勇者パーティーの落ちこぼれを追放した後のお話

クラサ

勇者パーティーの落ちこぼれを追放した後のお話

「突然だがキラト。お前をこのパーティーから追放することになった。」

「.....え?」


突然俺は、勇者パーティーが拠点としている宿に呼ばれた。


―勇者パーティー。それは、国が魔王討伐の為に結成させた、

伝説のパーティーだ。

パーティーの構成は、勇者・騎士・ヒーラー・魔法使いと、

雑用係の計5人。


そんな中に、俺・キラトは雑用係として入らせてもらっていて、

場違いなのは分かっていたが、それでも、今日まで

頑張ってパーティーに貢献してきたつもりだった。

なのに、急にどうして.....!


「そんな.....!俺は今日までこのパーティーに貢献できるよう、

精一杯努力してきたんだ.....!それなのに、どうして急に.....」

「そのことですが.....」


俺の必死の弁解に口をはさんできたのは、魔法使いの少女・ソフィアだ。

彼女は、可愛らしい容姿をゆがませて、俺を冷たい目で見ながら、淡々と告げる。


「正直言って、貴方が行ってきた仕事は、全て私の魔法があればどうにかなるのです。」

「そんな....!毎回毎回、俺は暑かろうが寒かろうが重い荷物を一生懸命運んでっ....!」

「私の浮遊魔法があれば、重い荷物もササっと運べます。」

「俺はみんなの飯だって作っていて....!」

「これでも私、お料理は得意なので。」

「現場の調査だって俺がやっていて.....」

「私の遠隔透視魔法があれば、安全に見ることができます。」


―何でもありかよっ!


「まだ分からないのですか?貴方がしてきたことは、全て私ができることなのですよ。これまで、貴方に仕事がないので、仕方なく仕事を与えていましたが、正直、貴方が危険を冒してまで、勇者パーティーについてくるほどの重要性がないのでよ。」

「くっ!」


なんで!なんでなんだよ!

俺がこれまでパーティーに少しでも役立とうとしていたことは、全部無駄だっていうのか!?


必死になって弁解している俺を、パーティーの奴らが覚めた目で見ているのが分る。


「俺はっ!俺はこのパーティーから離れたらどうすればいいんだよ.....!」

「何を言おうがもう決まったこと。だがさすがに急だからな。自分が今持っている防具や金は、お前に譲ろう。」

「それと、今月の給料もお渡しします。」


最後の慈悲....か。

そんな慈悲ぐらいなら、ずっとパーティーに置いてほしかった。

俺は、悔し涙をぐっとこらえながら、給料を持って、勢いよく宿から出ていくのであった。


―パーティーの奴らに、復讐を誓いながら....








キラトがさった後の宿にて。



「大丈夫?ソフィアちゃん。」

「はい、大丈夫です。あまり良い気分ではありませんが....」

「そりゃそうよね、ソフィアちゃんは優しいもの。」

「そんなことはありませんよ。」


キラトさんが去ったあと、私・ソフィアに話しかけてきたのは、

年上の、私のお姉さん的存在である、ヒーラーのサキさんだ。


「....私、ちょっときつく言いすぎちゃったかな?」

「大丈夫だよ、ソフィア。ソフィアが言いすぎたなら、

俺はもっとキラトに強く当たってしまった。

―ソフィアだけが責任を感じなくてもいいんだよ。」


私のつぶやきに、そっと返事を返してくれたのは、

勇者であり、私達のことをいつも守ってくれている、アイラさんだ。


「ありがとう、ございます。

.....それでも、私がキラトさんを傷つけてしまったことには変わりないと思いますから。」


私は、切なげに緩く微笑む。


―キラトさんをパーティーから追放しようと進言したのは私だ。


だって、キラトさんは何の力も持たない、私達勇者パーティーに巻き込まれてしまっただけの、一般人。私達勇者パーティーと一緒に居たら、いつ死んでしまうかわからない。

それならいっそ、つらく当たってでもキラトさんを追放した方が良いと思ったのだけれど.....


