貧しい人
1
タオはナーナを連れてもう一度長老の元へ向かった。自分の考えを改めて聞いてもらうためだった。
ナーナも一緒にいる事で、長老は彼女にもその意思があるのだと理解した。だが自分一人でその決定を下す事が憚(はばか)れる。彼は二人を自宅に待たせ、村はずれのヴァサマの所へ赴いた。
年老いた長老よりも遥かに年齢を重ねた様な老婆は、まるで彼が今日ここに来るのが分かっていたかの様に珍しく外に出ていた。
長老が話しを切り出すまでもなく、ヴァサマは白い目で空を仰ぐようにして彼に話した。
「あの御方が望まれるのであらば、其を妨げてはならぬ。町では病に苦しみ、心に貧しさを抱えた者もおる。役目を果たされたのち、あの御方は再びこの地に戻られるじゃろう。
アガタの神の仰せのままに。ナンサマ、ナンサマ」
長老は黙って頷き、ヴァサマにお辞儀してその場を離れる。その背に向かって
「アガタの御霊に御加護があらん事を」
とヴァサマが声を掛けた。
年老いた長老は振り返り、もう一度深く頷いて、二人の待つ家のへと向かって歩いた。
となり町の富豪の主は、娘の安否を気に掛けていた。
医者にもらった薬で何とかしのいではいるものの、一向に治る気配はない。医者に尋ねても「診た事の無い病」と繰り返すばかりで途方に暮れていた。
たった一人の娘に万が一の事があれば、自分の築いた財産など無に等しい。
主人は町を歩き回り、娘の病を治癒してくれた者には巨額の礼金を支払うと言って助けを求めたが、医者ですら診た事の無い病に誰も救いを差し伸べる事は出来なかった。
行商の男が得意先の家でその話しを聞いた時、「神様でもなきゃ助けられないだろうな」と言った。
ふと、山あいの小さな集落で少年が言った事を思い出した。
(ひょっとしたら。いや、無いかもしれねぇが。もしたまたまだったとしても、治れば大金が手に入る。治せねぇとしても、町に送って行く駄賃ぐらいは貰えるだろう)
そう企てて男はもう一度山奥の小さな村に向かった。
村の入り口近くで、タオは魚釣りに使う竿を作るため適当な枝を探していた。なるべく真っ直ぐで、よく撓(しな)る、これが良いだろうと見つけた枝を友達の分も用意してやるためせっせと切っていた。
荷馬車の音が聞こえ、あの男が村に向かって来るのが見えた。最近ちっとも姿を見せなくなっていたがようやく来たと、タオは切った枝を横に寄せて「おーい」と手を振った。
男はタオに気がつくと馬を停め、「おう坊主、女のお医者はどこだ」と訊ねた。
「坊主じゃない、僕はタオだ」
「まあ何でもいい。医者の所に案内しろ」
偉そうな態度にタオは口を尖らせたが、渋々荷車に乗って道案内をした。
荷車には色んな物が積んであり、まだ行商の途中なんだとタオは思った。いつもならこの村に来る時はほとんど売れ残った物ばかりだったからだ。
ナーナの住む家。看板はないが村の唯一の診療所。
タオは入り口から中に向かって声を掛ける。
「ナーナ、居る?お客さんが来てるんだけど」
男は「どけ、俺が話をする」とタオを押しどかした。
木の扉がゆっくり開いてナーナが姿を現す。
その美しさに男は一瞬押し黙った。ちっぽけな村に越してきた女の医者は、てっきり歳老いた元医者だと思い込んでいたからだ。
「ナーナです。ご用はなんでしょう」
見た目に劣らず透き通る様な声で若い女性が訊ねた。
「あ、あの、ですね…」
気後れしかけた男は頭を振って用意していたセリフを述べた。
「実はとある町に、長いこと病気で苦しんでる娘さんが居るんですが。町医者にも原因が分からなくて…。何とか助けになれないかと、その、お願いに参った次第で…ございます」
最初はもっと威圧的に無理にでも引っ張っていこうと考えていたのだが、彼女を目の前にした瞬間から気持ちが萎縮してしまった。こうして直接話しているだけでも何だか王妃様に、いや、もっと上の位の方にお目通しさせて頂いてるような、そんな畏れ多い気持ちになる。
(俺は何か、とんでもなくバチ当たりな事をしようとしてるんじゃないか。いや、しっかりしろ!うまくすりゃ大金が手に入るんだ)
「それで謝礼金はですね…」と男が言いかけた時、
「分かりました。すぐ参りますので、その方の所へ案内して頂けますか?」とナーナが言った。
(謝礼金の話に興味を示さねぇ……?しめた!こりゃ一人で大儲け出来そうだ!)
