出会いとかそういうもんじゃない
5月某日。日曜日の午後2時、ゴールデンタイム。この大型ショッピングモール1階エレベーター前に用もなく突っ立っている陰キャDKの俺、
……なんで俺ここにいるんだっけ。
確か今年中学生になって急に生意気になった妹に「お兄ちゃんどうせ暇だからついてきてよ」と言われ、来たはいいもののその妹にドタキャンされ現在に至った。はずだ。……本当に俺なんでここにいるの?
そもそも俺はある一点を除いて至って平凡な男子高校生だ。なぜ彼女でもなく、妹に呼び出され、ドタキャンされなければならないのか。たまにイチャつきながら通り過ぎるカップルが憎い。そして気まずい。気まずいのはそうだが……
「なんでここにいるんだよ……?」
”いる”のだ。人ではない、あの世のモノが。そう、平凡な俺のただ一つの非凡なところ。それは、あの世のモノが”視える”ということだ。今までそういうモノはできる限りシカトを決め込んでいたが……。
今日のアレはなんかヤバいのだ。雰囲気が、今までのと違う。
まぁ、あんなのは関わらないのが一番だ。どうせすぐに消える…
「ア゛ア゛ア゛ッ!!!!!」
「っ!なんだなんだ?」
急に発狂したソレは、瞬く間に悍ましい姿に変貌していった。血が流れ出ていた腕は、ガリガリの骸骨のように。白濁してる眼球がはまっていた眼窩は落ちくぼみ、面影のかけらもない。
込み上げてくる熱いものを必死にこらえつつ、アレを見る。
一体何なんだ。ああいったものはこれまで幾度となく視てきたが、姿が変わるのは初めて視た。
「ねぇ」
本当に謎だ。一体何故……?
「ねぇ」
他にもああいう事例はあるのだろうか?俺としては初体験だが。
「ねぇってば!」
思考を走らせるがあまり、かけられている声に気づかなかった。
俺を見つめる真紅の目には、苛立ちが滲んでいる。もどかしく思ったのだろうか、体が小刻みに揺れ、息を呑むように奇麗な白髪のツインテールがゆらゆらと揺れ
る。
……白髪?赤目?え?
そんな俺にはお構いなしに目の前の彼女は口を開いた。
「ねぇキミ、”視える”よね?」
「はい?」
「ちょっと来て」
「あっちょ、まっ」
思いのほか強い力で腕を引っ張られる。俺に拒否権はないのか。
「名前は……?」
「アカツキとでも呼んで。キミは?」
「風神日向。それは偽名?」
「じゃあヒナタ、ボクについてきて」
「拒否権は?」
「ないね」
しれっと質問を流された。その隙にアカツキはどんどん進んでいく。
何だか嫌な予感がしてきた。アカツキは俺の腕を引っ張って……
”アレ”の前で止まった。
「ヒナタ、ここに”何が”視える?」
「か、壁……」
「正直に答えて」
問い詰められるが、なんと形容したらいいのかがわからない。黙っていると「もういい」と言われた。悲しい。俺の語彙力のなさを恨む。なんか最近恨んでばかりだ。
「どこにいるの。指さして」
正直に指をさす。どうせ信じてもらえないだろう。昔から俺以外、誰も”視えなかった”のだから。
突如ジャラ、という音が耳に入ってきた。音の出どころであるアカツキの方を向く。
アカツキは……数珠を手にしていた。そして、小さな唇を震わせナニカをつぶやき始める。
「この
そう唱えると「えいやっ!」と数珠をはめた手をアレの中へ突っ込んだ。
その瞬間、アレは、急にキラキラと光りだし、粉になって上に昇っていった。……はい?
