第4話

 うっそうと茂る森をかき分け、俺は山に踏み入った。


「メニューバー、スグニヨクナリソウの情報をくれ。見た目だとかどういうところに生えているかとか」


【ツヨーイドラゴンの情報はいりませんか?】


「前に倒したことがあっただろう。眼鏡ビームでイチコロだ」


 メニューバーは不服そうな雰囲気を出しながら(顔がないのにどうやってその雰囲気を出してるんだろうな。眼鏡はかけているが)、薬草の情報を表示させた。


「この情報だと、もっと奥まで進まないとなさそうだな。

 仕方ない。面倒だが、このまま分け入って……むっ!?」


 突然の地響き。木々ががさがさと鳴る。

 ズシンとひときわ大きく響いたのは、足音だ。

 木々の上から見下ろすように、ドラゴンの頭(眼鏡装備)がこちらを見下ろしてきた。


「ドーラゴンゴンゴン(笑い声)! こんなところに一人のこのこやってくるなんてバカな人間だゴン! 食ってやるゴン!」


「なっ!?」


 現れたのは、話に聞いていたツヨーイドラゴンだ。

 だが違う。以前俺が倒したことのあるそれとは。


「サイズがデカい……! 前のやつの倍、いや三倍はデカいぞ!?」


【ネズキ。おそらく越冬個体と思われます。冬を乗り越え長く生きたことで成長したのでしょう】


「おい待てこいつら普通は一年しか生きないのか!? この図体で!?」


「ドーラゴンゴンゴン(むせび泣き)! 恋人の一人も作らずに寿命を迎えてたまるかゴン〜!」


「くっ! チートスキル、眼鏡ビーム!」


 ドラゴンの口から炎が吐き出されて、俺はそれを眼鏡ビームで迎え撃った。

 エネルギーがぶつかり合って爆発し、俺はたまらず後ろに吹き飛んだ。


「ぐぅぅ……! チートスキル、眼鏡五点着地!」


 俺は眼鏡に魔力をみなぎらせて、目の覚めるようなすばらしい身のこなしで受け身を取った。

 隣に浮かぶメニューバーが、案じるように尋ねてきた。


【勝てますか?】


「勝てなきゃ困る」


 眼鏡についたほこりを指で払って、俺は返事した。


「でなきゃ、姉の病気に胸を痛める眼鏡っ子が、ずっと笑顔になれないだろう」


 ドラゴンが息を深く吸って、また炎を吐く準備をした。

 俺はそれを見ながら、眼鏡に魔力をほとばしらせた。


「この世界はクソだ。この世界に俺を招いた女神はウンコだ。

 それはひとえに、眼鏡っ子が親愛度MAXになると眼鏡を外してしまう、その一点のせいだ」


 高濃度の魔力の塊が、眼鏡の中にとどまらず表面に浮き上がってくる。

 俺は眼鏡の横に右手を添えた。


「言い換えれば、眼鏡っ子の親愛度をかせぐこと自体は、なんの苦労もありはしない」


 ドラゴンが炎を吐き出した。

 それとほぼ同時、眼鏡の魔力を右手でつかんで振り抜いた。


「チートスキル! 眼鏡ソォォォォードッ!!」


 振り抜く遠心力で魔力は長く伸び、剣の形となった。

 眼鏡魔力の剣は炎を軽々と引き裂き、俺にいっさい届かせはしない。


「こんな森の中で炎など吐きやがって……」


 散らした炎が森に引火して、あたりが赤く染まる。

 炎を切られてひるんだ様子のドラゴンに対して、俺は剣を水平に構えた。


「目当ての薬草が焼けたらどうすんだドチクショウがーッ!!」


「ドラゴ〜ン!?(断末魔)」


 横薙ぎに振った剣の一撃で、ドラゴンは大ダメージを負って倒れ、生じた風圧で森を燃やす炎も鎮火された。

 ぷすぷすと煙を出しながらぶっ倒れるドラゴンを見て、ふと気づいた。


「む、あれはスグニヨクナリソウじゃないか」


 倒れたドラゴンの体の下に目当ての薬草が生えていたので、俺は近寄ってドラゴンの脇腹の肉をぐいぐい押してどかしながら、薬草を採った。


「よし、これで眼鏡っ子のお姉さんも安泰だな」


 自分に言い聞かせるように言うと、メニューバーが茶々を入れてきた。


【彼女の親愛度は、一発でMAXになるでしょうね】


「言うなメニューバー……正直これを渡したくない気持ちもあるが、人としてそこまで欲を優先したくないんだ……」


 がっくりと肩を落としながら帰路に着く俺の肩を、メニューバーはぽんと叩いてきた。カドで。

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