男は停めていた荷馬車へと彼女を案内した。
「きたねぇ荷馬車ですいません。ささ。どうぞ柔らかい所に」男は商品である柔らかい布の上を示した。
だがナーナは「いいえ。、私はここで大丈夫です」
と馬の背中を指差した。行商人の男は笑って、
「いやぁ〜よした方がいい。こいつは手懐けるまでに相当苦労した暴れ馬だ。機嫌が悪い時にゃこの俺にまで歯向かって…おいっ!」
ナーナは話を聞かずに馬の鞍に手をかけた。
暴れるぞ! 男は思わず身構える。
ナーナは馬に語りかけながら
「疲れてるのにごめんね。もう一度、私達を町までお願いね」と優しく鬣(たてがみ)を撫でた。
重い荷馬車を曳かされ、駆け足で山を登らされて疲弊していた馬は、垂れていた頭を少しずつもたげて
「ヒヒーン!ブルブル」と元気な雄叫びを上げた。
(こいつ、美人相手だと機嫌がいいな。しかも随分と張り切ってやがる。馬も人間も男ってなみんな一緒だな)
男はナーナの後ろに跨って手綱を持つ。
(いい匂いだ。こりゃたまんねーや)
彼が卑しい感情を抱いた時、「僕も行く!」とタオが声を上げた。
ナーナが「うん」と頷く。
行商人は「ちっ!しょーがねぇなあ。お前は後ろの荷車だ。大事な売り物にキズを付けるなよ!」
と釘を刺し、タオが乗り込んだのを確かめて
「ソイヤー!」と手綱を勢い良く振った。
2
下り坂という事もあってか、荷馬車は快調に駆けて行く。ガタゴト揺れる荷車にしがみついて、タオは初めての景色にわくわくしていた。
町までもう少しというところで、ナーナは馬に向かって何か話し掛ける。
馬はゆっくりとスピードを落とし、やがて「ブルル」と完全に止まった。
「おい。どうしたってんだ」
男がどんなに手綱で叩いても馬は動き出そうとしない。
もうすぐ町に着くというのに、こんな所で疲れやがったのかと男が鞭(むち)を出そうとした時、前に乗っていたナーナが馬から飛び降りた。
「おいおい嬢ちゃん。何しようってんだ」
ナーナは道の脇に生えている木に近寄り、その木陰に座っている老婆に声を掛けた。
「お婆さん、どうかしたの?」
老婆は困ったような顔をして
「町に向かおうと思って歩いとったんじゃが、ちょっと足を滑らせてこのザマじゃ」老婆の膝から血が出ている。大怪我ではないが、歩くのは辛そうだ。
「もう少し休んで痛みがひいたら、またゆっくり歩いて行くさね。お嬢さん、ありがとよ」
老婆は笑顔で言ったが、額に汗が滲み出ている。もう日暮れも近いので暑くはないはずだ。
痛みを堪える老婆にナーナはそっと話し掛けた。
「ちょっと見せてね」
そう言って手を差し延べ、手のひらでゆっくりと傷口に触れないようにかざした。
「良ーくなーれ。良ーくなーれ」
何のおまじないかは分からないが、老婆は娘の優しさが嬉しかった。
すると驚いた事に、傷口がゆっくりと治っていく。
完全に痛みも消えたところで
「もう大丈夫」
とナーナはニッコリ微笑んだ。
老婆はさっきまで痛めていた膝をそっと触ってみた。傷口は何も無かったかのように綺麗になり、立ち上がると前よりもしっかりと踏ん張れるような気もした。
ナーナは木の陰から行商人に声を掛け
「この方も一緒に町まで乗せてください」と頼んだ。