「何あの子……」
「急に変なこと言い出して…髪の色も、目の色もおかしいじゃないの……?」
オーディエンスがざわざわしてきた。それはそうだ。真っ昼間のショッピングモールでいきなり「この穢れたる……」と始められたら誰だってそう思う。
すると、アカツキは振り返り、サーカス団が公演終わりにするような、綺麗なお辞儀をした。
騒いでいたオーディエンス共からは「なんか知らんけどショーなんか?」の勢いで拍手がチラホラと聞こえてきた。
「いくよ、ヒナタ」
「え、あ、あぁ」
アカツキにまたもや腕を引っ張られ、ショッピングモール近くのカフェに入った。
俺はどうなるのだろう。不安になってきた。いきなり白髪赤目の美少女にアレが見えるかと問われ、挙げ句の果てにその美少女はアカツキと名乗り、数珠を手に、アレを消滅させてしまった。
俺がそう考えている間に、アカツキはコーヒーフロートとその店の看板メニューであるであろう、『ふわもちパンケーキ』なるものを頼んでいた。……意外とたくさん食うんだな。
「お前、何者だ」
「感心しないね。ボクにはアカツキっていう名前があるんだけど?」
「……アカツキ、何者だ?」
「ボクはね、探偵だよ」
「は?」
探偵。その言葉を聞くのは何年ぶりだろうか。中学生の頃、「俺は世界一の探偵だ」とか宣っていた時期が……思い出すのをやめよう。
「でもね、普通の探偵じゃないんだ。『怪異専門』の探偵」
「心霊?」
「そう。ああいうもの、この業界じゃ”
「どうやってだよ?」
「企業秘密だよ」
そう言ってアカツキはパンケーキを口に運んだ。何故だか恨めない。顔がいいからか。幽鬼。初めて聞くようで、何処かで聞いたことがある気がする。こんな常識外もいいところな状況に、俺はそこまで疑問を持っていなかった。
「で、本題なんだけど」
「今までのは本題じゃなかったのか!?」
「前置き、的な?」
「長っ」
「うるっさいなぁ!で、本題だよ」
「あぁ、すまん」
「ヒナタ、ボクの助手にならない?」
「はぁ?」
「察したかどうかわからないけど、ボク視えないんだよね〜」
「じゃあ何故そんな職業を……?」
「内緒」
「あ、もういいわ」
「ヒナタにはボクの視える”眼”になってほしいわけ」
「断る」
「うっそ!?なんで!?」
爆速で断る。何故俺がこの訳のわからない奴の助手にならなければならないのか。メリットはないだろう。
「こんなかわいいボクと一緒にいられるのに……」
「自分で言っちゃう系?」
「いや流石に嘘」
「嘘なのかよ!」
疲れる。久々の疲労だ。目の前のコイツは本当に人間なのだろうかと、疑うほどに会話だけに労力を使う。
「ヒナタさ、視えるけど、祓えないでしょ?祓えなかったら、つけ回される。身に沁みてるんじゃない?」
図星だ。反論の言葉も出ない。過去何回かそういうことがあった。視えているとわかったら永遠とつけ回されて大変だった。結局お祓いに行ったんだっけ……。
「ボクの助手になるのなら、そういう存在をボクが祓ってあげる。ボクの実力はさっき見た通りね。で、それだけじゃ不公平だから、ヒナタにもボクの”眼”になってほしいわけ」
思ったよりも……公平な取引なのかもしれない。俺にもメリット、相手にもメリット、つまりはウィンウィン...!あ、違う。おれはこんな可愛い子と一緒にいられるからウィンウィンウィンだ!
「……ねぇヒナタ。今いやらしいこと考えてたでしょ」
「まさか?そんなこと俺が考えるわけがないだろう?」
探偵恐るべし。心まで読めるのか。俺の回答のあともアカツキは疑わしそうな顔をしている。
「もう、決まった?どうするか」
まぁ、決まっている。ウィンウィンウィン……。まあ悪くはない。
「あぁ。助手になってやるよ」
「そう。じゃあこれからよろしくね、ヒナタ」
握手を求めるように、手を差し出してくるアカツキ。
「よろしく」
そんなアカツキに答えるように俺も手を伸ばし、握手をする。
この、欲望のまま行動したこれが俺の人生を後々狂わせるなんてその時は思ってもみなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます