人生で一番好きな人

みららぐ

第1話「プロローグ」


俺には、忘れられない「初恋」がある。


「あ、あの、あたし…」

「…」

時雨しぐれ先輩のことが好きです!付き合って下さい!」


そうやって彼女に告白されたのは、俺がまだ高校二年生だった1月頃。

告白される前までは挨拶を交わす程度でしかなかった彼女に、俺は空き教室に呼ばれていた。

正直、こうやって告白されるまでは、俺は彼女のことを何とも思っていなかったし、俺は彼女の名前すら知らない。

だから…


「…ごめん。気持ちは嬉しいけど、付き合うとかはちょっと…」

「!」


俺はその子からの告白を、最初は断った。

そもそも友達ですらない、まともに会話すらしたことのない女と、友達以上の関係になんてなれるわけがない。

だけど、俺がそう言って断ると彼女は…


「…そう、ですよね。ごめんなさい」

「…」

「あ…い、今の告白は忘れて下さい!それじゃあっ…」


泣きそうな顔を隠すようにしながらそう言って、空き教室の出口に急ぐ。

……忘れる必要が、あるのか。

彼女が咄嗟に口にした言葉が少し引っかかった俺は、その瞬間気が付けば目の前の彼女を引き留めていた。


「いや、でも気持ちは本当に嬉しいよ。忘れない」

「!」

「ありがと。告白してくれて」


…正直俺は、女の子にこうやって告白されるのは別に初めてじゃない。

今までにも何度も他の子にこうやって呼び出されては、同じように好きだと言われてきた。

そのたびに俺は、恋愛とかあんまり興味がなくて断っていたけれど。

でも、この子だけはちょっと違った。

俺がそう言うと、彼女は次の瞬間ぼろぼろと涙をこぼして泣き出したのだ。


「!」


俺がその突然の涙に驚いていると、そのうちに彼女が涙を拭いながら言う。


「あ、すみません!あのっ…時雨先輩に、お礼とか忘れないとか、言ってもらえるなんて思ってなくて…!」

「だ、大丈夫?っつか、なんかごめん」

「っ…いえ!私、あの、時雨先輩のこと本当に大好きなんです!」

「!」

「この前のバスケ部の試合も、先輩本当にカッコ良くて輝いてて…だから、あの、フラれても好きでいていいですか?」


彼女は涙目でそう言うと、少し照れた様子で俺を見上げる。

いつもならこんなに積極的には言われないけど、この時は俺が言った言葉のせいもあったのか、名前も知らない彼女はそんなことを言ってくれた。

俺はその瞬間から少しずつ、彼女のそんな健気な想いに惹かれていった。

そして、彼女…七華結ななはなゆいちゃんに告白されたあの日から約1か月後、今度は俺から彼女に告白をして、見事、交際をスタートさせたのだった…。


******


「恋人」と言っても、俺も結ちゃんもお互いに初めての経験だった。

俺は今まで告白されたことはあってもそれをOKしたことはなかったし、結ちゃんも結ちゃんで彼氏という存在を持ったことは無いらしい。

だからお互いにお互いの様子を見ながらのお付き合いで、最初は何ともぎこちない関係だった。


「じゃあ、帰ろ」

「はいっ」


それでも、一応恋人らしく放課後は毎日一緒に帰っていた。

俺はバスケ部で遅くなるけど、基本的に結ちゃんはずっと待ってくれていた。

最初は周りに交際をバラすのもお互いに何だか恥ずかしくて、周りに隠れて校内で会うのはまさに秘密の関係を持ったみたい。


結ちゃんと付き合っていたのは、約半年間。

最初の数か月は周りにバレないようにしていたが、すこしずつ恋人関係にも慣れてきて、そのうちに普通に他の生徒たちがいるようなショッピングモールや遊園地、映画館などでも会うようになっていった。


…今思えば、まさに甘酸っぱい初恋だったな。

彼氏の俺が色々リードしなきゃいけないはずが、何せ俺も初めてのことだらけで、結ちゃんとは正直2人でデートした夏祭りで手をつなぐのがやっとだった。

もっと触りたいと何度も思ったけど傷つけるのも怖くて、結局キスすらできない純粋な恋だった。


でも、俺は今でも覚えてる。

普段はほとんどメイクをしない結ちゃんが、夏祭りで唇に赤っぽいグロスをつけてきたこと。

薄いピンクの浴衣姿を「可愛い」と褒めるのもやっとだった夏祭りの思い出。

一緒に観に行ったホラー映画が怖すぎたらしく、終始俺にしがみついていた愛おしい姿。

初めて見る私服のワンピース姿にドキドキした1回目のデート。

お揃いで買った、1つ500円のキャップ。


重たいかな。

こういうのを「女々しい」って言うんだろうな。

でも、俺はちゃんと今でも覚えてるよ。

貴女から貰った最後の「別れたい」って「最初から好きじゃなかった」ってラインも全部。


もしこの先のどこかで再会出来たら…

もう二度と貴女を離さないって、俺は誓ったんだよ。


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