男は首を振って「冗談じゃねぇ。俺ぁ便利屋じゃねえんだぞ。それに、たくさん乗せたら馬だってくたびれちまう」
これまで道具の様に扱い、大して気遣いもしなかったくせに男は頑として断った。
「そうですか…。では、私は歩きます。お婆さん、どうぞ町まで送ってもらって下さい」
男は目を見開いた。
(お、おいおい冗談じゃねぇ。金になるかも知れねぇ娘を残して何のために町まで行くってんだ)
「分ぁかったよ!婆さん、荷車にのりな。悪いが乗り心地は保証出来ねぇ…ぞ」
男が言い終わる前に、ナーナは最初に勧められた柔らかい布の上に老婆を座らせた。
「おいおいおい!大事な商品の上に…」
ナーナは男に笑顔で言った。
「あなたが勧めてくれた所に座らせてもらうだけです。お婆さんは私と同じくらい軽いですよ」
男はやれやれといった顔で
「はいはい。お嬢様の仰せの通りに」
とため息をついて従った。だが何故か、悪い気はしなかった。
荷馬車はみんなを乗せ、町へ向かってゆっくりと走り出した。
町に着いてまずは老婆を目的場所で降ろした。老婆は何度も頭を下げ「神様…」と涙ぐんでナーナの両手を握り、男にも乗せてもらったお礼を言った。
ほんの少し乗せてやっただけなのに、お人好
しな婆さんだ。
そう思いながらも、あんなに人が喜んでいる姿を見るのは久しぶりだった。
男は胸の中にほんのりと温かいものを感じた。
富豪の家は町の少し外れにある。大きな屋敷は町長の家より大きい。
その屋敷を見るたびに世の中やっぱり金だなと男は思うのだった。
辺りはもう薄暗い。男は二人に言った。
「なあ、腹も減ったしもうじき夜だ。今日はどっかで休んで、来るのは明日にしねぇか」
ナーナは少しだけ首を横に振る。
「一刻も早く、困っている人を救いたいのです。私はこのままこちらにお邪魔します。あなた様はどうか休まれて下さい」
何だよせっかちだな。……いやまて、俺が
行かねぇと、謝礼が独り占めされちまう。
男は自分も同行すると申し出た。
ナーナは振り返り、男のそばまでやって来ると
「こちらで大丈夫です。ここまで連れて来て頂いて、ありがとうございました。あなたのお気持ちに感謝します」
そう言って男の胸に手を当てた。
「お、おい。何するんだ…」
触れられた手の温もりが、自分の胸に染み込んでいくようだった。優しく、温かく。忘れていたものを取り戻す様な、そんな温もりだった。
「あ……」
胸の中に燻ぶっていたもやもやしたものが浄化されていく。そんな清々しさを感じた。
ナーナはゆっくりと手を離し
「もう大丈夫」
と言った。
彼女は屋敷へ向かう途中、もう一度振り返りニコッと微笑んでお辞儀をした。
男はしばらくの間、その場で呆然としていた。
3
少年の頃、隣の村に少女がいた。隣とは言っても、ひと山越えた所にある集落だ。
男は休みがもらえると彼女の元に足しげく通った。
家の馬をこっそり連れ出して、少女を森や川に誘ってよく一緒に遊んだ。
少女は自分といるといつも楽しそうに笑ってくれた。彼女はどう思っていたか分からないが、彼は彼女の事が大好きだった。
ある時から、誘ってもなかなか表に出ない事が続いた。体調がすぐれないと言って、顔色もあまり良くない。
