。どこまで逃げてもその定めからは逃げられぬ!」
無力な拳で地面を悔し紛れに殴りつけると、デビータは踵を返しました。
今一度、栄光を目指して。戦わなければ勝利はつかめないのですから。
草むらを飛び出すやいなや、デビータはお道化た踊りを披露しながら叫びました。
「やーい、鉄人形。引っかかったな!」
「ビーガガー?」
「そいつは単なる騎馬。乗っていた主はこっちよ。さぁ、かかってこい」
「生体反応ガ完全ニ一致。ターゲット、指名手配ノ魔王。最優先デ捕捉スル」
ミノ吉をとらえていた鎖を切り離し、ゴーレムは黄色く変化した単眼をデビータの方へと向けたのでした。
動きは蛙の方が機敏なれど、歩幅があまりにも違い過ぎました。
追いかけっこをしても勝ち目はありません。
背後からみるみる迫るゴーレム。しかし、デビータに焦りはありませんでした。
デビータは沼の中へと逃げ込み、スイーと泳いで蓮の葉によじ登るのでした。
「やーい、ここまで来てみろ、愚鈍」
「最優先ターゲット……追ウ……ウワッ!?」
足元は沼地。まんまと深い所に誘い込まれた格好でした。ニヤリと笑ったデビータの前で、アイアンゴーレムはズブズブと泥に沈んでいきました。
こうなれば巨体などアダになるだけ。沼地の水面にしばらくは泡がぶくぶく浮いていましたが、やがてそれも無くなりました。
ひと息入れて額を拭うと、デビータは岸まで泳いでミノ吉の所へ戻るのでした。
「おい、無事か。ミノ吉」
「びっくらこいた。本気で見捨てられたのかと思ったべ、モォ」
「バカ野郎、お前にはまだまだ働いてもらわねばならん。魔王第一の部下よ、胸を張るのだ」
後はリーラの家に戻って勝利を報告するだけ。
新生魔王軍の栄えある初勝利でした。
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