第2話

 空は青空。吹き抜ける風。さわさわとゆらぐ草原。


 ああ、のどかだな。心地いいな。

 こんな場所でごろりと寝転がっていたら、どんな悩みだってちっぽけに感じられて、心がおだやかになるんだろうな。


「……なんて思っていた時期が、俺にもあった……いや思ってないな……単に現実逃避してただけだ……」


 俺はがばりと起き上がった。

 そして高く広がる空に向かって、あらん限りの大声で叫び散らした。


「このクソカスアホンダラ神ーッ!! 眼鏡っ子が親愛度MAXで眼鏡を外すとか、どんなクソ仕様を実装してくれてんじゃボケーッ!!」


 この世界は桃源郷だ。そして同時に最悪のクソだ。

 この世界に転生した俺は、さずかったチートスキルを駆使してさまざまな眼鏡っ子のピンチを救い、好感度をかせいできた。

 その結果が、いざ親愛度MAXのイベントに突入したとたん、みんながみんな眼鏡を外したがるという地獄のような結末だ。


「なぜッ……! なぜ眼鏡っ子は眼鏡を外そうとするッ……! 俺はそのままのきみたちを愛したかったのに、なぜ……むッ!」


「スーライムイムイム(笑い声)! ぼくは悪いスライムだスラー!」


「チートスキル・眼鏡ビィィーッム!!」


「スラァァァァァァ(断末魔)!!」


 打ちひしがれていた俺の前に、スライム型の魔物(眼鏡装備)が一匹現れた。

 俺はストレス発散も兼ねて、チートスキルのひとつを使ってひねり潰した。

 かけた眼鏡からビームを発射する、シンプルだが威力絶大の技だ。

 正直、スライム程度に使うのはオーバーキルもいいところだが、ちょっとスカッとしたからよし。


「まったく、おちおち絶望もしてられん……むっ?」


 なんと、倒したスライムが起き上がり、ぐねぐねと変形しだした。

 眼鏡をかけているあたりが盛り上がって頭になり、手足が生え、胸部にあたる部位がぷるんとふくらむ。

 なんと、スライムは女の子の姿(眼鏡装備)になったのだ!


「スラ〜(感激の声)! きみの力のおかげで呪いが解けて、いいスライムになったスラ!」


 そしてスライム娘は、恥じらうようにもじもじしながら眼鏡に手をかけた。


「お礼に、お兄さんにはぼくのすべてを捧げるスラ……ぼくの裸眼を、お兄さんだけにこっそり、見せてあげるスラ……」


「ガッデェェム!!」


「あっ、お兄さんどこ行くの!? 待ってスラー!!」


 俺はダッシュで逃げた。

 逃げながら、俺は全力で叫んだ。


「メニューバー!! メニューバァァァァー!!」


 叫んだとたん、俺の横の空中にぴったりと寄り添うそうに、ゲームのUIのような文字を表示するウィンドウ(眼鏡装備)が現れた。


【どうされましたか、ネズキ?】


「どうしたもこうしたもあるか!! どうしてこの世界は、モンスター娘まで取りそろえるほど性癖への理解が高いのに! 眼鏡っ子が眼鏡を外すのが最大の愛情表現なんていうクソ設定になっているんだ!!」


【女神様がそちらの世界で情報収集をした結果、「眼鏡はデバフ」なる言説が多数見受けられ、眼鏡を外す瞬間がその人物の最大の魅力であると結論づけたからです】


「このクソ偏向情報収集能力め! 昨今AI学習でももう少しマシな結論を出せるぞガッデム!」


【というか眼鏡っ子のどこがいいかわたくしにはまったく理解できません】


「シャラーップメニューバー!! メニューバーの分際で眼鏡を語るなメーン!」


 クソ女神もムカつくが、一番ムカつくのはこのメニューバーだ。

 分からんことを聞くために逐一呼び出すことになるし、イベント的な場面じゃ勝手に出てくるしでやたら会話する機会が多いのにこの生意気加減だよクソが。

 そのうえ無駄にかけてる眼鏡の質がいいし、しゃべり方は生意気だけどボイスが妙にヒロイン声だしでなんなんだコイツ。


【ネズキ、次の街はもうすぐです】


「言われなくとも分かっとるわタコス! 肉眼でバッチリ見えてんだよポンチョ!」


【肉眼と言いつつ矯正視力ですけどね】


「やかましーわボケェ!」


 こうして、俺は街に到着した。

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