時々咳をして、呼吸も苦しそうだった。医者も薬屋も無い村では彼女の体調はなかなか回復せず、医者のいる町へ出て行く体力もなかった。
少年だった彼は町から医者を連れて来ると言って村を出たが、お願いして廻っても遠い小さな集落に赴いてくれる医者はおらず、彼らが喜んで引き受けるようなお金もなかった。
数日後、なけなしの持ち金をはたいて、咳を鎮める薬をようやく手に入れて集落へ戻ったが、彼女は既に事切れていた。
薬があれば彼女を救えたかも知れない。
男の無念は、村へ生活用品を届けるという使命を芽生えさせた。
やがてあちこちの村々からも定期的な行商を望む声が広がる。
「あなたの、人に優しい所が好き」
いつかそう言ってくれた彼女が、きっとどこかで今の自分を見てくれていると願った。
だが栄えた町にはお金持ちも居る。彼らは何不自由なく豊かに暮らし、医者が必要な時はすぐに呼び寄せ高い薬も簡単に手に入れる事ができる。
ある村で、年老いた老婆が病にかかった。その人は少年の頃の自分を孫の様に可愛がってくれた人だった。医者は薬があれば良くなると診断したが、貧しい老婆にその高い薬を買うお金はなかった。
日に日に衰弱し、「ありがとうよ」と言い残して逝った老婆の最期を彼は看取った。
その時から、男はとにかく世の中は金だと思うようになった。金があれば病気も治せる。そもそも栄養に困らないので病気にかかる事も少ない。庭木の手入れも家の改装も他人にやらせるから怪我もしない。
人のためにと思って始めた行商はいつの間にか金をせしめる手段に代わり、安く仕入れて高く売る事で自分のふところを満たしていった。
ナーナに触れられた時、心の奥にしまっていた本当の自分が目を覚ました。
誰かを救いたい。誰かのためになりたい。
誰かに「ありがとう」と言ってもらいたい。
少年の頃、大好きなあの子に
「いつかたくさんの人を幸せにする」
と誓った約束を思いだした。
「すっかり忘れちまってた…」
男の瞳にはいつの間にか涙が浮かんでいた。
それはずっとしまっていた、温かい涙だった。
(たくさんの人の助けになりたいんだ)
あの小さな村で出会ったタオの瞳は、少年の頃の自分とそっくりだった。
4
富豪の家では、すっかりやつれた主が出迎えてくれた。
女性の医者が来ると聞いていた彼はナーナに娘の病状を伝え、
「たった一人の肉親です。お金はいくらでも払います。どうかあの子を助けて下さい」と涙ぐんで頭を下げた。
ナーナは案内された部屋に入り、「しばらく二人にさせて頂けますか」と告げた。
「ああ…、もちろんです」
娘の容体は気になるが今はこの女性のお医者さんに任せよう、と主人はタオを連れて部屋を出た。
ナーナは苦しそうに息をする少女に手を充てがう。
少女はうっすら目を開けるが、もう意識も定まらない様子で危険な状態だった。
ナーナは手を彼女の喉に触れ、ゆっくりと胸の下辺りまでさする。
「苦しかったね。不安だったね」
ナーナは優しく声を掛けながら、同じ様に何度か少女の体をさすった。
ヒューヒューと音を立てていた彼女の呼吸は次第に落ち着き、先ほどよりも目を開けることが出来た。
(かみ…さ、ま?)