「まぁ、そんな深く落ち込むなよ、ソフィア。なんだかんだいって、

あいつは俺たちとの旅に死なずに堪えてきたんだ。

きっと、とんでもない幸運の持ち主なのだろう。

―そう簡単には死なないさ。」


そう言ってアイラさんは私の頭をポンっと撫でる。


「そうだと、いいのですが.....」


私は、アイラさんの言葉に不安げな返事を返しながら、

きゅっと胸元を握り、キラトさんが去っていったドアの方を見つめる。


「まぁ、あいつは俺らの.....ソフィアの気遣いなんて、まるで気づいていないようだったがな。」


そう声をかけてきたのは、騎士である、アラセさんだ。


「まぁ、良いよ。今月の給料と言っておきながら、沢山金を渡したんだ。

いくら鈍いあいつでも、それぐらいは気づくだろう。」


アイラさんはそう言って、悲しそうに笑う。


―私達勇者パーティーが結成されて、3年ほどが経った。


キラトさんは、私達が旅を始めてから1年が経過してから仲間になったのだが、

それでも、2年という長い年月を共に過ごしてきたのだ。

そんな彼を追放することになって、寂しいという気持ちが強いのだろう。


「さあ、みんな、よく聞いて。」


先程の悲しそうな顔は鳴りを潜め、堂々とした表情を浮かべ、

アイラさんは私達の注目を集める。


「これから俺たちは、魔王討伐に向けて、本格的に動き出す。

だが、俺達には、まだまだ経験が足りない。

今の状態で魔王討伐に向かっても、返り討ちにされるだけだろう。」


アイラさんは、そこでいったん話を区切り、

私達の顔をゆっくりと見渡す。


「だから、できるだけたくさんの人を救うんだ。

魔王の被害の有無に関わらず、困っている人はできる限り救う。

―良いな!」


「異論はないわ。」

「あぁ、ここは勇者パーティーなんだから、勇者様の言ったことには従うさ。」


サキさんとアラセさんが口々にそう言う。


「ソフィアもそれでいいな?」


最後に、返事をしなかった私の方を見ながら、アイラさんが同意を求めてくる。


「.....もちろん。私はアイラさんやサキさん、アラセさんが良くていうのならば、たとえ地獄の果てでもついていきます。」

「ははっ、縁起が悪いぞ?ソフィア。」


私達のやり取りに、サキさんとアラセさんがどっと笑う。

そして、つられて私たちまで笑い出す。


―キラトさんを追放させた後なのに、こんなに笑ってもいいのかとも思ったけれど。


それでも。今が楽しくて仕方がないから。

キラトさん。私たちはいつでも、あなたの幸せを願っているんですよ.....?


きれいごとだって思われても。

貴方の幸せは、私達の幸せです。















それから、1年後。


勇者パーティーは、様々な国や地域を回りながら、

人助けをしていった。

そして、そろそろ魔王討伐の踏み出そうと話が固まってきた。


キラトさんが居なくても、何とかなるなーと思い、

だんだんと、みんながキラトさんの話をしなくなってきた時.....


「お前ら!勇者パーティーだろ.....!」

「「「「?」」」」


突然、街を歩いていると、背後から勇者パーティーかどうか聞かれて、

私達は困惑しながらも、背後を振り返る。


そこには.....


「キラト!?」

「どうして貴方がここに.....?」

「キラト!お前、元気にしていたか?」


パーティーの仲間たちが次々に声をかける。


「はっ、今更なれなれしくするな!!!」


みんなの声に、キラトさんは声を荒げながらそう言う。


「キラト....?」


突然のキラトさんの荒い声に、アイラさんを筆頭に困惑してしまう。


「俺はお前らのせいで職を失い、新しい職に就こうにも、

勇者パーティーから追い出されたことにより、使い物にならないと言われる始末.....今更俺になれなれしくしたって、俺がお前らの仲間になんてならないんだよっ!」


「...は???」


思わずといった感じで、アイラさんはつぶやく。


「ははっ、何も知らないなんて言わせないからな?

どうせお前らも俺の力を手に入れたいから、なれなれしくしてきたんだろう?」


「いや、ちょっと待ってください。先に話しかけてきたのは、キラトさんの方では.....?」


「......うるさいいんだよ!小娘が!!」


いや、その間は一瞬確かに?と思ったんじゃないのか.....?


「とにかく!!今日お前たちに話しかけたのは、仲間になる為じゃない。

―復讐のためだ!!!」


なんかずいぶん1年前とキャラが変わったな....


そう思っている私をよそに、キラトさんは、

「いでよ!我使い魔たちよ!!」と、中二病全開の言葉を発する。

―すると


「お呼びしましたか!主様!」

「―主、前々から話していた勇者パーティーはそいつらか?」


キラトの影から二つの影が出てくる。

元気いっぱいな羽が生えた妖精(?)と、

冷静に私たちのことを見極める、猫耳(?)のお姉さんだ。


こ、これはまさか.....!