少しずつはっきりしてきた意識の中で、少女は光を放つ女神様を見た気がした。
ナーナは手を止め、そっと彼女の頬に触れて
「もう大丈夫」
と優しく微笑んだ。
客間で落ち着かない様子で待っていた主人は、ナーナが階段を下りて来る姿を見て
「先生!…どうですか、娘の容体は…」と心配そうに訊ねた。
ナーナは微笑んで
「水を欲しがっているので、差し上げて下さい。もう大丈夫」と伝え、
「あなたも」と付け足した。
ケトルに自分で水を用意した主人は、ベッドで久しぶりに座っている娘を見て泣きながら抱きしめた。
「父さま、ありがとう。お水、ちょうだい」とはっきりした声で娘がせがむ。
主人は急いでコップに水を注ぎ、あぁ、あぁ、とビチャビチャにこぼしてしまった。その姿を見てクスクス笑う娘を眺め、主人はまた涙を浮かべて照れ笑いした。
お礼を差し上げなければと主人が一階へ降りた時、お医者さんと少年は入り口で靴を履くところだった。
主人は慌てて「待って下さい先生!」と呼び止める。
「この度は本当に、何とお礼を言っていいか…。」
主人は吐息をつくように話し始めた。
「妻が亡くなって以来、私はたった一人の娘に寂しい思いをさせまいと、欲しがる物は全て与えて来ました。妻にも不自由はさせて来なかったつもりですが、それまで以上にせめて豊かな暮らしをさせてやろうと思ったのです。しかし娘は何を与えても、いつも淋しそうでした。
あの子が欲しかったのは物でも豊かさでもない。私の、親の愛だったのです」
ナーナは静かに耳を傾ける。
「それに気づかずに私は、とにかく金が儲かるように、その…、時にはズルい事もしてきました。人の弱みにつけ込んで、法外な利子を付けて金を貸したこともあります。身の回りのことは何でもかんでも人にやらせて来ました。
娘が病になったのは、神が自分に与えた罰だと思いました。でも…」
主人はまた涙を流した。
「悪いのは私なのに。私が病に苦しめば良かったのに…。最愛の娘が苦しむ姿を目の前にして気付きました。本当に大切なのは何かと。豊かさも財産も、そんな物は掛け替えのない人には代えられない。何を手に入れても、あの子が健やかに生きてくれなかったら何の意味も成さないのだと」
ナーナは静かに、否定も肯定もしなかった。ただ一言、主人に伝えた。
「あなたは、ご自身でお気づきになられました。自分にとって、何が一番尊いのかを。それは、何にも代え難い財産です。そしてそれは、決して失われる事のない、世界で一番の宝物」
何度も頷く主人に、ナーナは自分の思いを語りかける。
「私に何かを与えてくださるのであれば、これからはお嬢様も、そしてご自身も、ご自身の周りの人々も、大切に愛してください。それが私の願いです」
ナーナは丁寧に頭を下げ、扉を開けて屋敷を出た。
外には行商人の男が待っていた。
「まだ、居て下さったのですね」
男はポリポリと頭を掻きながら
「あぁ、いやまぁその…。どうしても伝えときてぇと思って」
男は真っ直ぐにナーナを見つめた。
「あんたが俺の胸に触れた時、不思議なんだが暖ったけぇ気持ちになった。それで思い出したんだ。ずーっと忘れちまってた、いや、ホントは忘れたふりをしてたのかも知れねぇが…。
俺もその…、誰かを助けるために、困ってる人が一人でもたくさん幸せになれる様に。そんなふうに、まだ生きれるんじゃねぇかって」
滅多に言わない事を口にしたせいか、男は恥ずかしそうに後ろを向いた。
ナーナはその背中に向かって声を掛けた。
「ありがとうございます。あなたの思いが、私の救いになります。どうかこれからご自身のその想いを、大切になさって頂けますようお願いします」
男は照れくさそうに「こちらこそ…ありがとうございます、でさぁ」と答えた。
屋敷の扉が開いて、主人が駆け寄って来る。
「やっぱりどうしても、これだけは受け取って下さい!」
布の袋には沢山のお金が入っている。
だがそれを見て行商人の男が言った。
「なぁご主人。気持ちは分かるが、この方ぁ人助けに来たんだ。そんなもん受け取ったら、ただの金儲けになっちまう。
その金は、街の人達のためにでも使ってくれ。その方がナ…、ナーナも、喜んでくれるさ。そうだろ?」
ナーナはニッコリと微笑んだ。
「そのように、お願いいたします」
頭を下げた彼女に、主人はコクリと頷いて
「分かりました。そのように致します。本当に、本当にありがとうございました」
と、主人はこれまで誰にも下げた事のない頭を深く下げた。
荷馬車に乗って去って行く後ろ姿を見送りながら、富豪の主人は「かみさま…」と呟いて目を閉じた。
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