「こいつらは俺の使い魔である、魔」

「―魔獣人ですよね....!」


私は、珍しく食い気味で、キラトさんの話を遮る。


「おい、小娘。主の話を遮るな....!」


猫耳のお姉さんが注意するが.....


「ソフィアちゃん、魔獣人って何?」


サキさんに質問されたので、猫耳のお姉さんの話を無視することにした。


「魔獣人とはですね、見た目は獣人なんですけど.....

その体内には、とんでもなく強い魔力が込められているんですよ~」


私は、魔法使いとして、同じく魔法が使える魔獣人の話を、興奮気味に語った。


「それに魔獣人って警戒心やプライドが高いので、

なかなか人前に姿を現さないし、その上、使い魔にすることも

かなりむずいんですよね。」


「その通り。それに魔獣人は、一匹だけでも従わせるのは

命を削るほどの代償がある。

でも、俺はそんな代償を払わなくても、魔獣人を従わせることができ、

魔獣人にも好かれやすく、俺の前に姿を現してくる。

―だから」


そこまで話して、キラトさんは話を区切る。


「俺は、お前らと違って`特別‘なんだよ。」


そう言って、勝ち誇ったような笑みを浮かべる。


「さあ、勇者パーティー達。貴様ら、俺たちと勝負しろ。」











「それでは、まずは私から相手いたしましょう。」


そう言って前に出てきたのは、猫耳のお姉さんだ。


「私の名前はサファイア。私の瞳の色がサファイアに似ているということで、主様からなずけられました。さあ、相手は誰ですか?」


「じゃあ、私が行ってもいいですか?」


めったに戦うことができない相手である、魔獣人。

そんな相手と戦えるなら、何が何でも戦いたい。


「ま、いいけど.....殺すなよ?」


そう言って、アイラさんがくぎを刺す。

その表情が怖いほど真剣で、私は思わず不満げな表情になる。


「分かってますよ、それぐらい。」

「はっ?なめられたものね。あんた、全力でかかってきなさいよ。」


猫耳のお姉さん....サファイアさんの一言で、私は目の色を変える。


突然、私の雰囲気が変わったことにより、サファイアさんは

一瞬たじろぐが、すぐに体勢を立て直し、

「あんたからかかってきなさいよ」と、余裕をかます。


―へぇ、いいんだ。


そう思って、ニヤッと笑いを浮かべる私。


私は、空中での魔法攻撃が得意なので、

そっと空中魔法を使い、音もなく地面から離れていく。


「流星群」


私が空に右手を掲げて、一言つぶやくと、

空から、サファイアさんめがけて数多の星が落ちてくる。


「なっ!?」


初めの数弾は、何とか魔法で壊せていたらしいけど、

だんだんと対処できなくなっていき、

サファイアさんはすぐに星々に押しつぶされた。


「サファイア!!!!」


キラトさんの悲痛な叫び声があたりにこだます。


キラトさんが駆け寄ろうとすると、星々の間から、

「ぷはっ」と声を出しながらサファイアさんが顔を出す。


まあ、魔獣人があんな攻撃で死なないとは思っていたが、

元気そうに顔を出すサファイアさんに、少しばかし安堵する。


そして、私は地面に着地し、

星々を魔法で浮かせ、サファイアさんを救出する。


「ソフィアの勝ちだな。」


アイラさんがつぶやくようにして宣言すると、

キラトさんは、悔しそうにしながらも、何も言い返さない。


まあ、私にとってはそんなことどうでもいい。


私は、サファイアさんの元に、キラトさんと、

もう一人の魔獣人が集まっているのを確認し、近寄る。


「では、次はどちらが戦いますか?」



正直言って、まだまだ戦い足りない。

私は、ワクワクしているのを抑えきれず、思わずにやけてしまう。


そんな私を見て、何故だか三人は「ひぃ」と震えあがり、

「お、覚えてろよ!」とキラトさんが言い残し、走りながら去ってしまう。


「何だったんでしょう?あの人たちは。」


私が不思議に思いながらそうつぶやくと、

「さあな」という、アイラさんのどこか呆れた声が耳に届く。


「それじゃ、そろそろ行こうか。」


しばらくしてアイラさんがそう言うと、みんなは横に並びながら歩き出す。

とても、これから魔王を討伐するようには見えないぐらい、

明るい声や表情が溢れている。







ここから、勇者パーティーが魔王に挑み、魔王に圧勝したのは、

また、別のお話。

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